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NHK会長、受信料は「随分古い規定」だが「合理的」…スマホ保有者から徴収、加速

文=Business Journal編集部
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)
NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 NHKの稲葉延雄会長は1日付読売新聞オンライン記事のインタビューに応じ、テレビを設置している世帯は必ずNHK受信料を支払わなければならない現行制度について「今日的に意義を失ったものではないと考えている」としつつも、「随分古い規定」だと発言。また、NHKが受信料を原資にバラエティやドラマなどの娯楽番組を制作することについて「対応をやめるわけにはいかない」との見解を提示。民放テレビ局関係者の神経を刺激しているようだ。

 NHK受信料をめぐる動きが慌ただしい。今年10月からは、NHK総合とEテレを視聴する「地上契約」、BS1やBSプレミアムなどの衛星放送もセットの「衛星契約」の受信料を約1割値下げ。その一方で4月からは、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約をしなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始。未払いの受信料も合わせると通常の3倍の支払いを求めることになる。昨年の放送法改正を受けたものだが、受信契約の解約や受信料免除に不正がある場合や、衛星契約など料金が高い別の契約へ変更した後も正しい契約種別の放送受信契約書を提出しない場合も割増金請求の対象となる。

 NHKが国民から広くかつ確実に受信料を徴収する動きは加速している。総務省は昨年秋から有識者会議である公共放送ワーキンググループ(WG)にて、将来のNHKのインターネット関連事業のあり方に関する議論に着手。焦点は、ネット事業をNHKの「必須業務」に変更するかどうかという点。現在は放送を補完する「実施できる業務」として位置づけられており、配信コンテンツはNHKで放送される内容の「理解増進情報」に限定されている。もしNHKがネット事業を必須業務として多額の受信料収入を元手に大々的に展開すれば、慎重に収益性を見極めながらネット事業を展開する民放各局は打撃を受けかねないため、日本民間放送連盟は反発している。

 1月にNHK会長に就任した稲葉氏がまず対応に追われたのが、このネット事業をめぐる問題だった。現在の基準ではNHKはBS番組をネット配信することが認められていないが、昨年12月に役員が稟議でその関連支出を行うと決定していたことが発覚。稲葉会長は6月8日の衆院総務委員会に出席し「あってはならないこと。改めておわび申し上げる」と陳謝した。

NHKの存在が純粋な民間企業である他のテレビ局の経営を圧迫

 さらに5月には、NHKはメディア関係者向けの説明会において、受信料が「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの見解を説明。世論から反発の声があがるなかで稲葉会長は前出・読売新聞記事のインタビューのなかで「随分古い規定ではあるけれども」としつつ「受信料っていう制度で資金を皆様から頂くというのは合理的」と語っており、議論を呼んでいる。民放テレビ局関係者はいう。

「受信料はNHKだけの問題ではない。Amazon Prime VideoやNetflixなど有料のネット配信サービスが普及するなか、NHKの受信料を払いたくないからという理由でテレビを保有しない人が増えており、まわりまわって民放テレビ番組を見る機会が奪われている。また、法律で広く国民から強制的に集める受信料を原資に、潤沢な制作費をかけて大河ドラマや『NHK紅白歌合戦』をはじめとする娯楽番組をつくり、民放番組と競合している。NHKの存在が純粋な民間企業である他のテレビ局の経営を圧迫しているのは明らかであり、会長自ら『古い規定』という認識を持っているのであれば、そのまま放置してよいわけがない」

 また、早稲田大学社会科学総合学術院教授の有馬哲夫氏は3月12日付当サイト記事で次のように述べていた。

「まず、放送法の受信料規定は、受信設備を持っている人にNHKとの受信契約を義務付けているが、これは憲法に違反している。契約の自由を侵害しているからだ。この概念はBBCにはない。イギリスの場合は、BBCを含め、他の民放も含めて放送全体を見る・聞くための許可料だ。昔、ラジオを設置するには、政府に許可申請しなければならなかった。発信・送信もできるので、スパイ防止のために許可制だった。これは日本も同じだった。

 日本の放送法の特徴は、NHKと契約しなければならないということだが、海外では必ずしもそうなっていない。そして、海外では受信料制度をやめようという動きがトレンドだ。その理由は、有料の動画配信が増えているからだ。テレビの受信料を払って、動画配信も複数見るとなると、やはりNHKはいらないのではと考える。これは日本だけの現象ではない。世界中の現象だ」

「放送と動画配信に分け、放送はタダにして、動画配信を有料にして収益を上げる。それは公共放送であるNHKも民放も。動画配信であれば誰がどのくらい見ているか把握できる。放送では把握できない。世界的なトレンド、とくに先進国で進んでいる取り組みは、電波をオークションにかけて売っている。イギリスでは、1兆円近い税収を上げている。これを国家予算に回している。今後はドローンでも電波を使うので、電波が足りなくなる。放送用の電波を売っても、動画配信は通信回線を使うから問題ない。従量制なので、見ない人はお金を払う必要がない」

スマホなど視聴可能な環境にある人からも受信料徴収、議論が加速

 稲葉会長は前出・読売記事のインタビューのなかで、NHKのネット事業について「放送と同様の公共的な役割を果たしていくことが大切」として「必須業務」への格上げに前向きな姿勢をみせているが、これはNHKがテレビ非保有者からも広く受信料を徴収しようとする動きと一致する。NHKは2017年に公表したNHK受信料制度等検討委員会の答申案で、スマホやインターネットの利用者からも受信料を徴収する検討を始めており、過去の有識者会議でもテレビを持っていなくてもスマホなどで積極的に放送を見る人については「負担を議論していく必要がある」との意見が出ていた。

 さらに今年4月に総務省が開催した有識者会議、公共放送ワーキンググループ(WG)の会合(第7回)では、NHKの財源として、サブスクリプション収入、広告収入、税収入も提示されたが、公共性などへの懸念が指摘され、スマホなど視聴可能な環境にある人からの受信料収入とする考えで一致したという。同WGのこれまでの議論では、スマホでの視聴を無料にする案や、専用アプリの利用者から受信料を徴収する案などが検討されている。

 民放テレビ局関係者はいう。

「要はNHKとしては、ネット事業を『必須業務』に格上げさせることで、スマホやPCなどネットを見られる環境を持っていれば受信料を払わなければならないという流れをつくりたい。今後、NHKがネット配信に力を入れていくのは規定路線だが、民放各局が限られた予算のなかで採算性を見極めながら手探りでネット配信事業を進めるなか、受信料収入をバックに多額の資金を投入してネット配信を本格展開すれば、民放テレビ業界全体が打撃を受けることになる」

 NHK受信料のあり方、そして将来に向けたNHKの事業計画が適切かどうか、今、改めて問われている。

(文=Business Journal編集部)

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