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セクシー田中さん・改変、日テレで過去に同様の問題…「原作に忠実」の限界

文=Business Journal編集部
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日本テレビ(「Wikipedia」より/Suicasmo)

 昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者の意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされる問題。その日本テレビで、過去のドラマでも同様のトラブルが起きていたようだ。22年に放送された『霊媒探偵・城塚翡翠』で、原作の改変に原作者が難色を示し、途中で原作者自ら脚本を執筆することになったといわれている。当時、原作者である相沢沙呼氏はX(旧Twitter)上に<四話、脚本をまるっと書かせて頂きました>(同年11月6日)とポストしていたが、相沢氏は今回の『セクシー田中さん』の問題を受けX上で次のようにポストしている。

<約束通りにしてもらうこと、原作を護るためにしたこと、そうした諸々の奮闘が『揉めてる』『口出し』『我が儘』みたいに悪く表現されたときが凄く哀しかったし、契約の縛りで実際になにがあったのかを言えないのは本当にしんどくて、自分が悪者になったような気持ちに陥ったのを思い出しました>(1月30日)

 こうした問題は日テレだけのものなのか。また、ドラマ制作現場では原作と脚本の折り合いはどのようにつけられているのか――。

 連ドラ『セクシー田中さん』の制作にあたっては原作者の芦原妃名子さんは、ドラマ化を承諾する条件として日テレ側に、必ず漫画に忠実にするという点や、ドラマの終盤の「あらすじ」やセリフは原作者が用意したものを原則変更しないで取り込むという点を提示し、両者の合意の上でその旨を取り決めていた。芦原さんが1月にブログなどに投稿した文章によれば、何度も大幅に改変されたプロットや脚本が制作サイドから提出され、終盤の9〜10話も改変されていたため芦原さん自身が脚本を執筆したという。芦原さんは29日、栃木県内で死亡しているのが発見された。

 この問題は、数多くの原作モノの作品を制作する映画界も重く受け止めている。30日に行われた日本映画製作者連盟(映連)の新年記者発表会で、松竹の高橋敏弘社長は「原作の素晴らしさを生かすことが大前提。今後もそのようなことがないように我々も気をつけることが原則」と発言。東宝の松岡宏泰社長は「原作者の意向を尊重して、いかに映像化するか。その考え方がぶれることはない」と語った。

「原作者の意向が最優先される」という大前提

 日テレ関係者はいう。

「一般的に原作サイドとテレビ局の間で取り交わす契約書では『原作者の許可なく改変してはいけない』というレベルの大枠までしか書かれておらず、具体的にどれくらいのどういう変更なら許容されるのかといった細かい内容までは書かれない。そこまで細かな内容をあらかじめ契約書に盛り込むのは現実問題として難しく、今回の『セクシー田中さん』では芦原さんが要求していた『原作に忠実に』のレベルの厳しさが、小学館と日本テレビを通じて脚本家にきちんと伝わっていなかったとみられる。原作者がどこまで原作に忠実であることを求めるのかは、その原作者によってまちまち。ドラマ制作の現場では、その都度、プロデューサーなりが原作者と脚本家の間の言い分を調整し折り合いをつけながら進めていくものなので、今回も制作サイドとしては『進めていくなかで調整していく』という意識だったと考えられる。

 現在ではウチの局に限らず『原作者の意向が最優先される』という大前提がドラマ制作にはある。ただ、局の制作スタッフや脚本家としては『原作者がそこまで細かく要求してくるのは、いかがなものなのか』と抵抗を感じる場面が出てくるのも事実で、それゆえに最悪、脚本家の降板などが起きる。『原作に忠実』というのは大事だが、連ドラは1話1時間で全10話ほどという制約があり、各話のラストでは翌週の回まで視聴者を引っ張るように工夫し、さらにいえば『ドラマとして面白いもの』に仕上げなければならず、完璧に原作に忠実にすることは不可能。当然ながら脚色や原作にない内容の挿入などが発生する。それを原作者側が『仕方がないこと』『ドラマとしての演出』と理解してくれるがどうかは、その原作者次第になってくる」

日テレ関係者「契約違反には当たらない」

 日テレは芦原さんの訃報に際し、29日のニュース番組内で

<2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております>

とするコメントを発表しているが、別の日テレ関係者は「現時点で局内に、これ以上調査して結果を対外的に発表するような動きはみられない」という。

「日テレのコメントに対し『自己正当化めいている』といった反応もみられるが、ここに書かれている内容が全てとしかいいようがない。プロセスはどうであれ、原作サイドとのやりとりを経て原作者の承諾を得た脚本が決定稿となり、それに基づきドラマが制作・放送されており、原作者の合意を得ないまま放送されているわけではないので、契約違反には当たらない。ただ、結果的に原作者がブログやSNSで局の制作陣への批判を公開するという異例の事態を招いた責任は、最終的にはプロデューサーにあるということになる」

 こうした問題は日テレに限ったことなのか。ドラマ制作関係者はいう。

「原作者と局サイドが揉めたり、脚本家が途中で降板するという事例は過去にいくらでもあり、事情はどの局も変わらない。それでも以前に比べれば、過去の教訓から現在では権利関係をはじめとするさまざまな項目について事前に契約書でクリアにしておくという風潮が広まり、だいぶマシになった。脚本の問題に限らず、ドラマ制作の過程においては想定外のトラブルが次から次に起こり、都度スタッフが臨機応変に対応して、なんとか最終話の放送までこぎつけるというのが実情。ただ、今回の件に限っていえば、ドラマ化によって発行部数を伸ばしたい小学館と、人気漫画を原作に引っ張ってきたい日テレが前のめりでことを進めたあまり、原作者と脚本家への対応がおざなりになってしまった印象を受ける」

 当サイトは1月30日付記事でこの問題の背景について報じていたが、以下に再掲載する。

――以下、再掲載(一部抜粋)――

 発行部数700万部のベストセラー『砂時計』(小学館)などで知られる漫画家、芦原さんが月刊漫画誌「姉系プチコミック」(小学館)に連載中の『セクシー田中さん』。同作を原作とする同名の連ドラが女優・木南晴夏の主演で放送されたが、その裏で起きていた問題が表面化したのは昨年12月のことだった。脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで、

「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」

「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」

と投稿。9話・10話の脚本は自身が担当していない旨を説明した。

 これを受けさまざまな憶測が飛び交うなか、1月に芦原さんは自身のブログ上で経緯を説明。ドラマ化を承諾する条件として、制作サイドと以下の取り決めを交わしていたと明かした。

<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>

<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>

 芦原さんは、これらの条件は<脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件>であると認識していたため、<この条件で本当に良いか>ということを原作漫画の発行元である小学館を通じて日本テレビに何度も確認した上でドラマ化に至ったという。

 だが、実際に制作が進行すると毎回、原作を大きく改編したプロットや脚本が制作サイドから提出され、

<漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう>

<個性の強い各キャラクター、特に朱里・小西・進吾は原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される>

といったことが繰り返された。そして1~8話の脚本については芦原さんが加筆修正を行い、9~10話の脚本は芦原さん自身が執筆し、制作サイドと専門家がその内容を整えるというかたちになったという。

漫画家からも反応

 このブログ投稿には、過去に作品をドラマ化された経験を持つ漫画家からも反応が示されていた。『のだめカンタービレ』(講談社)の原作者・二ノ宮知子さんはX(旧Twitter)上に、

<原作者が予め条件を出すのは自分の作品と心を守るためなので、それが守られないなら、自分とその後に続く作家を守るためにも声を上げるしかないよね…>

とポスト。『18歳、新妻、不倫します。』(小学館)の原作者・わたなべ志穂さんはX上に、

<改めてですが芦原先生はとてもリスクを持ち発言されたと思います。俳優さんを傷つけるのではないか、ドラマを楽しんだ方から非難されるのではないか、自分はこれ以上傷付くのか。ドラマ制作時作者には味方はあまりに少ない。勿論大事にして下さる現場もありますが多くは違うはず 飲み込む作家がほとんどでしょう。それは冒頭の俳優さんや視聴者原作ファンのために>

とポスト。

 また、参院議員で漫画家の赤松健氏はX上に、

<漫画や小説のメディアミックス企画(アニメ化やドラマ化)では、昔から頻繁に「原作者の望まない独自展開やキャラ変更」などが問題になってきた。もっとも近年は「原作者へのまめな報告や根回し」が行われるようになり、昔のような「原作者が協力を拒否して(オリジナル企画へと)タイトル変更」などというような事は少なくなってきたと思う>

<まだまだ「(原作者への)事前説明の徹底」と「二次使用に関する契約書」の詰めが甘いということだ。この2点は主に出版社と制作側(製作委員会など)側の問題だが、原作者側でも「事前の説明で納得がいかなかったり、後から約束と違うようなことがあった場合の相談場所やその知識」が必要になってくると考える>

とポストしている。

脚本家は原作者と日テレの取り決めを知らされていたのか

 日本テレビは芦原さんの訃報に際し、29日のニュース番組内で

<2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております>

とするコメントを発表しているが、テレビ局関係者はいう。

「原作者の漫画家や小説家が、どこまでドラマの内容にまでタッチするかは人によってまったく違う。『ドラマは原作とは別物』というスタンスで、クレジットに原作として表記されていても、まったく口を出さない原作者もいる。今回の『セクシー田中さん』の件でいえば、企画の段階で原作者からここまで厳格な条件を提示されたのであれば、ドラマ化を進めること自体に無理があったと感じる。制作サイドのほうで『とにかく人気漫画を原作とするドラマをつくらなければならない』ということが最優先されたのではないか。今のテレビ制作現場の現状を踏まえれば、そのような事態が起きるというのは容易に想像がつく。

 また、脚本家のインスタのポストを読む限り、制作サイドと原作者の間で交わされていた『漫画に忠実に』という取り決めについて、脚本家が知らされていなかった可能性がある。もしこの取り決めを事前に知らされた上で仕事を引き受けていたのであれば、それに従っていただろうし、条件をのめないということなら、仕事を引き受けていなかっただろう。

 脚本やプロットの制作にあたり原作者と脚本家が直接やりとりをするケースはごく稀にあるが、通常はテレビ局のプロデューサーなどを介してのやりとりになる。今回は原作者と脚本家の間に小学館と日本テレビが2重に介しており、正確な意思疎通が十分にできなかったことも考えられる。

 今回は原作者と脚本家がともに人気漫画家、人気脚本家ということもあり、スポンサー的な事情や話題づくりという面から、制作サイドとしてはこの2つの要素はどうしても堅持しておきたかったのだろう。その結果、さまざまな無理が重なってトラブルに発展したのでは」

 別のテレビ局関係者はいう。

「人気脚本家であっても、テレビ局側の意向に逆らうのは難しいのが現状で、プロデューサーからの指示を受けて、プロットそのものを変えたり、何度も脚本を修正するというケースは珍しくない。今回、もし脚本家が制作サイドと原作者の間での当初の取り決めを知らされていなかったのだとすれば、理由もよくわからず何度も書き直しを指示され、そのストレスと労力は相当な大きさであったと想像に難くない。今回の問題は今後の日本のドラマ界全体に大きな影響をおよぼすものであり、日本テレビには徹底した検証とその結果の公開が求められる」

 今回の問題が起きた背景について、かつて日本テレビで解説委員やドキュメンタリー番組のディレクターを務め、放送局の現場に詳しいジャーナストで上智大学教授の水島宏明氏に解説してもらう。

テレビ局側が原作者や脚本家との間で信頼関係を築くことが重要

 今回、テレビドラマ『セクシー田中さん』の原作者である芦原妃名子さんが亡くなったことは大変残念なことで心からご冥福をお祈りしたいと思います。当事者が亡くなってしまったことから、軽率に事実を判断することは控えなければならないと思います。

 まず、ドラマの制作サイドと原作者がどのようなかたちで制作を進めているのかという点について、私自身はドラマの制作部署にいたわけではないので、実際の制作過程に詳しいわけではありません。この点は正直よくわかりません。次に、原作者の意向を無視したり、無断で原作のプロットを大幅に改変するようなことはあるのかという点については、この点も経験があるわけではないのでわかりません。が、コンプライアンスを重視する昨今のテレビ界の雰囲気を考えると、そうしたことは、かつてはあったかもしれませんが、現在はほとんどないと思います。

 以上の前提で、ごく限られた視点で今回の問題の背景についてコメントします。近年のテレビドラマでオリジナル脚本よりも漫画や小説などの原作をもとにした作品が目立っています。他方で、ドラマ制作にあたっては地上波での「放送」だけでなく、インターネットでの「配信」も可能になる環境づくりを進めています。かつてはこうした際の契約はかなりずさんで、使われている音楽などの権利処理ができずに昔のテレビドラマをネットで配信できないという事態に陥っています。現在はその点はかなり改善されており、ネット配信も見据えた契約書となっています。契約そのものが以前よりも厳密なものになっているので、原作がある作品についてドラマ化する場合にも、原作の扱いをどうするのかについては、かなり細かい点まで詰めた契約を交わしている可能性が高いと思います。

 今回、契約はどうなっていたのでしょうか。契約書の内容そのものが詳しく明かされていないため明確にはいえませんが、原作をどう扱う取り決めになっていたのかをめぐって原作者と日本テレビの制作サイド、あるいは脚本家との間で「解釈のズレ」が生じていた可能性が大きいと考えています。特に原作者と脚本家の間で「解釈のズレ」があったことは、SNSでの発信などから見てとることができます。

 原作者の芦原さんは自身のブログに「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく」などの条件を原作代理人である小学館から日本テレビ側に示してのんでもらったと記しています。とはいえ、契約の詳細が公表されていない現時点においては「解釈のズレ」があったことだけが確かなことです。この場合、原作者および脚本家に対する説明・調整などを行うのはテレビ局側の制作者、特にプロデューサーの役割です。結果的にはその調整の役割がうまくできていなかったのではないかと思います。

 原作者も脚本家も、こうしたクリエィティブな作品づくりをする人たちは一作一作に命がけで取り組んでいます。それだけに繊細な面もあり、“当初の約束”が守られなくて自分の作品が改変されたと感じたら、精神的に大きな傷を負うケースも少なくありません。もちろん今回のケースでは“当初の約束”や契約書が実際にどうだったのかはわからないので、どちらかに非があるというわけではないのかもしれません。むしろ、そこを含めて、テレビ局側の制作者と原作者、脚本家とのやりとりがどうだったのか、信頼関係があるとはいえない状態にあったように伝わってくるのはとても残念なことです。

 では、今回のようなトラブルが生じないようにするには、今後のドラマ制作の現場において、どのような取り組み・施策などが必要なのでしょうか。

 テレビ局側が原作者や脚本家との間で、丁寧に説明して信頼関係を築くことが一番大切なことです。ラスト2回の脚本を原作者が自ら書くという通常はありえない事態になって、局の制作サイドも放送日までに番組を制作して無事に放送するだけで四苦八苦したのだろうと想像します。ただ、そうした状態になったのであれば、関係者が納得して最終回を見届けるように調整し、信頼関係を築くことに努めるのがプロデューサーの大事な役割です。時間に迫られるとそうした“丁寧な対応”がおろそかになりがちなので注意すべきです。

 もう一つは、関係者がSNSで自分の不安定な気持ちを吐露した場合の精神的なケアも大事な要素です。2020年にフジテレビが放送したリアリティー番組『テラスハウス』で出演者だった木村花さんへの誹謗中傷がSNS上で広がって自死した際の局側のケアが十分だったのかをめぐっては、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会も「出演者の健康状態に関する配慮に欠けていた」とし、「放送倫理上の問題があった」と判断しました。同様に関係者のSNSなどでの発信にも注意を払って精神的なケアをしていくことも、テレビ局側が注意すべき課題になっているといえると思います。

(文=Business Journal編集部)

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