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モスバーガー、モラル逸脱…ポスターのジャニタレ顔を「テイクアウト」の紙で隠す

協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表、江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
モスバーガー、モラル逸脱…ポスターのジャニタレ顔を「テイクアウト」の紙で隠すの画像1
モスバーガーの店舗

 性加害問題を受けてジャニーズ事務所所属タレントの広告起用中止・契約更新見合わせの動きがスポンサー企業の間に広がるなか、ハンバーガーチェーン・モスバーガーの一部店舗内に掲出されたポスターで、広告キャラクターのSnow Manのラウールと渡辺翔太の顔の上に

「テイクアウト お持ち帰りいただけます!!」
「テイクアウト用スプーン・フォークがご不要なお客さまはお申し付けください」

などと書かれた紙を店員が貼り、顔を隠していたことが判明した。運営会社のモスフードサービスは13日、謝罪コメントを発表したが、ラウールと渡辺のファンからは「人権侵害」「名誉棄損」「悪ふざけ」などと怒りの声が多数寄せられる事態に発展。今回のモスバーガーの行為は、当該タレントの名誉棄損に該当するのか。また、所属タレントの広告起用の契約期間中にこのような行為をされた芸能事務所側が、クライアント企業に対し損害賠償を請求して法的手段を取った場合、認められる可能性はあるのか。そして、店舗の管理・マネジメントが徹底されているはずの大手外食チェーンであるモスバーガーで、なぜこのような事態が起きたのか。専門家の見解を交えて検証する。

 一連の問題をめぐり7日、同事務所の藤島ジュリー景子氏と東山紀之氏らが会見を行い謝罪。ジュリー氏が社長を引責辞任し、東山氏が社長に就任したことを発表したが、これを受け、日本マクドナルドや日産自動車、サントリーホールディングス、アサヒグループホールディングス、花王などスポンサー企業が同事務所所属タレントの広告起用中止・契約期間満了後の更新見合わせを表明する動きが広まっている。

「会見同日に、日本を代表する企業である東京海上日動火災保険と日本航空(JAL)が、いち早く起用見合わせの意向を表明したことが大きい。日本国内では『タレント個人に罪はない』という認識も根強いが、海外では人権侵害をおかしていたと認めた企業との取引は許されない。両社のようにグローバルに事業を展開する企業は、問答無用に広告起用を見直す以外に選択肢はない。また、ジャニーズ事務所の100%株主で創業家のジュリー氏が取締役に残り、さらに株を手放す意向を示さなかったという要因も大きい。問題を起こした張本人が創業者であり、その一族が実質的に今後も経営権を握ることになり、保険金不正請求問題で創業社長が退任したビッグモーターとまったく同じ構図。その点がネックとなり、スポンサー企業が雪崩を打って広告起用の見直しに動いた面がある」(上場企業の広告担当)

 一方、モスフードサービスや不二家、アルビオンなど契約を継続する意向を示す企業もみられたが、その後、3社ともに一転して起用中止や契約更新の見合わせなどを決めている。

名誉毀損が成立することはない

 そのモスフードサービスが運営するモスバーガー店舗で、前述のような事態が発生。同社は13日、

「このようなことはあってはならないことで誠に遺憾であり、タレントご本人、ファンの方、ならびにお客さまに極めて不快な思いをさせてしまったことに対し、大変申し訳なく心よりお詫び申し上げます」

「店頭掲示物等へ何らかの変更を加えるなどの本部からの指示は一切ございませんが、指導が行き届かなかった点について責任を感じております」

とする謝罪コメントを発表しているが、ファンからは「名誉棄損」「もうモスに行かない」など批判の声が強まっている。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「この張り紙自体に『誹謗するような内容』が記載してない限り、この行為が名誉毀損となることはありません。教科書の歴史の教科書への落書きと同レベルです(もちろん、死んでいる歴史上の人物の人権と同じではありませんが)。もちろん、図にのった行動(いほーではありませんが、あほーです)をするほうに問題はあるのですが、こういう、誰か少し図にのった行動をするとすぐに飛びつく“輩”のほうが、さも『悪い奴を発見した!』といった偽善ぽくて好きになれません」

相手企業との信頼を大きく傷つける行為

 気になるのは、管理が徹底されているはずのモスフードほど大規模な外食チェーンにおいて、なぜ、このような不適切行為が発生してしまったのかという点だが、外食チェーン関係者はいう。

「いくら高額な出演料を支払うとはいえ、社会的なステータスが高い自動車や家電、食品のメーカーと比べて格下の外食チェーン側にとっては、ジャニーズ事務所というのは『タレントさんにCM・広告に出ていただく』という存在。しかも今回問題となっているのは、すでに亡くなった元社長の行為であり、直接的にはタレント本人は無関係。企業同士で締結された契約の期間中に、出演タレントの顔に『テイクアウト』などと書かれた紙を貼り付け隠すという行為は、悪ふざけを通り越しており人権侵害レベル。極めて悪質であり相手企業との信頼を大きく傷つける行為で、企業取引の世界ではモラルが逸脱しているといっていいレベル。モスフードは『本部が指示したわけではない』としているが、店舗の責任者である店長は当然ながらこの行為を認識していただろうから、この弁明は通用しない」

 別の外食チェーン関係者はいう。

「百歩譲って、顔に貼られた紙が無地の紙などであれば、まだ理解できる部分はある。たとえば、本部側の明確な意向を確認できないなか、これだけ世間を騒がせている問題ゆえに顧客に与えるイメージや売上への影響などを店舗側が考慮して、勝手にポスターの掲出をやめるわけにもいかず、焦って応急措置的に顔の部分を隠すために紙を貼ってしまったという可能性はゼロではないかもしれない。だが、今回貼られた紙は無地ではなく、『テイクアウト お持ち帰りいただけます』などと書かれており、明らかに店員の悪ふざけというか悪意を感じる。画像や映像の顔の部分を隠すという行為は、隠された人物がなんらかの不祥事を起こした際にも行われる処理であり、タレントについてそういうイメージを見た人に抱かせることは社会通念上許されることではない」

とても失礼な行為

 自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「モスフードは今回の騒動の謝罪コメントで『本部は指示していない』としていますが、たしかにそうだと思います。もし本部が指示を出していれば、モスバーガーの各店舗で一斉に同じ動きが見られます。また、貼られているポスターが原因で多くのお客さんからクレームがあり、企業イメージがマイナスになると本部が判断したら、ポスター撤去という指示を出すことでしょう。店舗管理・マネジメントが徹底されていると思われる大手外食チェーンにおいても、今回のような各店舗の独走はありえます。バイトテロを思い出してみてください。スタッフや店長も人間です。指令をインプットされたロボットではありませんから、本部がいくら啓蒙・啓発活動、教育をしても勝手な判断や行動でお客さんや本部に迷惑をかけてしまうことは避けられません。

 そして、今回は店長や現場スタッフの感性と判断により、タレントの顔を隠す意図で『テイクアウト お持ち帰りいただけます』『テイクアウト用スプーン・フォークがご不要なお客さまはお申し付けください』と書かれた紙を貼っていますが、世の中の感性とはズレていたようです。張り紙に書かれた内容よりも、顔の上に張り紙があるという事実に注目が集まります。そして『人の顔を隠す』のは、何か悪いことをしたという理由や、人物の特定を防ぐという理由で行うものです。ジャニーズは事務所としては問題を起こしましたが、タレントが問題を起こしたわけではありません。そのような状況において顔を隠す張り紙を張るというのは、とても失礼な行為であり、お客さんから常識を疑われてもおかしくはありません」

 外食チェーン各社は有名タレントをCM・広告に起用しており、その出演料はときに数千万円レベルの高額に上るとみられるが、特に商品単価が数百円のファストフードチェーンにおいて、高額な出演料に見合うほどの売上増など業績面での効果はあるものなのか。

「通常、大きな企業になるほど売上アップやイメージアップを狙うためにタレントを起用します。実際にいくら売上アップに貢献したか明確には見えない部分もありますが、企画ごとに年間の広告費の予算枠があり、そのなかで何をするか、訴えかけるターゲット層やスケジュールをどうするのかが決定されます。ちなみに小さな飲食店の場合は、予算枠という概念がなく、スケジュール組みをしていないところがほとんどですが、広告費は平均するとネット広告を中心に年間で売上の1~3%くらいになっているのではないでしょうか。それに対して大手となると3~7%くらいになりますが、企業ごとに結構幅があります。

 何もしないと競合他社や店舗、商品においていかれます。広告には新規顧客の誘導効果だけでなく、既存顧客の呼び戻し効果もありますから、絶えず広告を使って何かしらの情報発信や提案を行わなくてはなりません。そんな大事な広告の場で企業がマイナスのイメージを生んでしまったという点で、残念な出来事だったと思います」(同)

(協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表、江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

●江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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