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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

アベノミクス下で庶民の実質賃金が減り続けている理由…一人当たりGDPは2割も減

文=加谷珪一/経済評論家

 整理すると、今の日本経済は期待したほど経済は成長していないが、海外の物価上昇に引きずられるかたちでモノの値段がジワジワと上がっており、消費者の購買力が落ちているというのが実状である。アベノミクスがスタートして以降、実質賃金がマイナスなので庶民の生活が苦しいという指摘は概ね正しいといってよいだろう。

失業率が下がっているのに賃金が上昇しない理由は2つ

 
 一方で安倍政権が強くアピールしているように、アベノミクスの期間中、失業率が大きく低下したのも事実である。2013年の失業率は4%だったが、その後、失業率は急速に低下が進み、2018年には2.4%まで下がっている。2.4%というのは日本経済を分析している人間にとっては驚くべき数字といってよい。

 経済学では、失業率と物価上昇率の関係を示したグラフのことをフィリップス曲線と呼ぶが、日本のフィリップス曲線において失業率2.4%というのは、激しいインフレが発生するギリギリのラインである。本来であれば、ここまで失業率が低下した場合、インフレがかなり進行している可能性が高い。

 だが現実はまったく逆である。

 先ほど、デフレといってもモノの値段はジワジワ上がっていると述べたが、あくまでジワジワというレベルであり、激しくインフレが進行するという状況にはなっていない。一般的に失業率の低下は人手不足を意味しており、ほぼ例外なく賃金は上昇するはずである。だが日本では人手不足といわれながらも賃金が上昇せず、結果としてインフレも進んでいない。

 では、日本ではなぜ失業率が低下しているにもかかわらず賃金が上がらないのだろうか。

 物事をシンプルに整理すれば、考えられる理由は2つしかない。ひとつは、企業の側にどうしても賃金を上げたくない、あるいは上げられない事情が存在していること。もうひとつは、人手不足以外に失業率を下げる要因が存在していることである。両者が択一とは限らないので、2つが同時に作用している可能性もある。

 日本の場合、企業の側に賃金を上げられない特殊事情がある。それは雇用流動性の低さと年功序列の賃金体系である。

 日本では大手企業を中心に、終身雇用と年功序列を組み合わせた雇用形態が標準となっている。経済の仕組みが単純で、順調に規模が拡大している時には、この制度はうまく機能したが、変化が激しい時代においてはマイナスの影響が大きい。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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