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ジャニーズ事務所「企業離れ」拡大の原因はジュリー代表取締役の残留と全株式保有

文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表
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ジャニーズ事務所代表取締役の藤島ジュリー景子氏(写真右)

 故ジャニー喜多川元社長による問題をめぐり、騒動後としては初となる会見を7日に開いたジャニーズ事務所。藤島ジュリー景子氏の社長退任と東山紀之氏の社長就任、被害者の救済に向けた取り組みなどが発表されたが、その直後から同事務所所属タレントの広告起用中止・契約更新見合わせの動きが企業の間に広がっている。その理由として、問題を起こした当事者で同社創業者であるジャニー氏の姪に当たり、創業家一族として同事務所の株式を100%保有するジュリー氏が代表取締役として経営陣に残留する点が指摘されている。21日発売の「週刊文春」(文藝春秋)では、ジュリー氏の代表取締役留任の理由が、約860億円に上る相続税支払い免除のために事業承継税制の特例措置を受けることだとも伝えられているが、ジュリー氏の身の処し方が同事務所、ひいては所属タレントに悪影響を及ぼしている面はあるのだろうか。

 ジャニーズ事務所は先月29日、一連の問題をめぐり再発防止特別チーム(座長:林眞琴元検事総長)が取りまとめた調査報告書を公表。報告書は「(同社は)解体的出直しをするため、経営トップたる代表取締役社長を交代する必要」があり、「ジュリー氏は、代表取締役社長を辞任すべきと考える」としていたが、結局、ジュリー氏は代表取締役として残ることになった。

「同事務所がジャニー氏の不適切な行為を報じた『週刊文春』に起こした裁判で、裁判所は04年に『(所属タレントらへの)セクハラについての記事の重要部分は真実と認定する』との判決を確定させたが、当時すでにジュリー氏は同事務所の取締役というポジションにいた。つまり、それ以降はジュリー氏はジャニー氏の不適切な行為を認識したままジャニー氏を社長に据え続け、それによって新たな被害者を生み続けたという責任がある。そのジュリー氏が『被害者救済に取り組むために代表取締役に残留する』という判断は、それなりの規模を持つ企業の判断としてはあり得ない。広告出演契約をする企業の大半が、そんな『まともではない企業』との取引は続けられないと判断したのは当然だろう。また、ジャニー氏とメリー氏から寵愛を受けていたタレント出身の東山氏が社長に就任するというのも、一般企業の常識からは逸脱している」(テレビ局関係者)

 数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「『ジュリーさんは普通の人間だったんだな』『やっぱり、人間は一人では生きられないんだな』というのが率直な感想です。極めて特殊な環境に生まれ育ち、仕事をしてきたため、何を考え、どんな価値観をお持ちなのかは一般庶民には想像できません。しかしもしも、とても無責任であったり、孤独が苦でなければ、会社の現預金を配当で吸い上げて、株をどこかに売却して現金化すれば、相続税についても特例を受けずに払ったとしても恐らくそれでも巨額のお金が残るので、誰にも顔が割れていない外国に移住してのんびり暮らすこともできるはずです。

 でもそうしないのは、責任を感じて自分で何とかしたいと思っていたり、雇用している社員やタレントを含め、たくさんの人間関係を完全に失うことに抵抗があるため、引き続き経営に関わるのだと推測します。そうして『しがみつく』感覚は、社会で生きる一人の人間としては、異常なことではないと感じます。古い体質の大企業の幹部にもたくさんいるのではないでしょうか。

 ただ、経営改革は難しいでしょう。私の経験上、会社をダメにした人と同じ人が引き続き中心にいて(会社組織はオーナーが最終最大権力者です)、何かのきっかけで心や考え方が急に入れ替わって、会社を違う良い方向に推進させていくようなことは極めて難しいからです。『普通の人』であれば自己否定はそう簡単にはできませんし、同じ組織の中で今まで自分に絶対服従だった人たちが、自分以外の人のほうを向くことを受け入れることは困難です」

レピュテーションリスクが自社に飛び火しないように取引を切る

 ジュリー氏は現在も同事務所株式を100%保有しているが、弁護士はいう。

「非公開企業の株式を100%保有しているということは、名実ともに経営権を握っているということであり、さらにジュリー氏は代表取締役ということなので、ジャニーズ事務所の最高経営責任者はジュリー氏ということになり、『解体的出直し』とは真逆の状況になっている。また、ジュリー氏は約20年にわたり取締役としてジャニー元社長の下で経営を取り仕切ってきたという事実があり、そのジュリー氏が被害者の救済にあたるというのは、筋が通らない。特に海外で事業を展開する企業や外国人株主の比率が高い企業としては、今後もそのような事務所のタレントを広告に起用したり、取引を継続することは、リスクが多すぎてできない。もし仮にジュリー氏、および創業家と関係が深かった経営陣がすべての役職から離れて、ジュリー氏が株を手放す意向を表明し、さらに外部から社長を招へいすれば、取引先離れの動きはここまで大きくはならなかったのではないか」

 企業の間で広まる同事務所所属タレントの広告出演の中止や契約更新見合わせに、ジュリー氏の取締役留任と株保有が影響している可能性はあるのか。前出・中沢氏はいう。

「費用対効果が得られている取引がある時に、取引相手の経営者のコンプライアンス違反を理由に取引を見直すには時間を要します。まして犯罪やコンプラ違反を実行した当人がもういないとなれば、なおさらです。それでも次々と取引中止の宣言が出てくるというのは、お金を払っている側の経営者や担当部門が、費用対効果について自信を持てないことがあるからだと思います。ジャニーズのタレントAさんを広告宣伝に起用してきた商品やサービスについて、『なぜ別の事務所のタレントBさんではダメなのか』を説明することは、かなり難しいからです。ならばレピュテーションリスクが自社に飛び火しないように取引を切るということは、容易にできる判断だと思います。こうした動きが『一般的か』といわれれば、一般的ではありません。しかし、今回の一例の動きは『タレントと広告宣伝効果』という曖昧な相関関係があるために起こっているのだと思います」

正常化に向かう芸能界

 報道によれば、同事務所は来月2日に会見を開き、社名の変更、タレントと社員を新たに設立する新会社の所属とすることを発表するとされるが、テレビ局関係者はいう。

「ジュリー氏と東山氏は旧ジャニーズ事務所に残り被害者救済の業務にあたるということなので、タレントが新会社の所属となれば企業やメディアは起用しやすくはなるだろう。各アイドルグループ・タレントには一定数のファンがついており、子会社も含めて企業グループ全体で大規模なコンサート開催や楽曲の版権管理、グッズ販売、ファンクラブ運営のノウハウ、レコード会社との強固な関係もあり、徐々に広告出演の仕事なども戻ってくれば、当面の経営は安定的に続くだろう。

 一方、ジャニー氏とメリー氏が築き上げたタレントのスカウト、育成、メディアへの売り込みというシステムが崩れていくのは避けられず、これからどんどん非ジャニーズの人気男性グループも出てきて、『NHK紅白歌合戦』に何組もジャニーズのグループが出るというようなこともなくなる。長い目でみれば徐々に衰退が進み芸能界での影響力も弱まっていくだろうが、これまでの男性アイドルグループ界のジャニーズ一強体制のほうが異常だったわけで、業界全体が正常化に向かうということ」

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

企業再生コンサルタント兼プロ経営者。
東京大学大学院工学研究科を修了後、経営コンサルティング会社、投資ファンドで落下傘経営者としての企業再生に従事したのち、上場企業子会社代表を経て独立。雇われ経営者としてのべ15期以上全うし、業績を悪化させたのは1期のみ。
事業承継問題を抱えた事業会社を譲受け保有しつつ、企業再生とM&Aをメインとしたコンサルティングおよび課題内容・必要に応じて半常勤による直接運営・雇われ経営者も行う。シードステージのベンチャー企業への出資も行う。
株式会社リヴァイタライゼーション 代表・中沢光昭のプロフィール

Twitter:@mitsu_nakazawa

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