射幸性の低下やファンの高齢化などによる客離れが進み、縮小傾向にあるパチンコ業界。景気の良い話はあまり聞こえてこない上に、5月末には中堅パチンコ機器メーカー・高尾の経営破綻が報じられ、その逼迫した状況が浮き彫りとなった。高尾は民事再生法の適用を申請し、経営再建を図る意向だという。
業界内では、パチンコメーカーは経営破綻しても「破産(消滅)はしない」という不文律があるという。そのカラクリについて、パチンコ業界関係者に聞いた。
高尾が潰れるなら同クラスのメーカーも危ない
5月末に報じられた高尾の破綻は、往年のファンに衝撃を与えた。高尾といえば、近年では「弾球黙示録カイジ」や「クイーンズブレード」などのヒットシリーズを持つ中堅メーカー。他にも「一騎当千」「銭形平次」「貞子3D」など、ニッチ向けな(だけど一部には人気のある)コンテンツを使ったマシンを多く持つことから、一部のマニアから絶大な支持を得ている。公式キャラクター「キレパンダ」も、その名の通り、パンダのくせにブチキレているという激しめのビジュアルで、パチンカーの間では長年親しまれていた存在だった。
そんな高尾の不穏な状況が漏れ伝わってきたのは、数年前に起きた不幸な事件あたりからだったと、パチンコ業界関係者は語る。
「2017年に、当時の内ケ島正規社長がフィリピン旅行中に銃撃されるという事件が起きました。そのときは命に別状はなかったのですが、翌2018年にも名古屋の本社近くの車庫で内ケ島社長が再び何者かに襲われ、刺殺されるという衝撃的な事件が発生しています」(パチンコ業界関係者)
これらの事件との関係性はないと思われるが、その翌年に、高尾はメーカーとしても大きな問題を起こしてしまう。
「2018年にリリースした『CR弾球黙示録カイジ4』について、実際と異なるスペックを公表していたという不正が発覚し、台の回収やホールへの補償問題に発展。メーカーとしての信用を落とした高尾への受注は激減し、以降は経営がいっそう苦しくなったようです」(同)
奇しくも、当時はパチンコ業界全体の景気が悪くなっていった頃でもある。2019年12月期はG20サミットやラグビーワールドカップの開催で新台リリースを自粛し、2020年12月期以降はコロナ禍の影響でメーカー、ホールともに大きなダメージを受けた。
それでも、高尾は戦意を喪失していたわけではない。昨年度は「弾球黙示録カイジ5」「Pリアル鬼ごっこ2」など、新たに7機種を投入。今年に入ってからも特殊なゲーム性を持つ「P一球魂 GOLDピラミッ伝」を発表するなど、ブレずに新機種を開発していた。
「そんな高尾がここにきて破綻したことから、パチンコ業界全体の衰えがうかがえます。パチンコメーカーの序列は、その歴史よりも、ヒット作をどれだけ出し続けられるかで変わってきますが、今のトップどころは三共・サミー・三洋。そこを京楽・藤商事・ニューギンあたりが追っており、高尾はそれ以外の西陣・豊丸・大一・平和・大都技研などのポジションでした。その高尾が潰れるなら、同じCクラスのメーカーはどこも危ないということになります」(同)
そして、これらのメーカーの顔ぶれは、もう何十年も変わっていないという。
「パチンコメーカーは既得権益と特許でガチガチに守られており、参入障壁が高いどころか、今さら新規の会社が入り込むことは考えられません。パチンコ関連業界は、いわゆる“パチンコ村”と呼ばれる強固な関係性を築き上げており、他者を寄せつけないのです」(同)
新規参入を拒む“パチンコ村”の実態
今回の高尾の破綻では、その村社会ゆえのメリットが機能しているという。5月30日、高尾は東京地裁に民事再生法の適用を申請した。「民事再生法」とは、資金繰りが窮地に陥った会社が、破産はせず、事業を継続しながら再建を目指すための手続きだ。パチンコ業界では2015年にマルホンが民事再生法の申請を行っているが、高尾は自力で再建を図ったマルホンのケースとは異なり、他社のスポンサーを募って復活を目指す方針のようだ。
「すでに、同業のオーイズミがスポンサーになる意向を表明しています。また、高尾のヒット機種『一騎当千』シリーズのIP(知的財産)は大一に移行済み。そのため、高尾が培ってきた技術力や発想力が消えるという事態にはならないはずです。この互助意識の強さは、パチンコ業界ならではのものといえます」(同)
助け合いといえば聞こえはいいが、お互いに利権や特許を共有しているからこそ、経営破綻しても“村の外”に出ることを許さないともいえる。
「業界が先細る中、リソースを他メーカーに取られるぐらいなら我が社でという、残ったメーカー側の生存戦略なんでしょう。そういう意味では、パチンコメーカーには破産=消滅という選択肢はないのかもしれません」(同)
とはいえ、今回の高尾の経営破綻を機に、業界内には今後を憂う雰囲気が漂っているそうだ。
「コロナ禍の初期、パチンコ店ではクラスターは発生していないのに、自粛しないで営業を続ける店舗やパチンカーへのバッシングが起こりました。業界としては、二度と不当なバッシングを受けないために、代表して意見表明する族議員輩出に向けて動いていますが、結果次第では今まで以上に厳しい目を向けられるかもしれない。今後、またしてもコロナ感染者が増え、さまざまなサービスや娯楽のオンライン化が進んでも、パチンコ業界としては何も対応できません。高尾のような中堅メーカーが破綻し、パチンコホール側は店舗数の減少もお客様の離脱も歯止めが効かない状態。世界的な半導体不足によって魅力ある新台もあまり出ないため、上から下まで明日は我が身の思いで戦々恐々としています」(同)
しかし、ある意味でパチンコ業界はしたたか。メーカー側は「スマート遊技機」と呼ばれる新しいゲーム性を搭載した機種の開発を行い、今年末からリリース予定だ。ホール側は、ネット上での露出を増やして時代にマッチした販促に舵を切るなどの営業努力を積み重ね、コロナ禍の落ち込みを取り戻そうとする動きが広まっているそうだ。
「コロナ禍では、パチンコユーザーのボリューム層である高齢者の来客が減ったのが痛手でした。おそらく、家族から『感染するから行くな』と止められたのでしょう。しかし、自粛や行動制限が落ち着き、今ががんばりどきとみた各ホールは、新たなイベントをどんどん開催しています。以前のような芸能人の来店イベントではなく、パチンコYouTuberやインフルエンサーを起用するなどして、若い世代を取り込もうとしているのです。今後は、インターネットやYouTubeと連携したプロモーションを打ち出すことによって、新規の客層にアプローチできるかどうかがカギです」(同)
果たして、パチンコ村の風向きは変わるのだろうか。