大学受験のため学習塾に通っているものの偏差値が一向に上がらず、塾側から勧められるがままに受講する授業の数を増やし週5日の通塾。しかし授業を受講するのに精いっぱいで復習に手が回らず、成績は伸びずに受験失敗。結果的に数百万円を費やした塾代が無駄に終わったというネット記事が少し前に話題を呼んだ。
特に入学・進学シーズンである春は、学習塾に通うことを考える生徒や保護者も多いだろうが、なかには塾生の成績を度外視し、とにかく授業料・テキスト代を稼ごうとする利益至上主義の銭ゲバ体質の学習塾も多いという。そこで、生徒に見合わないプランを提案してお金を吸い上げようとする利益優先型の塾の実態について、個別指導LOGIQUE代表の戸髙一穂氏に話を聞いた。
大手塾はノルマを課しがち、気弱で素直な生徒を説得
大手を中心に売上のノルマを講師に課している塾は少なくないと戸髙氏は語る。
「全国展開していて生徒数を多く抱える大手塾ですと、率先して集客を図っているところも多いです。学習塾は営利企業なので、積極的に授業数を増やすことを勧める営業活動は本来は問題ないのですが、生徒にとって不要な講座やテキストを売るところまで踏み込んでしまうと、悪質だといわざるを得ません。なかには全教科分の授業を取らせて授業料を獲得しようとする教室も珍しくないのが実情です。ほとんどの生徒は、苦手教科を受講すれば成績が改善するケースが多いので、あまりにも講座数が多いというのは見直すべき。大学受験を目指す生徒の月々の月謝はおおよそ5万円程度ですが、これが10万円以上となってしまった家庭も存在します。月10万円となると、1年間で120万円も塾に費やすことになります。
また月謝のみならず、夏期講習といった長期休暇ごとの講習会やそれに伴うテキスト代にも、講師側に勧誘ボーナスが付くこともあり得ます。そうなると、生徒確保のために講師が奔走することも容易に想像でき、講師の言葉を鵜呑みにしてしまい余計なお金を払ってしまったという生徒も出てくるわけです」(戸髙氏)
塾の勧誘に惑わされて不要な講座を取ってしまう生徒には共通点があるという。
「やはりまず、成績が思うように伸びていない生徒が余計な講座を取ってしまいがちです。そうした生徒は、授業で学んだ内容を復習する時間が十分に確保できていないので、さらにコマ数を増やすと予習・復習する時間がどんどんなくなっていって、悪循環に陥ることはよくあるケースです。
また気弱な生徒ほど塾側の提案に素直に従ってしまうということもあるでしょう。たとえばよくある事例なのが、講師とマンツーマンの面談を行っているときに『授業数を増やしてみてはどうだろうか?』と提案されること。1対1という閉鎖的な空間なので考える間もなく決断を迫られてしまい、雰囲気に流されてYESと答えてしまうことは考えられます。塾側と長い付き合いであればあるほど、提案をそのまま受け入れてしまうかもしれません」(同)
ただ一方で、もちろん授業を積極的に取ることで成績アップする生徒もいるため、こういった塾側の勧誘行為が一概に悪いとはいえないという。
「特に自学自習できない生徒ですと、授業に参加させることがやる気を促すことにもつながるため、授業を増やすことがプラスに働きやすいです。講座のなかには、授業の前後に自習時間を設けているものもあるので、復習の習慣化にも効果的。コマを増やすのであれば、こうしたオプションが付いていることも確認すべきです」(同)
夏期講習などは半ば強制的? 生徒主体で決める大切さ
月謝が当初の想定よりも多くなってしまうことはトラブルのもとにもなりやすい。
「広告で相場より低めの月謝が記載されていたら、隅々までチェックすることをおすすめします。表面上は安く見えるのですが、よく確認したらテキスト代が別、エアコンなどの光熱費も別料金でかかるなど、総合的に見ればほかの塾と同じか、それ以上の月謝になっている可能性があるんです。
また春季、夏季、冬季などの時期に行われる講習会の存在も注意すべき。塾の広告は基本の月謝のみの記載であり、講習会の費用がプラスされていないことが多いのですが、いざ入塾するとなると講習会への参加は半ば強制的になりがちです。たとえば夏期講習のもろもろで数十万円かかるというケースも多々あり、想定よりも費用がかさみやすいもの。講習会への参加も入塾前にきちんと説明されていればいいのですが、知らぬ間に参加することが当たり前という空気になっていたというのはよく聞く話です。
昔の予備校は通常の講座に加え、講習会を含めてはじめて学習範囲のカバーが完了することもありましたが、現在は数としては少なくなってきています。ですので春期講習、夏期講習、冬期講習などは自分に必要ないと思えば参加を断っても問題はないでしょう」(同)
では利益優先ではなく、生徒一人ひとりの学力に合わせた学習スタイルを考えてくれる塾、予備校を見極めるにはどこに注目すべきなのか。
「まず入塾の段階で、どの講座を取るかという実質的な選択権が生徒側に委ねられているかどうかを見極めましょう。生徒主体で強化したい科目、弱点を補強したい分野を決められることが望ましいので、面談や説明会の段階で塾側が生徒の意向にそこまで干渉しなければ、ひとつの判断基準にしてみてもよいでしょう。
そのうえで、生徒の成績なども考慮し、重点的に勉強したほうがいい教科や勉強方法の提案を行える塾かどうかを口コミなどで評価すべき。無理な勧誘ではなく、あくまで提案というスタイルを貫けているかを重視して確認したほうがいいですね。納得できる理由で講座を勧められているのであれば、もちろん承諾してしまっても構わないです。それでも判断できない場合は、お試し体験してみて塾の雰囲気を掴むことから始めましょう」(同)
受験生や保護者たちには、利益至上主義の塾か否かをきちんと見定め、生徒本位でバックアップしてくれる塾を選び、受験戦争を乗り越えてもらいたいものだ。
(取材・文=文月/A4studio、協力=戸高一穂/個別指導LOGIQUE代表)