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NHK、ネット配信の必須業務化はスマホ・PC所有者からも受信料徴収の布石

文=横山渉/ジャーナリスト、協力=有馬哲夫/早稲田大学教授
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 NHKの業務は放送法で定められている。テレビの国内放送や国際放送、ラジオ放送などは行わなければならない「必須業務」としているが、「NHKプラス」や「NHKオンデマンド」「ニュース・防災アプリ」などのインターネット配信は、放送の補完として行うことができる「任意業務」に位置付けられている。NHKはネット配信を必須業務へと“格上げ”すべく躍起になっている。

 総務省は8月末、放送番組の同時・見逃し配信や災害情報などをネットに流す業務をNHKに義務付ける「必須業務」と定める提言案をまとめた。しかも、これにはテレビを持たないネット視聴者にも相応の負担を求めるという内容まで含まれている。有識者会議に出席した松本剛明総務相は「番組をネットでも安定して配信することはNHKの役割であり、制度的な義務付けが必要とされている」と述べている。

 必須業務化を目指す総務省とNHKは、それらしい口実をあれこれ並べるが、要は若者がテレビを見なくなって困ったということが最大の理由だ。早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授はこう話す。

「地方から上京して一人暮らしを始めた学生はテレビを買わないし、親元から通う学生にしても、家でテレビを見ることは少ない。Z世代に限らず、私たちはあらゆる情報をネット、それもスマホから得ている。もはや、テレビ時代のように情報の大部分をテレビから得てはいない」

 総務省・NHKの姿勢に対し、新聞や民放各社は一斉に「民業圧迫」という観点から反対の声を上げており、対立の構図が強まっているようにも見える。しかし、どこか歯切れの悪い部分があるようにも感じられるのはなぜか。

「NHK NEWS WEB」は廃止か

 有馬教授は、NHK業務をめぐる過去の議論の経緯から次のように説明する。

「NHKが現在の地上波デジタルを始めるときも問題になったが、デジタル放送だと映像以外に文字情報もたくさん送れる。当時、NHKは放送以外の新しい業務として、ニュース記事を考えていた。文字情報で新聞みたいなものを流すというわけで、新聞協会は猛反対した。新聞社の支局よりもNHKローカル局の人員は全国的に豊富で、取材した放送記者が書いた記事を出せば、まず全国紙が影響を受けるし、地方紙も売れなくなる。新聞協会の言い分は今回も同じで、動画映像の配信はいいが、文字情報は出すなということだ」

 しかし、NHKはすでに「放送番組の理解増進を図る」名目で「NHK NEWS WEB」という文字ニュースなどを無料でネット展開している。おまけに、トップページを見ると「政治マガジン」という特設の解説記事まで掲載している(12月25日現在は「政治資金問題Q&A」)のがわかる。これは明らかにグレーゾーンを超えており、ジャーナリズムの先輩を自負する新聞各社をもっともイラ立たせるものだ。

 12月に開かれた総務省の協議会でNHKは「ネット独自のコンテンツをつくる考えはない」と表明し、日本新聞協会メディア開発委員会と日本民間放送連盟もこれを支持し、必須業務は「放送と同一にすべき」であると3者が一致した。必須業務化が放送法で改定されれば、「NHK NEWS WEB」などのネット配信文字ニュースは廃止される可能性が出てきた。

受信料の是非に触れない新聞と民放

 NHKの存在意義を語るとき、必ず例示されるのが災害情報や防災情報だが、自然災害大国の日本では一理あるのかもしれない。「テレビを見ない若者にも命に関わる重要情報をネットで届ける」という理屈だ。しかし、NHKはすでにドラマやバラエティなど大量の娯楽系番組を朝から晩まで放送しており、そうした番組まですべてネットで配信するのは必須業務化の理由にはならない。

 そして何より、ネット配信を必須業務にして、従来の放送が補完業務化していくならば、受信料の必要性についても議論すべきだ。放送には膨大な設備投資が必要だが、インターネットを使って配信するコストは格段に低い。受信料の是非について議論しないのは、NHKと新聞・民放の間での闇取引のようなものだと、有馬教授は話す。

「受信料の契約義務というのは法律で定められているが、あくまで放送に関するもの。ネット回線の光ファイバー回線は、敷設するための費用の8割は国民の税金負担による。だから楽天とかソフトバンクがもっと開放すべきだと言っている。新聞や民放は受信料がNHKの弱みであると知りながら、そこにはわざわざ触れず、その代わりネットのコンテンツに映像に限定しろと制限をつける。受信料は国民にとって最大の関心事でも、新聞や民放の経営には関係ないからだ」

受信料はコンテンツの対価ではない

 必須業務化には放送法の改定が必要であり、また、改定されてもすぐにネット利用者に対して何らかの課金がなされるわけではない。総務省の提言案では、(1)アプリのダウンロード、(2)ID・パスワードの取得、(3)一定期間の試用、(4)利用約款への同意などが前提条件になっている。しかし、有馬教授は「スマホやパソコンの保有者は警戒したほうが良い」という。

「NHKの説明によると、受信料は番組視聴サービスの対価ではなく、『NHKを維持するためのお金』。つまり、サービスが放送か通信かは関係なく、自分たちの組織維持のためのお金を何とかして取ろうとしてくるだろうし、そのために現在の放送も続けるだろう」

 NHKはかつてワンセグ機能付きの携帯電話所有者から受信料を徴収しようとしてユーザーから大きな反感を買った。この問題は訴訟にもなり、2019年の最高裁判決によって、ワンセグ機能が付いた携帯電話の所有者にも、月額1225円(口座・クレジットの場合/2019年当時)のNHK受信料を支払う義務が生じることになった。しかし、翌20年からワンセグ搭載スマートフォンの販売が急激に減り、テレビ離れはいっそう深刻になった。NHKはこのときの教訓をどのように考えているのだろうか。

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=有馬哲夫/早稲田大学教授)

有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授:取材協力

有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授:取材協力

1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。
有馬哲夫

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