東京都心などから羽田空港へアクセスする「羽田空港アクセス線(仮称)」が、いよいよ本格着工する。東京駅から羽田空港へのアクセスが現在の約30分から18分に短縮され、宇都宮線・高崎線・常磐線方面から羽田空港へのダイレクトアクセスが実現するなど利便性が向上する。だが、羽田空港へのアクセス手段としてはすでに東京モノレールや京浜急行などがあるため、約12.4kmの路線新設に約2800億円に上る工事費を投入することの費用対効果を疑問視する声も上がっている。
羽田空港アクセス線は、羽田から東京駅方面へ向かう「東山手ルート」、新宿・池袋方面へ向かう「西山手ルート」、お台場を経由し千葉方面へ向かう「臨海部ルート」の3ルートから構成される。現在休止している大汐線を活用してJR田町駅付近から東京貨物ターミナルまでを結ぶ東山手ルート(7.4km)、東京貨物ターミナルから「羽田空港新駅(仮称)」までを結ぶ「アクセス新線」(約5km)が今回、着工。2031年度の開業を目指す。
工事は大がかりだ。田町駅の東京方にある山手線引上げ線を撤去し、山手線外回り、京浜東北線南行、東海道線上りを移設し、東海道線上下間にスペースを確保。そのスペースを利用して開削トンネルやシールドトンネルを構築し、東海道線と大汐線が接続する線路を敷設する。その一方、休止中の大汐線の橋りょうや高架橋などの土木・軌道・電気の各設備を改修・改良するかたちで、既存ストックの有効活用を図る。
また、羽田空港の第1旅客ターミナルと第2旅客ターミナルの間の地下に最大幅員約12m、延長約310mの島式1面2線のホームを有する新駅、羽田空港新駅を設置する。
JR東日本は多方面エリアからのダイレクトアクセスの実現や異常時等における輸送代替性の向上により都市の発展・国際競争力の強化が図られるとしているが、鉄道会社関係者はいう。
「3ルートがすべて開通すれば、東京駅、そして埼玉、千葉、新宿、池袋方面からのアクセスが便利になることは確か。また、JRがいうように非常時の輸送代替が多様化される意義は大きい。ただ、首都圏の人々は浜松町駅からモノレール、品川駅から京浜急行で羽田に向かうことに慣れており、現在でも何か支障があるわけではない。また、羽田空港の側では第1ターミナルと第2ターミナルの間の地下に新設される駅に到着するということなので、そのから両ターミナルへの移動に時間がかかってしまわないかも懸念される。
羽田空港アクセス線の構想が検討され始めたのはコロナ禍のずっと前だが、コロナ禍でJR東日本の財務が悪化し経営環境が変わったなか、同路線の新設コスト負担は大きい。工事費が予定より増えれば3ルート合計で1兆円に迫る可能性もあり、費用対効果という意味では疑問を指摘する向きもある」
実際には利用者にとってどのようなメリットが生じるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に解説してもらう。
メインとなる空港アクセス鉄道の地位を奪うか
羽田空港にアクセスする鉄道に関する最新の統計が2015(平成27)年度と少々古いのですが、羽田空港の第1から第3までの各旅客ターミナルに開設された鉄道各駅の1日平均の利用者数は、東京モノレールが6万5893人、京浜急行電鉄が11万592人の計17万6485人でした。同じ年度の羽田空港の1日平均の旅客数は20万9510人で、単純に考えれば羽田空港を発着する航空機の利用者の84パーセントは鉄道を利用していると考えられます。
これまで首都・東京を代表するターミナルである東京駅と羽田空港との間を直接結ぶ鉄道はなく、浜松町駅や品川駅などでの乗り換えが強いられ約30分を要していました。今回着工されたJR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)は、東京駅と羽田空港との間を直接結び、乗車時間も約18分とのことです。羽田空港アクセス線の開業が予定されている2031(令和31)年度はコロナ禍の影響を脱して、羽田空港の利用者は2015年度よりもさらに増えているでしょう。したがって、羽田空港アクセス線の開業によって羽田空港アクセスの利便性が大幅に向上すると同時に、メインとなる空港アクセス鉄道の地位を東京モノレールや京浜急行電鉄から奪うかもしれません。
ところで、今回の発表では羽田空港アクセス線は国際線がメインの第3旅客ターミナルには乗り入れません。将来的には羽田空港新駅と第3旅客ターミナルとの間も建設されるのかもしれませんが、それまでの間はターミナル間無料連絡バスか鉄道に頼る必要があります。
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)