国内ホテル界の象徴が、なぜこのような愚行に走ったのか?
●レストランは儲からない
一つは、単純に利益を出すためというのがある。というのも、飲食店はチェーン展開しない限り、大儲けできないという現実がある。「最高のサービスで美味しい食事を提供すればレストランは発展していく」側面もあるが、実際には「いかに家賃、人件費、食材費原価を抑え、食材の廃棄をなくすか」がキーになる。
このモデルで成功したのが、「ステーキけん」だ。あくまで筆者の感想ではあるが、決して「最高のサービスと美味しい食事」があるわけではない。その一方で、運営は能率化されている。多くの店舗は、ロードサイドという家賃の安い場所にあり、出店店舗は基本的に居抜き物件。内装費がかからないため、減価償却をすぐに終わらせられる。また、複雑なメニューが少ないため、人件費もかからず、かつ余った食材は翌日のランチのカレーなどに回せる。出店のイニシャル(初期費用)も最小限のため、はやらなくなれば即撤退し、新たな土地を探す。まさに、フランチャイズの強みが生かされている。
このようなレストラン・チェーンと相反するのが、ホテルのレストランである。
多くのホテルのレストランが、賞を取ったことのあるシェフを雇うことで格を付け、値段を上げている。逆に言えば、無名の経験の少ない料理人では経営が成り立たない。さらに、ソムリエや洗練されたサービスができるウェイターも必要になる。スタッフの教育に時間がかかるため、当然人件費が上がる。そして、食材も鮮度が命のメニューが多く、ロスが出やすい。ホテルのレストランのディナーは客単価1万2000円を超えるが、純利益は少ない。その証拠に、ホテル全体の純利益は宿泊部門が60%を占めている。
そこで近年、飲食部門ではFLコストという計算法を導入し、利益を上げようとしている。人件費と食材費・飲料費のトータルを、売上の55%に抑えようというものだ。しかし、人件費をこれ以上下げるのは難しい。そこで、冷凍食品などのメーカーの既製品がフォーカスされた。現在のレストランにおける冷凍食品の使われ方について、元レストラン従業員は次のように明かす。
「例えば、フレッシュマンゴーオレンジジュースなら、八百屋からマンゴーを購入するのが普通でした。しかし、今はカットされた冷凍マンゴーを持っている業者がいて、オレンジも粒入りの100%で良質のものがある。それこそ、オレンジの産地によって味も違う。帝国ホテルも、こういったオレンジジュースを使用していたのでしょう。この2つをミキサーで混ぜれば、フレッシュではないけども、フレッシュと変わらないマンゴーオレンジジュースができる」
ほかにも、生パスタに近い乾麺や、焼きたてのパンのような冷凍パンなどが豊富にあるという。
「多くの卸メーカーが食品展示会を行っていますが、そこに足を運べば、その食材のレベルの高さに驚きます。味はフレッシュと変わらないのに、フレッシュより日持ちが良いものが多く、値段も安い。そういった展示会などで、今回問題になった牛脂注入加工肉やバナメイエビなども出されている。味見をすれば、100%ビーフや芝海老とほぼ変わらないことがわかります。そして値段は安いため、『これは良い』ということで、こうした冷凍食品に移行したのでしょう」(同)