大手空調機メーカー、ダイキン工業の大阪府摂津市の淀川製作所周辺のPFOA(有機フッ素化合物:ペルフルオロオクタン酸)汚染問題をめぐる動きが活発化している。環境省が2020年度に行った調査では、工場近くで国の暫定目標値(1リットルあたり50ナノグラム)の110倍となる5500ナノグラムが検出されており、22年に工場周辺の住民11人に行われた血液検査では7人から、非汚染地域の6倍以上もの高濃度のPFOAが検出されている。摂津市と大阪府、ダイキンは09年から市民には知らさないかたちで定期的に「PFOA対策連絡会議」を行ってきたが、徐々に市民に情報が知られるようになり、摂津市議会が「PFOA等による健康影響の解明及び指針等の整備を求める意見書」を可決したのは22年3月になってのことだった。市民団体「PFOA汚染問題を考える会」は今年4月、調査を求める2万3788人分の署名を環境省に提出したが、同団体は「汚染源と見られるダイキン工業をはじめ、国や自治体に対策を訴えてもなかなか対応してもらえません」(オンライン署名サイト「change.org」より)としている。
PFOAは数多くの種類がある化学物質の総称、PFAS(ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)の一種で、幅広い分野の商品で使用されていたが、ヒトや環境に有害な影響を与える恐れがあるとして2000年代から世界的に問題視されるように。19年に国連のストックホルム条約会議でPFOAの製造・使用の原則禁止が決定され、WHO(世界保健機関)は22年にPFOAの基準値を1リットルあたり100ナノグラムとする暫定案を公表した。
日本でも規制の動きが進んでいる。21年に政府はPFOAの製造・輸入を全面禁止し、今年2月には水質汚濁防止法上の「指定物質」(公共用水域に多量に排出されることにより人の健康や生活環境にかかわる被害が発生する可能性がある物質)に指定したが、国内では各地で住民を対象に、血液中のPFOA濃度に関する調査が行われている。
「PFOAによる健康への影響については、アメリカの疾病対策センターが腎臓がんや精巣がんのリスク上昇を指摘しており、国内でも専門家から免疫力低下や脂質代謝異常のリスク上昇が指摘されているものの、現時点ではまだリスクに関する世界的に共通化された見解が確立されておらず、統一された基準値も存在しないため、対応が難しい面がある。そのため、行政の動きが遅い」(全国紙記者)
米国では住民に多額の和解金
ダイキンは1980年代からPFOAの製造を行っていたが、世界的な規制の動きを受けて2012年に国内拠点での製造・使用を終了。15年には海外拠点での製造・使用も終了し、現在、浄化・流出防止対策に取り組んでいると説明している。問題となっている淀川製作所では、敷地の外周を囲い込む遮水壁の設置を計画しており、今年6月からテスト遮水壁を設置している。
ダイキンと大阪府、摂津市の動きに危機感を募らせているのが市民だ。21年に環境省が行った調査によれば、淀川製作所付近では同省が定める目標値の110倍、22年に大阪府が行った調査では、用水路から環境省が定める目標値の130倍、地下水からは同400倍のPFOAが検出。市民団体「PFOA汚染問題を考える会」は政府や自治体、ダイキンに対し、汚染土壌の調査や地域住民全体に対する健康影響調査、補償に関する協議などを求めて活動を行っているが、「国や自治体、事業所から『たらい回し』にされている」(「change.org」より)と不満を隠さない。
こうした活動を受け、国も動き始めている。4月の参議院環境委員会で日本共産党はこの問題を取り上げ、工場周辺の安威川では1リットルあたり6万7000ナノグラム(04年)という世界最悪レベルの汚染をダイキンが引き起こしていると主張。西村明宏環境相は「科学的知見が不十分なので、専門家会議が議論している。結果を踏まえしっかりと取り組む」と答弁している。
「ダイキンは淀川製作所を起因とする住民の健康被害があるとも、ないとも明言しておらず、『行政と住民との対話を続けていく』という姿勢。これまで大阪府、摂津市と密に協議を重ね連携しているところをみると、かなり用意周到にことに当たってきた様子がうかがえる。それだけに、明確な違法性が認められるまでにはハードルが高いのが実情だろう。ただ、ダイキンは米国では工場から出たPFASの問題をめぐり住民に多額の和解金を支払っており、もちろん米国と日本では法律は違うものの、なぜ米国では住民に事実上の補償を行っているのに、日本では行わないのかという点は今後、焦点となってくるのではないか」(前出・全国紙記者)
今後の展開が注視される。
(文=Business Journal編集部)