日本発のファストファッションブランドで、現在は世界有数のアパレルブランドにまで成長したユニクロ。かつては価格の安さを最大のストロングポイントとしてファンを増やしていたが、ユニクロが今や“高級品”といわれるようになってきていることをご存知だろうか。
SNS上では「貧乏人は買えない」「UNIQLOは高級ブランド。庶民はGUかH&M」「UNIQLOは高くて買えないですねぇ。最近は中古屋かワークマンか、たまにジーユーです」などという声も数多く上がっているのだ。
そこで今回は一般社団法人スタイリストマスター認定協会代表で、著書に『手持ちの服でなんとかなります』(サンマーク出版)などがある杉山律子氏に取材。ユニクロの商品は値上がりしているのか、他チェーンと比べて割高といえるのかなどについて聞いた。
ユニクロは値上げしているわけではなく、単価の高い商品を増やしている
まずは、一昔前と比べてユニクロの商品が値上がりしているのかを聞いていこう。
「ここ数年の円安傾向、原材料や世界的な人件費の高騰などにより多少の値上げは行われていますが、そこまで大幅な値上げはされていない印象です。というのもカットソーやTシャツなどはいまだに1000円前後で購入できるものが多数ラインナップされていますし、商品の相場を考えれば格安といえるものが多いです。
ただ一方で、メンズ用のジャケットやアウターなど従来のユニクロ商品と比べると“単価の高い商品”が増えたのも事実です。こういったラインナップが追加されたことで値上がりしたと感じる層が一定数いるのではないでしょうか。
例えば22年春夏シーズンに新登場したメンズ用ジャケットの『感動ジャケット2WAYストレッチ』は5990円(税込、以下同)。相場や機能性を考えれば5000円代は破格ですが、ユニクロ商品に1000円前後のイメージを持った消費者の方々だと、このような価格帯の商品が増えた=高級志向にシフトしたと感じてしまうのだと思います」(杉山氏)
もともと格安だった商品群が値上がりしたというわけではなく、以前はラインナップされていなかったような単価が高いアイテムが増えてきたということか。
「さらに同じような商品でも、少し割高なシリーズが登場している点も高級品といわれるようになった理由のひとつでしょう。例えばメンズのTシャツやカットソーは1000円前後のものが主流ですが、近年はデザイン性にこだわった代わりに2000円近くするようなTシャツなども登場しています。格安な商品がなくなったわけではないのですが、豊富なラインナップによって安価な商品がかすんでしまうようになったのではないでしょうか」(同)
ハイブランドとのコラボ商品はオリジナル商品と比べれば割高だが…
そして、ハイブランドとのコラボ商品の単価が高いことが、「ユニクロが高級品」といわれるようになった最大の要因ではないかという。
「近年のユニクロは世界的に有名なハイブランドとのコラボが多く、年に数回は行っている印象があります。ブランドとのコラボ自体は10年以上前からやっていたのですが、そのコラボ先が年々高級になっており、直近では5月20日からスタートした『UNIQLO and MARNI(ユニクロ アンド マルニ)』が話題を呼びました。
マルニといえば1994年にイタリアのミラノで誕生したハイブランド。数十万円する商品を取り扱うブランドとのコラボだけに、情報が解禁された当時はSNSが騒然としていた記憶があります。そんなユニクロ アンド マルニのコラボ商品を見てみると、レディース商品の『オーバーサイズシャツ(長袖)』は3990円(値下げ前)。ユニクロのオリジナル商品として販売しているレディース用ワイシャツは1000〜2000円台の商品がほとんどなので、1.5〜2倍の値段差があります。
もちろんマルニのオリジナル商品を購入しようとすれば、この何十倍もするわけですから、コラボ商品が圧倒的に安いのは一目瞭然ですが、やはりユニクロのオリジナル商品と比べると“割高”“高級品”と感じてしまう人は少なくないのでしょう」(同)
では、なぜユニクロがハイブランドとのコラボを頻繁に行うのかが気になるところだ。
「ファストファッションのイメージからの脱却を目指しているから、というのが一番の理由だと思います。やはりユニクロといえば安いイメージを持つ人が多いと思いますが、ユニクロとしてはファストファッションとしてではなく、ひとつのブランドとしての価値を高めたいのでしょう。そのために世界の名だたるブランドとコラボしていると考えられます。
そしてその狙いどおり、単価の高いブランドと年々コラボするようになっているところを見ても、ユニクロのブランドとしての価値は上がってきているように感じますね。というのもユニクロ側としては、ハイブランドとコラボすることで一定の売り上げとブランド価値の向上も見込めるわけですが、ハイブランド側からすると宣伝効果くらいしかメリットがないわけです。それでもハイブランド側がコラボを承諾するということは、すでにユニクロはそれほど高い宣伝効果を見込めるほどのブランド価値の確立に成功しているといえるのではないでしょうか」(同)
「貧乏だとユニクロでは買えない」は本当?
では、ほかのブランドと比べて割高といえるのだろうか。
「ユニクロと同様にファストファッションブランドとして知名度が高く、同じファーストリテイリンググループの姉妹ブランドであるGUと比べて解説しましょう。
ブランドのイメージとして、GUの商品はデザイン性が尖ったものが多く若者向きな印象ですが、一方のユニクロは落ち着いたベーシックなデザインばかりなので、シーンや年齢を問わず着ることができる印象。こうして同じグループ内でも差別化を図っています。
そして本題の価格帯についてですが、ユニクロのほうが生地などにこだわっており品質が良く、GUと比べるとその分お値段も割高なイメージがあります」(同)
後発の姉妹ブランドであるGUが激安路線を引き継いでおり、そんなGUと比較するとユニクロの商品は割高なため、相対的に“ユニクロは高くなった”というイメージを持たれてしまうのだろう。
また、スウェーデン発のファストファッションブランドで日本でも人気のH&Mと比べても、ユニクロは品質へのこだわりが高い分、両者を比較するとユニクロの価格帯は高い印象があるが、それも要因のひとつなのかもしれない。
「ユニクロの服の特徴であり強みとなっているのは、安価なうえにシンプルで、かつデザイン性が良いことだと思います。GUと比べて割高とはいえ、ユニクロのオリジナル商品も相場を考えると破格なものばかりです。
ハイブランドとのコラボを重ねるごとに、それぞれのブランドのエッセンスを取り入れて、オリジナル商品のデザイン性の向上にもつなげている印象があります。ですから今後はますます、おしゃれでありながら値段に対してリーズナブルな、高コスパアイテムが増えてくるのではないでしょうか」(同)
ユニクロが高級品といわれてしまっていた要因は、ハイブランドとのコラボ商品や品質やデザインにこだわったオリジナル商品の単価の高さからきていたようだ。
単純に価格の安さだけを追求するならば確かにGUに軍配が上がるのかもしれないが、こだわった生地の商品やハイブランドとのコラボ商品などを、ユニクロは驚異的なリーズナブルさで提供しているわけだ。商品の価値に対してコストパフォーマンスが非常に高いというのが、現在のユニクロの優位性でありストロングポイントなのだろう。
(文=あかいあおい/A4studio)