日本の大手新聞社で20~30代の若手、中堅社員の離職が止まらない。日本経済新聞社で編集局長らのパワハラをきっかけに50人以上もの記者が依願退職したことが業界を賑わせたが、朝日新聞社など一般紙でも若手の不満はくすぶる。現役・OBの新聞記者への取材によると、問題の根幹には“昭和のやり方”を変えられない経営陣の保守性があるという。
日経53人退職、「唯一の勝ち組新聞でも不満蓄積か」と業界内に衝撃
先月、「週刊文春」(文藝春秋)が、日経新聞の若手を中心とした53人の記者が昨年1年で退職していたことを報じた。日経新聞は国内ビジネスパーソンの多くが定期購読していることに加え、一般紙に先駆けてインターネットの報道体制の拡充を進めてきたこともあり、業界の内外で高く評価されてきた。給与面でも2021年度の平均年収が1192万円と、まごうことなき優良企業である。新聞業界の凋落が著しいなかで「新聞業界唯一の勝ち組」といわれた日経での大量離職は業界に衝撃を与えた。
「若手・中堅が辞職しているのは日経だけじゃない、うちもですよ。50代以上のオッサン支配のなかで先が見えないのは一緒」
こう肩を落とすのは朝日新聞の30代記者だ。「日本随一のクオリティペーパー」のはずの朝日でも若手を中心とした不満はくすぶっているという。
朝日、21年の早期希望退職募集に100人規模で殺到
朝日では21年に50代をターゲットとした早期希望退職者を募集したが、「最高6000万ともいわれる高額退職金もあり希望者が殺到」(同)し、100人規模の退職者が出た。朝日の21年3月期の平均給与は約1165万円と日経同様に優良企業には変わりはない。なぜこれほど現場で絶望感が広がっているのか。朝日の別の30代中堅記者はこう心情を吐露する。
「もはや意味のない時代錯誤の昭和イズムが蔓延していることに尽きます。政治家や役所、大企業の幹部に夜討ち朝駆けして、半日先に発表される内容を書くことが特ダネとされますが、これでは単なる広報。本来記者としてやるべき調査報道や権力監視とは程遠く、世間の脚光を浴びるのは常に“文春砲”とあっては、もはや働く意味を見いだすのは難しい。
社内で取材先に批判的な記事を書く気骨のある先輩記者がクレームで担当を外される場面もある一方で、東京電力の福島第一原発の吉田調書問題以降、トラブルを避けたがるデスクが昇進していくのが実態です。どうせ記者ではなくて会社員として働くならもっと将来性のある業界のほうがいいと、優秀な人からさっさと見切りをつけていくという考え方が若手を中心に広がっています」
組織改革が必要も、朝日元常務のテレ朝社長を経営再建に採用する保守性
本来なら組織の抜本的改革が必要なタイミングだが、保守的体質はなかなか変えられない。それを象徴するのが、今年度から設けられた経営再建の助言役「朝日新聞を創り直すためのアドバイザー」にテレビ朝日ホールディングスの吉田慎一社長が就任したことだ。吉田氏は朝日新聞元常務で、「まさに古い朝日の象徴で、結局自分たちでポストをたらい回しにしたいだけで改革する気がないのがよくわかる人事」(先の中堅記者)と呆れ声が社内に広がった。
朝日では若手・中堅の退職者の穴埋めは、毎日新聞や産経新聞など給与水準の低い同業他社から転職した「外人部隊」が担うのが慣例となっており、「上層部がどうせ彼らで穴埋めできると安易に考えてきた結果が現状を招いた」(同)との指摘も出ている。
毎年、産経、毎日が1社消えていくくらいの新聞発行部数の減少、毎日は中小企業化で生き残り
日経、朝日以外には、毎日、産経も苦境に立たされている。毎日は昨年に資本金を大幅に縮小し中小企業化し税負担を軽減し、生き残りを図らざるを得ないところに追い込まれた。産経も20年に販売網を首都圏と関西圏などに縮小しており、もはや「全国紙」ではなくなった。
日本新聞協会によると、21年10月の時点で新聞(一般紙)の年間発行部数は3065万7153部で前年から180万部も減少し、大台の3000万部割れも間近に迫っている。「毎日が約200万部、産経が約120万部とされるため、大手新聞1社分の年間発行部数が毎年消えていることになる」(全国紙営業社員)。
新聞各社は潤沢な不動産収入に支えられている面が大きいが、本業の新聞が持ち直すことが経営陣にとって喫緊の課題であることはいうまでもない。記事の内容や取材手法の変革などが不可欠だろう。
(文=Business Journal編集部)