2024年春闘が24日、事実上スタートした。長引く物価高で実質的な賃金の目減りが続く中、賃上げを伴う景気の好循環でデフレからの完全脱却を目指す岸田政権は今春闘に強い関心を寄せ、昨年を上回る水準を要請。経済界もこれに応じ、政労使が協調姿勢をにじませる。ただ、賃上げが大企業だけでなく、中小企業にどこまで波及するかなど課題も多く、マイナス金利の解除を模索する日銀も動向を注視している。
◇政労使、協調演出
「昨年以上の熱量と決意を持って賃金引き上げを目指す」。経団連の十倉雅和会長は、24日開催した労使フォーラムでのビデオメッセージで、こう呼び掛けた。経団連は会員企業に向けた春闘の交渉指針で、基本給の底上げをするベースアップ(ベア)について「有力な選択肢」として検討を促す。
連合の芳野友子会長も、フォーラムの講演で「経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換を着実に進めていく正念場だ」と力を込めた。連合は今春闘で「5%以上」の賃上げ目標を掲げ、ベアは「3%以上」の確保を目指す。
政労使は、賃上げで協調を演出するが、考え方には隔たりも大きい。あくまでベア重視の連合に対し、ボーナスや定期昇給も含めた多様な選択肢の中で個別企業が判断する立場の経団連とでは依然として距離がある。中小企業の賃上げについても、必要であるとの認識では一致するものの、具体的な上げ幅や、中小企業が大企業との取引でどこまで人件費や原材料費の上昇分を価格転嫁して賃上げに結び付けられるかの認識では、なお開きがある。
◇価格転嫁がカギ
雇用の約7割を占める中小企業への波及は、喫緊の課題だ。急激な物価上昇の中で展開された23年春闘は、高水準の賃上げで妥結した労使が多く、平均賃上げ率は連合の調べで3.58%と30年ぶりの高さとなった。しかし、300人未満の企業では3.23%にとどまった。流通や繊維などを中心に中小企業が過半を占める労働組合「UAゼンセン」の松浦昭彦会長は23年春闘を「大手と中小の格差が拡大してしまった」と振り返る。
芳野会長は昨年末、「中小経営者からは『無い袖は振れない』という声が聞かれる」と話した。中小の賃上げの成否は、価格転嫁を進めて賃金上積みの原資を確保できるかがカギを握る。政府も昨年末、価格転嫁に関する事業者向けの行動指針をまとめたが、どこまで浸透するかは不透明だ。
大手企業の賃上げ表明が相次ぐ一方で、物価の変動を反映した実質賃金は昨年11月で20カ月連続の前年割れとなった。マイナス金利の解除をうかがう日銀は、賃上げが中小企業も含めて広く波及するかを政策変更の条件に挙げている。植田和男総裁は23日の記者会見で「賃金と物価の好循環が強まっているか確認していきたい」と語り、春闘の推移を見極める考えを強調した。今春闘は今後の日本経済に与える影響が大きく、昨年以上に注目が高まっている。
◇2024年春闘を巡る主な日程
1月22日 政労使会議で岸田文雄首相が「昨年を上回る水準の賃上げ」要請
24日 労使フォーラムで事実上スタート
2月 中旬 大手企業の労働組合が経営側に要求提出
3月13日 大手企業の集中回答日、金属労協が記者会見
15日 連合が第1回回答集計結果発表
後半 中小企業の労使交渉ヤマ場
18日 日銀が金融政策決定会合(19日まで)
22日 連合が第2回回答集計結果発表
4月 4日 連合が第3回回答集計結果発表
25日 日銀が金融政策決定会合(26日まで)
(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/01/24-20:09)