金鳥とダイキンと日本の夏【完全無欠のドキュメンタリー的PR戦略】
「超PR」と銘打っている本連載にふさわしく、前回と今回は真正面から「PR」について考える。
そもそもPRとは、企業が自社の商品やサービスについての「物語」を伝える話法だというお話をしてきた。この季節にふさわしい、「日本の夏」に欠かせない2つのブランドを題材に、PR発想で「物語」をどうやってつくるのかを考える。
論点1:PRはドキュメンタリーだ
世にある「物語」は、2つに大別できる。それはフィクションとノンフィクションである。作品(あるいは表現)という枠組みのなかで、作家(クリエイター)が自由かつ独自に描き出す世界、それがフィクション。一方で、現実の社会のなかで本当に行われている事柄、実際に起きている事象に基づいて物語として構成していく、それがノンフィクション。
PRはノンフィクションであり、「企業のドキュメンタリーだ」ととらえていい(と私は考えている)。一方で、わかりやすく対比させるなら、「広告はフィクションだ」ということになるが、最近はそうとも言い切れない。広告表現をめぐってインターネット上で炎上し、広告出稿を中止したり動画を取り下げたりするという事態が頻繁に起きている。
表現の中身はフィクションでも、炎上するような広告を出稿しているという事実において、消費者は広告主である企業を評価する。広告をきっかけに騒ぎにもなれば、評判にもなる。テレビコマーシャルなどを大量に出稿する企業において広告活動は、表現はもちろん、投下量や取り組み方まで含めて、企業のドキュメンタリーを構成する要素なのだ。
2016年8月、『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?―カッパと金の鶏の不思議な関係』(金鳥宣伝部/ダイヤモンド社)というビジネス書が刊行された。殺虫スプレー「キンチョール」を販売するKINCHO(大日本除虫菊株式会社)の実像に迫っている一冊だ。古くは昭和の大スター美空ひばりが登場し、どどーんと花火で「金鳥」の文字が浮かび上がるなか、渋めのナレーションで「金鳥の夏、日本の夏」という蚊取り線香のテレビコマーシャル。さらには、「タンスにゴン、タンスにゴン、亭主元気で留守がいい」というフレーズの防虫剤のコマーシャルなど、金鳥宣伝部がいかにして面白くインパクトのある広告を生み出してきたかが語られている。表現やフィクションとしての広告の話である。