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空港地上スタッフ不足が深刻、運航に影響…コロナ禍の発注停止で大量離職

文=横山渉/ジャーナリスト、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員
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「gettyimages」より

 成田国際空港会社は11月30日の会見で、グランドハンドリング従業員の深刻な人手不足の影響で、海外の新規就航や増便希望(週152便)のうち、今年度中に受け入れられる見通しが立っているのは3分の2(週101便)にとどまっていることを明らかにした。コロナ禍のあと、日本でも外国人観光客数が急速に回復し、一部の地域ではオーバーツーリズムまで懸念されるほどになった。国際線の航空需要が伸びているにもかかわらず、新規就航や増便希望に応えられないというのは、観光立国を目指す日本としては大きな損失だ。

 グランドハンドリング(グラハン)は、航空機が空港に到着してから出発するまでの限られた時間内で行われる地上支援作業の総称だ。具体的には、旅客ターミナルでの接客業務、手荷物の預かりや仕分けなどを行う「旅客ハンドリング」と、着陸した航空機の誘導作業(マーシャリング)、荷物の搬送と積み下ろし、機内の清掃作業などを担う「ランプハンドリング」に分かれる。

 グラハンは航空会社が自前で行っているものと思われがちだが、ほとんどは外部のグラハン事業者が担っている。つまり外注だ。グラハン事業者は国土交通省が把握しているだけでも、二次受け事業者を含め、全国に約400社もある。全国展開をするANAホールディングスや日本航空(JAL)の関連会社のほか、特定の地域を中心に展開する会社など、その規模は多種多様だ。航空経営研究所主席研究員で桜美林大学客員教授の橋本安男氏はいう。

「400社のなかにはANAやJALのグループ会社もありますが、大部分は空港のある地元の企業です。タクシー会社やバス会社のような地元の有力企業がグラハン事業者を抱えています。羽田空港みたいな大空港ですらANA系・JAL系のシェアは合わせてもわずか十数%です」

以前は「航空業界」というブランド力が効いた

 グラハンの従業員数は4年前に比べ全国で15%近く減少し、人手不足が深刻になっている。それにより、インバウンド(訪日客)の需要を取り逃がしているわけだが、それほどまでに人手不足になった理由は何か。

「全国の従業員数は2019年には約2万6000人だったのが、コロナ禍で多数の離職者が出て2万3000人くらいに減りました。コロナ禍で国際線がほぼゼロだった時期は、航空会社からグラハン事業者への発注は激減しました。離職者がその程度でよく済んだなという印象です。グラハン事業者は採用活動を再開していますが、間に合わないわけです。昔は航空業界という華やかなブランド力で採用は比較的簡単にできたのですが、コロナ後の今はなかなか難しくなっています」(橋本氏)

 グラハン業界の採用が難しくなっているのは、3K(きつい・汚い・危険)職場だとして敬遠される面もあるという。

「労働条件に問題を抱えた業界で、実はコロナ禍の前から離職率が高かった。深夜早朝勤務のあるシフト体制ですし、繁忙時には長時間労働にもなります。屋外の作業は雨風に吹きさらしで、夏は炎天下、冬は厳寒で吹雪のときもある。危険性のある作業もあります。空港によっては休憩場所が屋外だとか、女子専用の更衣室がないとか、和式トイレしかないとか、そんな話も聞きますが、これは空港会社の責任です。グラハン事業者も空港会社も、航空業界というブランド力にあぐらをかいて改善努力を怠ってきたことは否めません。」(橋本氏)

 グラハン業界は他の業界に比べて相対的に給与水準が低く、人材確保には待遇改善も喫緊の課題だ。

「平均年齢が35.6歳と若いので、給与水準も低くなるのですが、国交省の調べでは357万円。建設業だと40代半ばで451万円。それから、トラック運送が453万円。これも50歳近いと思います。一概には比較できないのですが、待遇改善が必要です」(橋本氏)

 国土交通省はグラハン業界の持続的な発展に向け、人材確保やDX(デジタルトランスフォーメーション)化・GX(グリーントランスフォーメーション)化を推進していくため、今年初めに「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会」を設置した。人員不足解消には待遇改善の原資となる航空会社からの受託料引き上げなどが必要だが、こうした問題に対応できる体制にすべく、グラハン事業者らは8月25日に「空港グランドハンドリング協会」を発足させた。航空会社など特別会員を加えると計53社が加入した(10月現在55社)。

ANAとJAL、10空港でグラハンの資格共通化

 グラハンの人手不足の陰には、これまでの慣習や縄張り意識のような側面もあった。例えば、同じような作業でもANAとJALではレギュレーションが異なるため、それぞれの会社で資格を取る必要があった。一つひとつの作業に研修や社内資格の取得が義務づけられており、その数は優に100を超えるという。認定を受けた人員でなければ作業に当たることができなかったため、グラハン事業者は、航空会社ごとの専属チームを設ける必要があるなど非効率だった。人材不足の地方空港ではこうした制限が大きなハードルになっていた。

 空港グランドハンドリング協会の設立目的には、資格や車両仕様などに関する業界ルールの整備と生産性の向上もある。協会ではこうした部分についても航空会社に申し入れを行って、改善を進めていくとしている。そのかいあってか、ANAとJALはグラハンに必要な社内資格の一部を、来年4月から共通化すると発表した。対象は、両社が同じグラハン事業者に業務を委託している仙台や新潟など国内の10空港。どちらかで資格を取れば、両社のいずれでも業務ができるようになる。国土交通省は空港内を走るバスや作業車両の自動化を推進しており、こうしたDX化は人材不足解消の一助になるだろう。

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員)

橋本安男/航空宇宙評論家、桜美林大学航空・マネジメント学群 客員教授

橋本安男/航空宇宙評論家、桜美林大学航空・マネジメント学群 客員教授

日本航空で、エンジン工場、運航技術部課長,米国ナパ運航乗員訓練所次長,JALインフォテック社部長,JALUX社部長,日航財団研究開発センター主任研究員を歴任。
2008年より桜美林大学客員教授。
2012~20年に(一財)運輸総合研究所 客員研究員
2015年より航空経営研究所主席研究員
著書「リージョナル・ジェットが日本の航空を変える」で2011年第4回住田航空奨励賞を受賞。
東京工業大学工学部機械工学科、同大学院生産機械工学科卒

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