セブン-イレブンのレジカウンターに「毎日の1杯がお得に!セブンカフェ・サブスク(四国限定)」というビラが大量に置かれていた。詳細を確認すると、2000円を前払いすることにより30日間、コーヒー(ホット/アイス)レギュラーサイズ(110円)が1日1杯飲めるとのこと。よって、毎日1杯飲むと1300円お得になる。ちなみに、ネット上の情報によると、四国に加え東京都渋谷区・品川区も対象エリアになっているようだ。
さて、みなさんはこうしたセブンカフェ・サブスクについて、どのように思われるだろうか。
まず、近年よく耳にするようになった「サブスク」について整理しよう。サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略語であり、もともとの意味は「製品やサービスを受け取るため、または組織のメンバーになるために定期的に支払う契約:会費や定期購読料など」(Cambridge Dictionary)、「クラブの会員になったり、慈善団体を支援したり、新聞や雑誌の定期版を受け取るといったサービスを受けるために定期的に支払う金額や支払う行為」(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)となっている。
確かに、昔から欧米を中心に雑誌など「1年購読すると7割引」など、消費者にとって大きな恩恵をもたらすことから、一部の商品ではかなり普及していた。出版社にとっても雑誌の総コストにおける紙代の割合は小さく、大きな割引をしてでも販売部数を伸ばすことが利益拡大にとって重要であったのだろう。
さらに、近年のサブスクの定義を見ると、「所有」ではなく一定期間、利用するビジネスモデルのように「利用」を強調するものが多い。これは電子書籍・音楽配信・動画配信などデジタルコンテンツのサブスクを強く意識しており、実際、このようなサービスを手掛ける企業は大きな成功を収めている。
こうした動向を受け、一時、ありとあらゆる業種の企業がサブスクに着手したが、概ね失敗に終わっている。例えば、焼肉チェーン大手の牛角は、2019年11月に通常3480円の牛角コース(90分食べ放題)を1カ月間利用できるサービス「焼肉食べ放題PASS」(1万1000円)を開始したが、翌年早々には終了となっている。この牛角のケースは想定以上の利用回数により、採算が悪化してしまった事例と捉えられるが、逆に顧客において、なんらお得感なく、サービスが普及しなかったという事例も多く生じている。
昨年、大学の学部生で構成されるゼミで、「なぜ動画配信では普及しているサブスクが飲食業では成功しないのか?」をテーマに研究したグループがあった。調査においては、消費者へのアンケートはもちろんのこと、店側へのインタビューも精力的に実施していた。そこでメンバーの頭を悩ますことになったのは、「店側と消費者、双方にとってWin-Winとなるサブスク」を設計する難しさであった。
サブスクは変動費が比較的小さい動画配信やテーマパークなどでは成功する確率が高いものの、逆に利用されるごとに食材費などがかさむ飲食店では難しいというのが一般的なパターンだ。また、「正規の価格で販売できたにもかかわらず、サブスクにより低価格での販売、さらには無償での提供となってしまい、収益が悪化した」といった、サブスクによるカニバリゼーション(共食い)ともいえる負の影響も考慮する必要がある。
このような点を踏まえ、デジタルコンテンツなど一部の商品群を除き、サブスクの導入は難しいと常々思っていたが、セブンカフェ・サブスクはうまくいくかもしれないと感じている。
まず、サブスクの価格設定が見事である。正規の価格3300円に対して、サブスク2000円ということは約4割引となり、この数字は多くの顧客に対してお得感を与えるのに十分だろう。しかも、コーヒーという商品はコンビニが扱う商品の中では極めて原価率の低い商品であり、店側にとっても十分に利益を確保できるはずである。さらに、コーヒー購入目的で来店し、関連購買(ついで買い)を行うケースは容易に想像され、顧客の囲い込みにも大きく貢献するだろう。
このように、セブンカフェ・サブスクにおいては、顧客と店側がWin-Winになれる可能性が十分にあり、非デジタルコンテンツ業界において珍しい成功モデルとなるかもしれない。