日本最大のタオル生産地・愛媛県今治市のタオル生産は、およそ120年の歴史を重ねてきた。1894年(明治27年)、綿ネル業に携わる阿部平助(1852~1938)が、白木綿不振の打開策として4台の手織り織機でタオル織物を作ったことが嚆矢となった。
この歴史と軌を一に歩んできた村上タオルは、2021年に創業100周年を迎えた 。同社が重点的に注力しているのは自社サイトでのECである。3年前からAmazon経由で販売を行っていたが、新たに2022年3月からECプラットフォームにShopify、決済手段にKOMOJUを導入した。狙いと成果について、総務部広告・広報担当マネージャーの久保山裕司氏に聞いた。
――御社の商品構成と販売ルートを教えていだけますか。
久保山 自社ブランド名の付いた商品を約10アイテム、カラーは100色品揃えしています。主力商品の「エムカラー」が通常のフェイスタオルよりもサイズが長めで頭部を巻きやすい特性があることから、理美容とエステサロンに需要が多く、売上げの20~30%が直販になります。また、主に卸売会社を経由して販売先の50%を占めています。その他は一般消費者向けで、グループ会社の今治タオル取扱店「伊織」(愛媛県松山市)等に卸す一方で、自社のオンラインショップやAmazonでも商品を販売しています。
――どんな経緯で自社サイトECを始めたのでしょうか。
久保山 今治タオル全体の売り上げが低下傾向にあるなかで、販路拡大と商機拡大を考えました。それからコロナ禍で理美容とエステサロン向けタオルの売り上げ維持が不透明な中、自社サイトによるECに挑戦しようと判断したのです。
――Amazonだけでは不十分だったのですか。
久保山 AmazonではFBA(在庫管理、発送、顧客対応などの代行サービス)を利用していたので手数料が発生して、どうしても利益率が下がってしまいます。やはり自社サイトが必要だろうと判断して、運営を始めました。
――今治タオル工業組合の発表によると、今治地区のタオル関連企業数は2023年4月現在で84社です。自社のECサイトを運営している企業はどのぐらいですか。
久保山 私の感覚ですが、50%ぐらいのメーカーがECサイトを持ち始めているのではないかと思います。今治では卸が主流で、その他イベント関連のタオルなどもかなり作られていますが、コロナ禍で大規模集客をするイベントの開催が難しくなって、イベント関連のタオル販売が減ったことでECを始めたメーカーもあるのではないでしょうか。
シンプルな料金体系
――御社はECプラットフォームにShopify、決済手段にKOMOJUを導入されました。それぞれの導入理由は何でしょうか。
久保山 最初から費用をかけることは難しいので、Shopifyを選んだのは低コストでEC運営を始められることが第一です。また、ECの運営にはオペレーターや出荷担当者の配置などが必要になってくるのが通常ですが、地方である今治市には人材が豊富に存在していません。その点、Shopify はAmazonの倉庫を使った自動出荷ができるなど融通が利くので、これも導入した理由です。
決済手段については2~3社を比較しましたが、KOMOJU一択で決めました。初期費用がかからずに手数料だけを支払うシンプルな料金体系でスタートできること、それからひとつのアプリケーションで、日本で需要の多いコンビニ決済や銀行振り込み、QRコード決済などを簡単に導入できることからKOMOJUを選択しました 。
――すでに自社サイトを運営している会社へのヒヤリングなどで、どの決済手段が御社に適しているかについて調査を行ったのですか。
久保山 他社のヒヤリングなどは一切行いませんでした。KOMOJUを知ったときに「これ、いいな!」とひと目ぼれに近い感じで決めたのです。今お話ししたことは購入率を上げるという顧客目線の判断ですが、もうひとつ、社内の経理業務にとっても使い勝手の良い決済手段です。KOMOJUは月末締めで売上額を確定して、単月で計算できることは経理担当者にたいへん喜ばれました。
――他社の決済手段は締めのサイクルが異なっているのでしょうか。
久保山 2週間単位の締めなどサイクルが短いのですが、当社の経理担当者は1人なので、サイクルが短いと締めの連続で業務が煩瑣になってしまいます。月末締めで売り上げを計上できることが、当社には望ましいのです。
――ShopifyとKOMOJUを導入して、この5月で1年2カ月が経ちました。成果はいかがでしょうか。
久保山 この1年で個人向けの売り上げが増えて、確実に成果は上がってきていますし、会社全体の売上高にも寄与しています。お客様の決済手段を見ると、スマホ決済やQRコード決済が徐々に増えています。
――Shopifyのデータから商品の売れ筋を分析して、商品開発に反映させる取り組みも行っているのですか。
久保山 いえ、そこまではまだできていませんが、今後の商品開発に生かしていこうと考えております。
よりよいサイトに改善
――久保山さんからKOMOJUへの要望は何かありますか。
久保山 これまではKOMOJUの運用で相談を持ちかけたことはありませんでしたが、今後は、代引き決済ができないかどうか。運送会社との調整が必要ですが、代引きができれば、お客様の層がより広がっていくと思います。
――サイトの見せ方やサイトでの売り方では、どんな工夫をしていますか。
久保山 当社の商品はデザインがシンプルでカラーバリエーションの多いことがウリで、同業者にはあまりない特徴です。商品の見せ方では、シンプルさを上品に見せるデザインを意識しています。販売方法はフェイスタオルの10枚セットなどセット販売を主軸にしていますが、たんに単品で10色を揃えるのではなく、10色10枚のセットにして届いたときに喜んでいただける品揃えをしています。さらに商品を探しやすいサイト構成を心がけていて、今もより探しやすいようにサイト構成の改善を進めています。
海外販路を開拓
――商品開発の方針も聞かせてください。流行の変化などを踏まえて、どのような方針で開発しているのでしょうか。
久保山 当社は新商品を相次いで開発するというよりも、ひとつの商品を長く使っていただくことに重点を置いています。無地の商品にはさほど流行り廃りの影響を受けないので、むしろ見せ方など表現の仕方を見直すことに力を入れています。
――御社は創業102年、設立からも72年の業歴を積み重ねてきましたが、会社の強みはどこにあるとお考えですか。
久保山 長年にわたって、地元の糸商さんや染色工場、多くの加工工場などいろいろな取引先との関係を築いてきたので、原材料を安定して仕入れることができるうえに、臨機応変な対応もできることだと思います。商品のカラーバリエーションを多くできたのも、見せ方や売り方のノウハウを蓄積していることに加えて、こうしたつながりが背景にあります。
――今後のEC展開で計画していることを教えてください。
久保山 ふたつあります。ひとつはSNSとの連携を強化して、販売力を高めることです。ShopifyはAPIがかなり充実していてSNSとの相性が良いので、今までと違う商品の見せ方で販路を拡大していきます。もうひとつの計画は、Shopifyの強みでもある海外販路の開拓です。国によっては水の質が原因でタオルを洗った時に質感が変わってしまうこともあるので、海外向けの商品開発も視野に入れながら商品開発に取り組んでおります。
――越境ECではどの地域を考えているのでしょう?
久保山 アメリカ、ヨーロッパをはじめ、アジア圏や経済発展の著しい東南アジアでの販売にチャレンジしたいと考えています。
――どんなマーケティングを行う方針ですか。
久保山 Amazonのモールを活用してニーズ調査から始める方針で、海外からも購入できる機能やサービスを利用し、1カ月で各国からオーダーが入ってくるようになりました。購入データを蓄積しながら販売先の国や文化に合わせたマーケティング活動を行っていきたいです。
――本日はありがとうございました。
(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)
※本稿はインフォメーションです。
●久保山裕司/村上タオル
1984年東京生まれ。株式会社エイトワンにて伊織EC事業部のマネージャーを務めた後、2021年から広告・広報担当マネージャーとして村上タオル株式会社に参画。