PB先進企業・靴のABCマート、驚異の戦略〜ブランド単体と小売、2つの顔で相乗効果
金融機関や外資系コンサル、全国展開する小売チェーン(再生担当取締役)を経て、現在は幅広い業界企業に対する事業戦略立案、R&D戦略等による企業価値向上支援などを手がけるストラテジクスパートナーズ代表取締役を務める山田政弘氏。そんな山田氏が、話題のビジネス/業界トレンドや経済ニュースを、豊富な知識と“現場での経験”を踏まえ、わかりやすく解説します。
●大手小売企業各社は付加価値型プライベートブランド開発に注力するも、すでに時代遅れ?
『セブン&アイ、「金の食パン」を刷新 食感や香り高く』(9月13日付日本経済新聞)『セブン&アイ、好調「金の食パン」を刷新』(9月11日付同紙)
『イオン、高級PB 5割増 食品・衣料、消費二極化に対応』(8月17日付同紙)
『セブンとサントリーがタッグを組むPBプレミアムビール』(7月31日付同紙)
ここ最近、セブン&アイ・ホールディングス、イオングループの2大小売グループのプライベートブランド(以下、PB)に関連するニュースが、幾度も新聞紙面に取り上げられている。
「小売各社がPBに注力するという話題は、何も今に始まったことではないので、別段目新しくない」と思う読者もいるかもしれない。しかし、今回取り上げられているPBは、これまで小売各社が注力してきた「より安く」という価格訴求のPBではない。いずれも高付加価値を追求した商品というのが、従来と大きく異なるポイントだ。
セブン-イレブンが開発し、今年4月16日に発売したPB食パン「セブンゴールド 金の食パン」は、1斤6枚入が250円。セブン-イレブン店舗で売れ筋トップの「超熟」(6枚入り/敷島製パン)と比べても6割高いが、発売から15日間で65万個を突破するなど絶好調。セブン-イレブンにおける「食パン分類」の売上金額も、「金の食パン」発売前対比で約1.5倍に拡大したほどだ。
イオンでは「トップバリュセレクト」や「トップバリュプレミアム」が付加価値型PBに当たり、各社がここに来て、安さ一辺倒だけではない多様なPBの方針、戦略を打ち出している。
さすがPB商品の開発、定着化に貢献してきたセブン-イレブン、イオンと思うかもしれないが、実はこの2社とてPB戦略の潮流から見れば、すでに時代遅れなのである。
●PB戦略で日本最先端は、靴の小売企業
では、PB戦略で日本最先端の取り組みをしている小売企業はどこか、ご存じだろうか?
セブン-イレブン、イオングループ以外の他のGMS(General Merchandise Store:総合スーパー)だろうか? はたまた、アパレル業界におけるセレクトショップの雄ユナイテッドアローズ?
答えはいずれもノー。実は、日本のPB戦略の最先端をいくのは、靴のストアを全国展開するABCマート、と言ったら驚くだろうか。
ABCマートは日本全国に703店舗(2013年2月末時点)、韓国、台湾に151店舗(12年12月時点)を誇る、売上高1594億円で日本第1位の靴小売チェーン。複数のビジネス番組でも、そのお客様重視の接客姿勢、ポリシーが取り沙汰されており、接客・サービス、販売力が成長の原動力であるといわれているが、実際は異なる。
ABCマートはファッション小売企業の中でも好感度の高い(ブランドイメージの良い)ユナイテッドアローズと同じように、仕入れ商品、つまりナショナルブランド(NB)と自社ブランド(PB)を組み合わせた「バイイングSPA」という業態を実現している企業の1社であり、それらの企業の中でもPB戦略で先端を走る企業なのだ。
●PBの起源は50年前
ABCマートがなぜPB戦略で先端を行っているかについて説明する前に、まずはPBの基本的な知識についておさらいしておこう。
日本におけるPBの起源は1960年前後。大丸百貨店が1959年に発売した紳士服ブランド「TROJAN」、翌60年にダイエーが発売した缶詰「ダイエーみかん」が最初のPBといわれている。それからイオン(当時はジャスコ)の「トップバリュ」やセブン-イレブン(セブン&アイグループ)の「セブンプレミアム」など、GMSがこぞって開発、展開し、一気に流通量が増えていった。
PBが出始めた当時の流れは、「同じ価格の商品を手掛けるなら、少しでも安く、そしてより大きな利幅を実現しよう」というのが、PBを売る主な目的だった。
例えば、定価285円の明治の牛乳を参考にして、PBのネームを冠した牛乳をつくる。価格は188円と少し安めに設定することで、価格(=単価)は低くなる。しかし、メーカーのマージン(利益)を圧縮し、原価率を低く抑えることで、利幅(粗利)は逆に増える……これが80〜90年代にかけてのPBの構造だった。
●「より安く、利幅を大きく」の追求がもたらしたカニバリゼーション
しかし、パン、おにぎり、弁当から割り箸、洗剤やワインまで、あらゆる品目で“安易な”PB化を進めた結果、小売各社は自らの首を絞めるようになる。
それがカニバリゼーション(喰い合い)と低価格競争による消耗戦への突入である。
ちなみに、カニバリゼーションとは、一言で言えば複数の商品で同じ顧客を取り合ってしまうこと。例えば、先の牛乳を例にとれば、同じ容量でも「◯◯牧場の牛乳」といった名称の付いた、価格が1000円の牛乳と、特売で89円で売られている牛乳とでは、それぞれ買う顧客が異なるのはなんとなく想像できるだろう。