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サイゼリヤに聞く、低価格&高収益の秘訣は“ブームを追わない”?商品開発、店舗運営…

文=編集部
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サイゼリヤに聞く、低価格&高収益の秘訣は“ブームを追わない”?商品開発、店舗運営…の画像1サイゼリヤ HP」より

 国内外に1000店舗以上を展開し、来日したイタリア人の間でも評判になるほど良質な料理を低価格で提供する、イタリア料理チェーンのサイゼリヤ。

 ミラノ風ドリアが299円、マルゲリータピザ、キャベツのペペロンチーノがそれぞれ399円など業界他社を圧倒する低価格を実現しつつ、売上高利益率5%であれば優良といわれる外食業界において同10%を維持し、高効率経営を達成している秘訣はなんなのか?

 今後も国内外で年間100店舗という出店ペースで、2018年8月期には現在の1.5倍の1500店体制を目指し、今年1月には千葉県に50億円を投資した最新鋭の食品加工工場を稼働させたサイゼリヤ社長室広報課長の内村さやか氏に、

「多くのリピーターを呼ぶ料理の商品開発の秘訣とは?」
「低価格と高効率経営の両立を実現させる秘訣とは?」
「無駄なく質の高い食品加工から店舗運営までのプロセスを実現するための取り組み」
「新しい局面を迎える人材育成と組織改革への取り組み」

などについて聞いた。

–売上高経常利益率が平均5%以下といわれる外食業界の中で、貴社は10%を上回っています。その秘訣はなんですか?

内村さやか氏(以下、内村) 外食産業は労働集約型なので、他の産業に比べて人件費の割合が高いという特徴があります。つまり、売上高経常利益率を高めるためには、効率的な店舗運営を行い、いかに人件費のムダを抑えるかということが最も重要なのです。ただ、私たちは10%という数字だけを目指してきたわけではありません。効率的な店舗運営を追求した結果が、この数字となって表れているということです。

 当初サイゼリヤは、イタリア料理専門店として1973年にオープンしました。オープン当時はお客様にあまり来ていただけず、かなり苦戦しました。そこで、思い切って価格を下げたところ、一転して行列ができるほどのお客様に来ていただけるようになったわけです。

 それはすごくうれしいことなのですが、でも今度はそれだけのお客様に対応するためのスタッフが不足してしまったのです。そこで、料理をつくるという作業の生産性が必然的に求められ、創業者である正垣泰彦(現代表取締役会長)がさまざまな工夫を凝らしました。その一つが通称「マテハン」(マテリアルハンドリング)です。人間の体への負担を少なくし、最低限の動き、最小範囲の動きで料理をつくれるように物の配置、レイアウトなどの工夫を凝らしました。私たちの効率化は、人件費の削減そのものを追求してきたからではなく、お客様にいい料理をいかに早く出すかを追求してきた結果なのです。

 当時の従業員には、「忙しくて大変」「人が足りない」、そういう意識はなかったようです。とにかく自分たちの忙しさの先にはお客様がいる、そのお客様が喜んでくれる、そういう思いを持った人たちが集まっていました。そして、そういう思いは“サイゼリヤのDNA”として今の従業員にも受け継がれています。

–「お客様を第一に考える」という企業文化が、従業員に浸透しているわけですね。

内村 そうでなければ、この価格ではなかなか提供できません。従業員2人で手が余りながらゆっくりやるよりは、一人できびきびやることが、この価格の維持につながっています。「こんなに食べてこんなに安いの? いいの?」といったお客様の言葉が、私たちにとって何よりも励みになるんです。

–商品開発の面で、工夫されていることはありますか?

内村 何か食品や食材がブームになると、商品開発と称してそれを取り込もうとする飲食店はたくさんありますが、私どもはそういう一過性のブームを追うようなことは一切していません。例えば、最近話題になっている塩麹も私どもでは使っていません。あくまで創業時からの商品構成や商品の本質的なコンセプトを基本にしています。価格に対してお値打ち感があること、すなわち来店したときのお客様の総合的な満足度が価格を上回ること、それを創業以来追求し続けています。

 私どもでは、イタリアの食文化は人々の生活に根差したものであり、一生をいかに健康的に過ごすかということに対して先人が研究してきた結果が今の料理になっていると理解しています。それを日本人にも知ってもらおうという啓蒙的な意味も、料理やサービスに込めています。

 例えば、メニューブック。その順番が前菜やサラダから始まっているのは、そういう考えからです。メニュー通りに食べていけば完全なフルコースになるし、ピックアップして食べれば、朝食や昼食になるわけですね。実際にイタリア人は、そのように食べているわけです。そして、そこにチェーン店だからこそできる素材開発を組み合わせているのが、今の私どものスタイルです。そういう考えが大きな幹となっており、自分たちの幹をさらに太くし続けることで、お客様に喜んでいただこうと考えています。自分たちは何をすべきかという幹が、よりはっきりしているということです。

お値打ち感のある価格設定から始まる

–来日したイタリア人の間でも評判になるほどの「味の品質」を保ちつつ、例えば、ミラノ風ドリアが299円、マルゲリータピザ、キャベツのペペロンチーノ、ムール貝のガーリック焼きがそれぞれ399円などの低価格を実現している点が、サイゼリヤ人気の理由の一つとして挙げられると思いますが、その秘訣はなんでしょうか?

内村 現会長の正垣は、70年代に何度もイタリアに行って研究を重ねて、当時持ち得た知識や料理の腕でつくれる最高のイタリア料理を考え、メニューをつくりました。考え得る限りいい食材も使っていたので絶対おいしいはずだと考えていたのに、実際はほとんど売れなかった。

 そのときにコックとして厨房に立っていた正垣が考えたのは、「最終的には自分の出す料理に“お値打ち”がないだけ」ということでした。“お値打ち”というのは、価格に対する商品価値などの、お客様の総合的な満足度のバランスです。そこで、これまで同様、これ以上自分たちはおいしくできないというレベルの料理を出しながら、価格を従来の7割引きにしたわけです。その価格はたばこ一箱あるいは週刊誌一冊と同じ価格、つまり誰もが気軽に払える価格と同じでした。その結果、お客様が一挙に増えました。お客様が喜んでくれる、“お値打ち”と思っていただける価格を見つけたわけですね。それが、たまたまこの価格だったのです。

 一般的な飲食店は、原材料価格を積み上げ、そこに利益を加えて料理の価格を設定していると思いますが、私たちは、お客様が喜んでくれる、“お値打ち”と感じてくれる価格帯が先に決まりました。そして、「どうしたらその価格で利益を出せるか?」ということをそのあとに考え、実現するための取り組みを行うという順番でやってきただけなのです。

–正垣会長は日頃から「激安セールはよくない」と言っていますが、その理由はなんでしょうか?

内村 人間の心理には、食べ物に対して、ある程度妥当だと思う価格があると考えています。300円であれば、味や品質はきっと大丈夫だろうと判断するわけですね。もしそれが200円だとしたら、「大丈夫か?」という根拠のない不安が出てきます。そういう価格は、その時代の人たちに染みついた価値観によるもので、安くしても売れなくなる水準があるわけです。

–低価格を実現するために、どのような経営努力をされたのですか?

内村 1店だけでやっている時と、店舗数が10店くらいに増えた時とでは、取り得る手段が違います。1店でやっている時は、なかなかいい食材が手に入らない。本当にいい食材、つまり自分たちがよいと判断できる品質の食材を手に入れるには、やはり規模が必要です。規模があれば輸入するにしても効率が上がりますし、私ども専用につくってくれる可能性もありますね。自分たちがいいと思っているものを、お値打ち価格でお客様に出せるわけです。そうすれば、お客様に喜んでもらえます。

 また、コストを抑えるためには、自分たちのムダをなくすことですが、これは当たり前のことのようで、「何がムダか? どうすれば効率的なのか?」というのは難しい問題ですね。例えば、2人でやるところを1人でやって月20万円削減できたとします。でも一方で、商品開発には年間1億円を使ったとして、開発したものがすべてうまくいくとは限りません。うまくいかないときには損失が出ます。その損失を社員1人当たりに換算するといくらになるのか? 商品開発の考え方そのものにもムダがあるといえるかもしれませんよね。その辺は、すごくドライに考えています。

–来店客数を増やすためには、やはり価格が一番重要でしょうか?

内村 やはり価格は大きい要因だと思います。多くの人がお財布の中身と相談するわけですからね。

 もう一つは、飽きない味を追求しています。つまり濃すぎない味、おいしすぎない味です。毎日の朝ご飯のような感じです。朝ご飯は毎日同じようなものを食べていても、飽きませんね。同じようなものだからこそ、いいわけですね。チェーン店で店舗数を増やすには、そういう考えのほうが、お店は増やしやすいと考えています。それに、お客様にとっても利用する機会が増えると思います。1回食べて忘れられない味というのは、1回食べたら次は1年後でいいというようになりますから。

効率的な店舗運営の秘訣

–サイゼリヤでは効率的な店舗運営を目指して、マニュアル化がかなり進んでいますね。

内村 「マニュアル化されていますね」とよく言われますが、私どもはそう思っていません。マニュアルというのは、お客様に不愉快を与えない、不便を与えないための最低限の“決まり事”で、もちろん弊社も完備しています。別の言い方をすれば、常に100点満点のサービスをお客様に提供できていないとも言えるわけです。世の中にはいろいろな飲食店がありますから、満点のサービスを目指しているところもあります。でも、私たちはこの価格帯なりの、お客様が不快や不便を感じない、そういうサービスを目指しているわけです。

 ファストフード店のように、対面式でカウンターで料理を出して完結というスタイルであれば、お客様との関わりが少ないので大部分をマニュアルで決めやすいですね。でも私どもはテーブルサービスをしているので、お客様と関わる中で臨機応変に判断しなければならないことがたくさんあります。その全部をマニュアル化することはできないですね。つまり、訓練でしかなし得ないこともたくさんあります。

–サイゼリヤ独特の、効率的な店舗運営のための取り組みなどはありますか?

内村 さまざまなバックグラウンドを持った人たちがある作業をしたときに、その結果に差異が出ないようにするのは結構難しいことです。人によって経験・能力に差があるので、その結果には当然差が出てしまうわけですね。逆に言えば、人の能力に依存する部分を少なくすれば、その差は小さくなります。

 例えば、食材の仕込みは、かなり難易度が高い作業です。レタスの玉の大きさが違えば、その洗い方も、どの葉を使うかも違います。そういう作業は、私どもでは工場で熟練の技術を持った人、慣れた人がやります。その結果、店舗で使用する食材はできるだけわかりやすくし、また扱う器材も可能な限り単純化し、調理工程を極力シンプルにすることで、人の能力による結果のぶれを少なくしています。

新たな局面を迎える人材育成と組織づくり

–貴社の社員教育、人材育成への取り組みについて教えてください。

内村 ひと昔前、急成長していた頃は、労働力としてパートさんやアルバイトの方々の教育が追いつかず、正社員が店舗に出て働くということが多かったですが、今はパート・アルバイトの戦力化が進んできたので、社員は管理職としての仕事に集中する体制づくりを整えつつあります。つまり、社員には何をすべきかを考える能力、問題点を発見して改善する能力、そういうことが求められているわけです。もしパートさんやアルバイトの方々と同じ作業をするのであれば、それをやった結果として、教え方を変える、改善点を見つける、そういう意識を持ってやらなければダメですね。

 ですから、(社員が)ぼーっとお客様に料理を運ぶだけというようなことはするなと言っています。しかしそういう意識改革は時間のかかることなので、それほど簡単にできるものではありません。

–そうした意識は、採用や社員教育などの面に、何か具体的な変化を及ぼしているのでしょうか?

内村 新入社員は、研修終了後は店舗に配属されます。店舗では店舗オペレーション、アルバイトの方々やパートさんとの人間関係、そして当然お客様への応対、そういうことを実際に勉強していくわけですが、店舗には社員が店長しかいないというところもあるわけです。そうすると、いろいろな考え方や物事の進め方に触れる機会が少なすぎて、ちょっとバランスの悪い人間になってしまうということが最近わかってきました。

 つまり、中堅社員の持つ能力に偏りが見られたわけです。そこで、そういう社員が20歳代の時にどういう経験をして、どういう経験をしなかったか、今その洗い出しているところです。

 これまで外食企業では「店長になるための教育」が多く、私どももそのノウハウの蓄積はあります。しかし今の時代、これから会社を支えていくような人材に育てるということは、店長を育てるための教育だけでは足りません。会社を担うような人材をどう育てていくかが課題と考えています。

 ここ7~8年は、店長経験を前提とする採用をしてきました。しかし、そうするといろいろな部門が求める人材の要求に応じられなくなってきました。店長に必要な資質だけでは、多彩な職務をまかなえなくなってきたのです。それだけ会社が大きくなったということでもあり、そこで採用時点における基準を見直そうと考えています。

–今後の出店ペースについては、どのようにお考えですか?

内村 国内は従来通り年間50店舗で、海外も加えると100店舗という出店ペースを計画しています。そして、2018年8月期には、現在の1.5倍の1500店体制を目指しています。

–さらなる成長に向けた、今後の取り組みについて教えてください。

内村 現在は会社を支えていくような人材育成に特に力を入れています。経営体質を強化しながら、30年先、50年先の青写真を描けるような人材を育てていかなければなりません。外食産業には取り巻く経済環境から人材が集まらない時期があり、他の成熟した産業が持っているような人材が不足していると思っています。外食産業が本当の意味での産業として成長していくためには、他の産業並みの生産性を生み出せる企業にならなければならないと考えています。外食産業の中で、そこにチャレンジし続けるのが、私たちに課せられた使命なのではないかと思っています。

 それから、我々の求める品質を求める効率でつくれる、そういう製造技術をさらに高めていきたいと思い、50億円を投資して千葉県に最新鋭の食品加工工場を今年1月に稼働させました。従来の工場加工では出せる味に限界があり、人手がかかるやり方には非効率な面もあり、リスクも高いです。ですので、加工プロセスに極力人が介入せず品質を上げていく、そういう製造技術を持てるようにしていきたいと思っています。
(構成=編集部)

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