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「あたらない牡蠣」養殖に成功、完全陸上養殖は世界初…量産で市場流通へ

文=LUIS FIELD
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牡蠣の陸上養殖(ゼネラル・オイスターのHPより)

 11月から翌年3、4月が旬といわれている牡蠣の難点といえば、「あたる」ことがあるという点だが、「あたらない牡蠣」が広く流通する可能性が出てきた。8月、株式会社ゼネラル・オイスターは、あたる心配のない牡蠣「8TH SEA OYSTER 2.0」(エイスシーオイスター2.0)の完全陸上養殖に成功したと発表。海洋深層水を活用した牡蠣の完全陸上養殖の成功は、世界で初めての事例だ。そこで今回は「あたらない牡蠣」について、ゼネラル・オイスターグループで生産事業を担うジーオー・ファーム取締役COOである鷲足恭子氏に話を聞いた。

なぜ「エイスシーオイスター2.0」はあたらないのか

 牡蠣の産地といえば広島が有名であり、農林水産省が公開した情報によれば、令和2年の牡蠣類の養殖収穫量は全国で約16万トン、そのうちの半分以上を占めているのは広島県(約10万トン)だ。ちなみに牡蠣の養殖は一般的に次のように行われている。まずホタテ貝の貝殻を海中に入れて牡蠣の幼生を付着させ、その後に貝殻を沿岸に設置してある抑制棚に移し、潮の満ち引きを利用して稚貝を鍛えていく。その後、ホタテの貝から牡蠣を外し、収穫するまで海中で育成する。

 このように養殖に非常に手間がかかる牡蠣だが、どのような方法で「あたらない牡蠣」の養殖の成功にたどり着いたのだろうか。

「牡蠣にあたる理由は、海水に存在する細菌やノロウイルスを、牡蠣が中腸線という消化器官に取り込んでしまうからです。川から海に流れ込む生活排水や産業排水には消化しきれなかった細菌やウイルスが含まれています。その海水を牡蠣は1時間に20リットルも体内に取り入れています。その際、餌の植物性プランクトンと一緒に細菌やウイルスも体内に取り込んでしまうのです。

 エイスシーオイスター2.0は、人体に害を与える細菌やノロウイルスが存在しない海洋深層水を使って養殖を行っています。海洋深層水は水深200メートル以上にある海水で、川から流れ込んできた細菌やウイルスに汚染されない位置にあります。そのため、牡蠣が細菌やウイルスを取り入れることなく養殖できるようになりました」(鷲足氏)

 他の貝と比べて牡蠣だけがあたるイメージがあるのは、消化器官を含めて生のまま食べることが多いという背景もあるようだ。

「エイスシーオイスター2.0」の開発を目指したきっかけは「ノロウィルスの流行」

 これまでの常識を覆した「エイスシーオイスター2.0」は、どのような経緯で開発されたのだろうか。

「弊社のグループでは2000年創業以降、全国でオイスターバーを展開しています(2023年10月現在、24店舗)。2006年末に国内でノロウィルスが流行した際、2枚貝が原因だとの風評被害が起こって売り上げが激減してしまいました。それまでは産地直送で各店舗に牡蠣を輸送していたのですが、牡蠣の浄化センターを設け、そこで牡蠣の体内を清浄性の高い海洋深層水で浄化処理を行ってから発送するように変更しました。その結果、厚生労働省の衛生基準を下回る牡蠣の出荷が可能になりました。ただノロウィルスに関しては、浄化処理だけでは完全に取り除くことができません。

 そこで、養殖の最初の段階から人間に害を与える細菌・ウイルスがいない海洋深層水で育てる陸上養殖にたどり着きました。国内外では牡蠣の種苗採取、大きさが数ミリ程度になるまでは陸上で育てられることもありますが、その後は、海水の中で育てられます。食べられる大きさになるまで陸上で育てる方式を実現したのは世界初です。

 また、ここ数年で海の酸性化が進んでいるとの報告があります。この酸性化によって、牡蠣の成育に問題が出る可能性が指摘されています。陸上養殖は、この環境問題や食糧危機問題にも対応できるため、安全性以外にも重要性を感じています」(同)

「エイスシーオイスター2.0」が食べられるようになるのは2026年頃?

 今回は陸上養殖の成功の発表だったが、実際に「エイスシーオイスター2.0」が食べられるようになるのは、いつ頃になるのだろうか。

「現状の陸上養殖は、実証実験レベルで年間数百個ほどの生産量です。今後、量産施設を建設し、そこから生育期間が11カ月の牡蠣を養殖するとして、今から早くて3年後くらいの市場流通を目指して取り組んでいます。販路については弊社グループのオイスターバーでの提供はもちろん、これまで牡蠣はあたるからと敬遠してきたホテル業界や航空業界などにアプローチして、潜在顧客の掘り起こしをしていきたいと考えています」(同)

(文=LUIS FIELD)

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