03年11月、政府は足利銀行の経営破綻を認定。特別危機管理で一時国有化していた。その後、08年3月、金融庁は野村ホールディングス(HD)を中心とした投資グループに足利銀行株式を譲渡すると決定した。翌4月、野村グループは足利銀行の受け皿となる持ち株会社、足利HDを設立。そして同年7月に足利HDは預金保険機構より足利銀行の株式を譲り受け、同行は民営化した。
当初野村グループは、足利HDの11年中の再上場を目指していた。しかし、米リーマン・ショック後の金融危機と東日本大震災による日本経済の混乱で、日経平均株価は7000円台に低迷。大手銀行の株価の底這いが続く状況では足利HDの株の買い手は現れず、上場は先延ばしとなっていた。
足利銀行は栃木県など北関東が地盤。預金量は4兆7458億円と、全国で中位に位置する地方銀行である。足利HDの13年3月期の連結税引き後利益は18年ぶりに法人税の支払いが生じたこともあり、前期比9.9%減の154億円(前の期は171億円)となった。それでも連結経常利益は同8.1%増の186億円(同172億円)と改善。連結自己資本比率は9.7%(同9.4%)で、最低基準である4%を大きく上回っている。
安倍晋三政権の経済政策アベノミクスで、足元の株式市場が活況を呈した。上場申請のタイミングとしては千載一遇のチャンスである。野村HDは「機が熟した」と判断した。
足利HDの上場が実現すれば、一時国有化された銀行で4例目となる。これまでに米RHJインターナショナル(旧・リップルウッドホールディングス)が新生銀行(旧・日本長期信用銀行)を、米サーベラスがあおぞら銀行(旧・日本債券信用銀行)を、米ローンスターが東京スター銀行(旧・東京相和銀行)を再上場させている。
国内銀行の再生では外資系の投資ファンドが中心的役割を果たしてきたが、足利HD=足利銀行の買収は野村HDの手で行われた。野村HDにとって、国内では過去最大の投資だった。
●野村HD、絶好のタイミングで保有株売却か
「投資額を回収するため、野村側は保有株を高く売る必要があった」というのが、銀行界の一致した見方だ。野村グループは当初から足利HDの早期上場を目指していたが、計画していた11年の上場が延期されたのは、株式市場の低迷で、野村グループが予定していた利益の確保が困難になったためだ。アベノミクス効果で株式市場が回復している今こそ、絶好のタイミングだ。
08年7月、野村HDが設立した足利HDは預金保険機構より預金保険機構から足利銀行株式を1200億円で取得。大手の証券会社が地銀の経営に参画する初めてのケースとなった。
足利HDの自己資本増強のために、投資グループは1600億円を投じた。株式の買い取り分と合わせて2800億円を投資したことになる。野村フィナンシャル・パートナーズ(野村HDの100%子会社)は、足利HDの普通株式の45.51%を保有する筆頭株主。野村キャピタル・インベストメントも足利HDの優先株(議決権がない代わりに普通株より高い配当を期待できる)を保有している。野村HDは普通株に610億円、優先株に590億円を投資した。再上場は、その出口戦略である。
欧州債務危機でグローバルな金融機関は収益を伸ばせないでいたため、野村HDは投資子会社を通じて問題企業などに投資し、再生させ、その株式を売却して資金を回収する、いわゆる投資銀行のようなビジネスを展開してきた。
11年10月、投資子会社が保有する外食大手、すかいらーくの株式を、米大手投資ファンドのベイキャピタル・パートナーズに売却した。譲渡金額は1280億円で、売却益は340億円。野村HD本体の12年3月期決算は、すかいらーくの売却益で辛うじて赤字決算を免れた。これにより野村HDは、投資案件をあらかた手放したが、国内で最後まで残ったのが足利HDの株式である。
問題は上場時の株価だ。野村HDは足利HD株を1株5万円(簿価)で取得したが、再上場をするに当たっては、株価が簿価を上回ることが大前提となる。足利HDの連結純資産は13年3月期末に2793億円。1株当たり純資産は7万3582円。1株5万円の簿価を上回る。理論上からも、売却益は十分に期待できる。
消費税の増税問題やTPPが、株価の波乱要因になるといわれている。もし消費税増税を見送り株価が急落すれば、足利HDの再上場に暗雲が垂れ込める。
(文=編集部)