「15社の利用者数は延べ約2000万人で、さらに15社ほどが秋以降に順次参加して利用者数は倍増する。スマホゲームを提供する国内の基盤としては、ゲームサイト運営のグリーやディー・エヌ・エーに匹敵する規模となる」
この動きを同社首脳たちはまったく察知していなかったのか、グリー関係者は「田中社長はじめ、役員の誰からも、なんの説明もなかった。このため社員は朝から仕事そっちのけで憶測を披露し合うしかなかった」と振り返る。そして「日経のスクープ通りだったら、我々はゲーム業界で孤立する」との悲鳴に近い声も聞かれたという。
日経がスクープした「15社連合」について、業界関係者は「連合関係者たちは『ノア』のコードネームまで付けていた」と明かす。旧約聖書の「ノアの箱舟」から取ったのは言うまでもない。要するに「グリー外しが狙い」だ。
なぜ今、グリー外しなのか?
15社連合関係者の一人は「スマホでゲームアプリを販売するためには、アップルやグーグルに販売手数料を支払わなければならない。その上さらにグリーに手数料を払っていたら、我々の手元にはいくらも残らない。それなら、自分たちでアプリ流通の仕組みを作ろうと、提携話が持ち上がった」と説明する。
10月上旬時点で、「15社連合」の行方はつまびらかではない。しかし、「ゲームソフト開発業界内でこうした動きが出てきたこと自体が、グリーの凋落を象徴している」(業界関係者)との声も聞かれる。
●スマホゲーム普及もあだに
グリーが、ここまで急成長できたエンジンは、SNSを利用したビジネスモデルにあった。自社運営のSNSユーザにソーシャルゲームを配信するシステムを、10年頃からゲームソフト開発会社にも開放。その売上の一部を手数料として徴収する収益モデルも構築した。
このビジネスモデルが、スマホの普及で陳腐化してしまった。ゲームユーザの関心が、ガラケーの小さな画面で遊ぶ単純なソーシャルゲームから、大画面のスマホで遊べる多彩でリアルなゲームアプリに移っていったからだ。その引導役が、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」だったと言えよう。
しかも、スマホが普及してくると、ゲームアプリを独占的に配信するアップルやグーグルが、ゲーム業界の新しい支配者として登場してきた。今では彼らがゲームソフト開発会社から販売手数料を集めている。「スマホ向けゲーム販売でグリーに頼る必要性はないし、グリーに払う金もない。グリーと縁を切るのは時間の問題」(業界関係者)と言われるのは当然かもしれない。
グリーの田中社長が「10億人が利用するソーシャルサービスを構築する」と豪語していたのは、わずか2年ほど前のことだった。しかし、ユーザ数は1億人どころか、昨年末頃の「公称3500万人がピーク」といわれている。その後は、コンプガチャ問題を潮にユーザが急速に減っているので、今年8月末時点で会員数は3000万人を割っている可能性が高いとの見方が、ゲーム業界内ではもっぱらだ。
加えてグリーは、ガラケー向けに代わる新しい成長戦略も描けずにいる。
田中社長は昨年12月13日開催のシンポジウム「2013年 経営者の挑戦」で講演した際、「ゲームだけにとどまらず、インターネットの可能性を色々な形にして世界展開するのが我々の役割だ」と胸を張り、広告、ベンチャー投資、グッズ販売などを同社の新規事業として挙げていた。だが、ゲーム業界担当の証券アナリストは「これらは既存事業の延長であり、インターネットの可能性を広げるような新味も革新性もない」とにべもない。
04年12月の会社設立から、間もなく丸9年。このまま企業寿命が尽きる方向にゆくのか、捲土重来を果たすのか、今こそ「SNSの旗手」の真価が問われているようだ。
(文=福井晋/フリーライター)