パチンコ・パチスロの新しい形として開発がスタートしながら、その進捗状況や導入時期がいまいちハッキリしていなかった「封入式遊技機」。しかし、5月19日に日本遊技機工業組合をはじめとする4団体が「スマートパチンコ・スマートパチスロに関する説明会」を開催した。説明会では開発意図や今後の構想などが発表され、会場を訪れたホール関係者からは賛否を含めてさまざまな感想があったという。
東京都内の中規模店で店長を務めるS氏はどちらかというと懐疑的な目で見ているらしく、「もう少し具体的な動きがないと何とも言えませんね」と話す。
「そもそも、スマートパチスロの導入は今年11月、スマートパチンコは来年1月を“目標としている”とのことなので、半導体不足が続く今の状況では延期になる可能性があります」(S氏)
実際、5月20日に開かれた全日本遊技事業協同組合連合会の全国理事会後の定例記者会見で、阿部恭久理事長が「スマートパチンコ・スマートパチスロは慌ててやりすぎたのではないか」という旨の私見を述べている。
では、なぜ時期尚早とも思える発表を行ったのだろうか。
「競馬や競艇、オートレース、競輪はコロナ禍でも好調なのに、パチンコ業界が瀕死状態だからですよ。これ以上、業界への関心・興味が薄れないように『起死回生の一手を用意してますよ』というのをアピールしたかったのでしょう」(同)
S氏は決して管理遊技機(=スマートパチンコ・スマートパチスロのこと)を全否定しているわけではない。同機のメリットについて、次のように語る。
「玉やメダルに触れることがないので衛生的。コロナ禍では最もアピールにつながる点ですね。他にも、遊技データを管理センターで監視するので、ゴトなどによる不自然な状況が見つかれば、すぐに対応が可能と言われています」(同)
また、パチンコ機における出玉の計数、パチスロ機におけるメダルの補給などもいらなくなるため、ホールスタッフの負担軽減、人件費削減にもつながると見られている。
では逆に、デメリットはどんな点にあるのだろうか。
「何と言っても導入コストです。機械とユニットを同時に導入しなければいけないので、ホール側の負担が大きくなるのは間違いありません。今年1月末日が期限だった新基準機への入れ替えでホールは疲弊しているので、さらなる大がかりな設備投資ができるところは限られるでしょう」(同)
管理遊技機に関する費用、新基準機との設置比率などは具体的に発表されていないようだが、その内容次第では、今度こそ廃業を決めるパチンコホールも出てくるかもしれない。
「管理遊技機の出玉性能が今の新基準機とたいして変わらず、ユーザーを惹きつけることができないなら買う意味がない。大手ホールは真っ先に導入するでしょうけど、中小ホールは様子見することになるかも。そこで仮に高稼働し、『管理遊技機いいじゃん!』みたいになったら、出遅れた中小ホールはさらに経営が悪化しそうです」(同)
ホールスタッフの負担が減るということは、今のスタッフ数を維持する必要がなく、人員整理につながるかもしれない。また、管理遊技機は玉を遊技機内で循環させるため、現在のシマ設備は不要になる。つまり、設備メーカーの売り上げに影響が出る可能性もあるのだ。
成功しなかった「ちょいパチ」「設定つき」「遊タイム」
データの管理についても、通信設備への投資は必要なのか、通信コストはどのくらいになるのか、電話やデータの通信網が弱い地方でも対応できるのか。2024年に予定されている新紙幣の導入にあたり、対応ユニットへの交換はどのくらいコストがかかるのかなど、疑問点を挙げたらきりがない。
そもそも、S氏が管理遊技機を一歩引いた目で見るのには、業界全体への不信感が根底にある。
「近年の新たな取り組みは『ちょいパチ』『設定つきパチンコ』『遊タイム』など、どれも大成功とはいえず、管理遊技機で今の状況が一気に好転するかというと、そこまでポジティブにはなれません」(同)
大当り確率30~40分の1で当たりやすさが売りだった「ちょいパチ」だが、出玉の少なさゆえ、ユーザーの心には響かなかった。「設定つきパチンコ」は高設定を入れるホールがほとんどなく、多くのユーザーが「そりゃそうでしょ」と失笑する始末。「遊タイム」は“ハイエナ”を恐れるあまり、大当たり終了後に即止めする人が増えたり、0回転から打つのを躊躇する人がいたりと、稼働時間の減少につながる負の一面があった。
「それでもまったく期待していないわけではないんです。この業界は規制強化と規制緩和を繰り返してきた歴史がありますから。管理遊技機の導入で不正防止などをアピールする代わりに、何らかの規制緩和を段階的に勝ち取っていくと思われます」(同)
夏以降の型式申請では出玉の天井であるコンプリート機能(※)を搭載することになっていて、これは「過度な射幸性を抑えていますよ」というアピールに他ならない。
一方で、「遊タイム」の作動条件が確率の「2.5倍~3倍」から「1.5倍~3倍」に緩和され、ユーザーの遊技継続の動機づけにもなると期待されている。
「いずれにしても、正式に型式試験を通過しないことには『買う・買わない』は判断できません。今後出てくる追加情報を見ながら、どんな機械だったら自店舗的に“アリ”なのかを随時考えることが大事ですね」(同)
導入延期の可能性もあるが、現時点では市場投入まで1年を切ったスマートパチンコ・スマートパチスロ。果たして業界の救世主となるのか、期待して見守りたい。
※パチンコは9万5000個、パチスロは1万9000枚に到達すると遊技機が停止する仕組みで「安全装置」とも呼ばれる。高射幸性遊技機とみなされる差玉枚数が基準になっていて、換金額で言えば約40万円相当。