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アマゾン配達員、宅配ロッカーを空のままキープ…荷物を取り出し→自分の荷物を入れる

文=Business Journal編集部、協力=坂田良平/物流ジャーナリスト
アマゾン配達員、宅配ロッカーを空のままキープ…荷物を取り出し→自分の荷物を入れるの画像1
サイト「Amazon.co.jp」より

 6日付西日本新聞ウェブ版記事によれば、ECサイト「Amazon.co.jp(アマゾン)」のデリバリーサービスパートナーが、自社の配達員間で使い回す目的でマンションの宅配ロッカーの一部暗証番号を共有して空のままキープしたり、荷物が入っているロッカーを開錠して荷物を取り出し放置し、代わりに自身が届ける荷物を入れたりする行為を行っているという。こうした事例は増えているのか、また、背景には何があるのか――。

 ネット通販の普及などによる宅配便取扱量の激増を受け、2017年、ヤマトの労働組合が会社側へ宅配便の引受総量の抑制を要求。事態を重く見たヤマトはアマゾンに宅配サービスの一部見直しや値上げを求め、ヤマトはアマゾンの荷物の取り扱い停止も視野に入れていたことから、この頃から「物流パンク」「宅配クライシス」が社会問題として注目されていった。これにさらに拍車をかけたのがコロナ禍だ。国土交通省の発表によれば、21年度の宅配便取扱個数は49億5323万個で、前年度と比較して1億1676 万個、約2.4%も増加。その後も減る兆候は見えない。

 こうした状況のなか、現場を担う配達員にしわ寄せがおよんでいる。取扱量の多いエリアでは一日に配達する荷物が配達員一人当たり100~200個となるケースも珍しくなく、届け先の受取人が不在であったり、宅配ロッカー受け取りの指定でもロッカーに空きがなかったりすれば、再配達が発生することになり、配達員にのしかかる負荷は大きく、慢性的な人手不足も指摘されている。

 荷主側の小売業者、EC事業者も対応に取り組んでいる。たとえばヨドバシカメラは、ECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」の「ヨドバシエクストリームサービス便」で自社社員による配達を実施するなど、自社で配送網を構築する動きが広まっている。アマゾンも大手宅配事業者の値上げなどを受け、ここ数年で自社物流網を拡充。地域ごとに配達網を持つ事業者に委託する「デリバリーサービスパートナー(DSP)」制度をスタートさせ、日本郵政やヤマト運輸など大手宅配業者以外の中小業者と直接契約する方式も導入している。

 そんなアマゾンのDSPの配達員が前述のような問題行為を行う事例が起きているという。前出・西日本新聞ウェブ版記事では、宅配ロッカーの多くがずっと「使用中」になっていることを不審に思ったマンション所有者が確認したところ、半数のボックスが空のまま複数の同一数字の暗証番号が設定されており、配達員が閉まったボックスに番号を入力して自分の荷物を入れ続けていたという証言が紹介されている。

背景に軽貨物運送事業者の労働環境の悪化

 こうした事例は増えているのか。物流ジャーナリストの坂田良平氏はいう。

「大手宅配業者であるヤマト運輸や佐川急便の宅配ドライバーでは、こうした事例はほとんど起きず、起きても極めてレアなケースといえます。今回問題を起こしたのはアマゾンのDSPの配達員とのことですが、アマゾンから委託を受けて実際の配達業務を担う大半は個人事業主の軽貨物運送事業者であり、宅配業者とは異なります。

 軽貨物運送事業者によるトラブルとして多いのは、たとえば配達先の住戸と隣接する別の住戸の前に駐車したり、マンションに設けられている配達車両専用駐車場ではなく適当な場所に駐車するといった駐車違反です。このほか、冷凍食品を冷凍専用以外のボックスに入れて宅配ロッカー全体をびしょ濡れにして使用できなくさせたり、雨の日に廊下に荷物を置いたままにして濡れてしまったりというケースもありますが、今回のような悪質な事例は聞いたことがありません」

 背景には軽貨物運送事業者の労働環境の悪化があるという。

「たとえば以前は、アマゾンはアマゾンフレックスの配達を委託する事業者に、荷物一個当たり160円、一日当たり160個配達で一日計2万5600円ほどを報酬として支払うというのが相場でした。しかし2020年にアマゾンは、一日当たりの配達個数200個、日額固定で1万8000円という報酬体系に変更し、運送事業者からすれば個数は増えるのに報酬が減るというかたちになりました。

 また、地域にもよりますが、以前では配達先の受取人が不在で荷物を持ち帰る『持ち戻り』分も配達個数分にカウントされるケースもありましたが、今ではほとんど認められなくなっているようです。現在でもアマゾンから委託を受けて個人事業主に再委託する一部の中規模事業者のなかには、配達個数に応じて報酬を支払うところもありますが、総じて軽貨物運送事業者は『たくさん配達しても収入は減る一方』という状況に追い込まれており、モラルハザードが生じる原因になっています」(坂田氏)

 法改正により来年4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限。さらに今年の法改正で、中小企業で月60時間の時間外労働が発生した場合の割増賃金率が25%から50%へ引き上げられるなど、物流業界従事者の労働環境改善に向けた動きもみられるが、坂田氏はいう。

「いずれの施策も企業に属する社員が対象であり、個人事業主である軽貨物運送事業者の待遇改善には直接的にはつながりません。今回のように一部の配達員の間で空の宅配ロッカーをキープするという行為は、当然ながら当事者も『悪いこと』だという認識を持っていたはずですが、それでもやらないと食べていけないほど労働環境の悪化が深刻だということだと思います」

 今後アマゾンとしては、どのような対策を取る予定なのか。当サイトは同社に問い合わせ中であり、回答を入手次第、追記する。

(文=Business Journal編集部、協力=坂田良平/物流ジャーナリスト)

坂田良平/物流ジャーナリスト、Pavism代表:取材協力

坂田良平/物流ジャーナリスト、Pavism代表:取材協力

「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載『日本の物流現場から』(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。
Pavism

Twitter:@Pavism_jp

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