金鳥とダイキンと日本の夏【完全無欠のドキュメンタリー的PR戦略】
ただ、そこに関わった制作者や役者さんの裏話まで含めて、広告活動が企業のドキュメンタリーであることがよくわかる。そして、その精神は今も金鳥宣伝部の「広告魂」として受け継がれている。
では、広告活動まで包含する企業のドキュメンタリーとして、PRの「物語」はいかにつくられていくのか。あるいは、どうやってつくりあげたらいいのか。
論点2:PRは農耕だ
私はPRという仕事を説明するときに、その構造を“木”にたとえる。
・根幹:根と幹からなるPRの本質
・枝葉:根幹と花や実をつなぐ戦略的な仕掛けの部分(これがないと花は咲かないし、果実も収穫できない)
・花と実:仕事の成果だ
つまり、PR発想で物語をつくるということは、この木の構造全体にかかわる話だ。たとえば、「戦略PR」と呼ばれている戦法の多くは、物語の演出や話術の話で「枝葉」に当たる。枝葉末節で大切ではないという話ではない。これがないと「花と実」の成果が得られない。マーケティングPRの成果は、話題になってモノが売れる状況をつくるということだが、そのための仕掛けだ。つまり、広告を含むプロモーションの話が「枝葉」である。
ただし、「物語」の本質はそこにはない。「根っこ」は、事業の根本にある理念や志であり、事業の目的や存在意義の話だ。そして「幹」は、その目的のために事業者が消費者や社会とどういう関係づくりを行うのかという日常の積み重ねである。ドキュメンタリーとは、この生活や社会との関係づくりのなかで描かれていくものだ。
ダイキンの“ドキュメンタリーづくり”
ここで、もう一つ事例を挙げよう。金鳥に負けず劣らず、夏に関わりの深い企業だ。10年から筆者がご一緒に“ドキュメンタリーづくり”に取り組んでいるダイキン工業の話だ。ダイキンは、世界的な空調専業メーカーで、その事業の根っこに「空気と空調にこだわり、環境技術で世界に役立つ企業になる」という意志があり、「空気に関わる領域では、世界中のどの企業よりも、広く、深く、生活者や社会とかかわること」を目指している。ゆえに、エアコン売り場での競争と、そこを支える広告活動以外でも、「空気で答えを出す会社」を自ら標榜し、空気に関わる消費者のさまざまな疑問や課題に答えを出し続けている。