1日に石川県能登地方で最大震度7を観測した令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)の発生を受け、テレビ各局のお正月番組の対応は分かれた。各局はどのような対応を行ったのか。また、各局番組の視聴率から透ける今後の災害時放送のあり方について、専門家の見解を交え考察したい。
能登半島地震が発生したのは1日16時10分ごろ、発生場所は石川県能登地方(輪島の東北東30km付近)。北海道から九州地方の広い範囲にかけて震度6強~1を観測、石川県の志賀町では震度7を観測した。津波注意報も広い範囲に発出され(3日9時時点ですべて解除)、石川県輪島市では1メートル20cm以上の津波が観測された。また、2日には東京・羽田空港で、同地震の被災地支援として物資を搬送するため新潟航空基地へ向かっていた海上保安庁の航空機が、日本航空の旅客機と衝突し、海上保安庁の航空機に搭乗していた5人が死亡する事故も発生した。
1日、地震発生を受けテレビ局は対応に追われた。フジテレビは『さんタク』の放送を中断し『ドリフに大挑戦スペシャル』(17時~)の放送を見合わせ。日本テレビは『笑点』の放送を中断し、『上田と女が吠える夜 笑う女には福来る!新春3時間SP』(18時~)の放送を見合わせ。TBSは『バナナサンド元日SP』(17時~)の放送を、テレビ朝日は『芸能人格付けチェック 2024お正月スペシャル』(17時~)の放送を見合わせた。
対照的な対応をみせたのがテレビ東京だ。テレ東は18時から『出川哲朗の充電させてもらえませんか?新春4時間スペシャル』を放送予定だったが、同時刻になっても地震に関する気象庁の会見を中継。だが18時40分には定刻より遅れて同番組の放送を開始。NHK、他の民放キー局が報道特番を放送するなか、テレ東だけがバラエティ番組を放送する格好となった。
分かれた各局の対応をどうみるか。また、各番組の視聴率から透ける視聴者の嗜好・動向、そして災害時の放送のあり方について、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏に解説してもらう。
『充電させてもらえませんか?』視聴率急伸
1月1日16時10分、石川県能登地方を最大震度7の地震が襲った。3日までに64人の死亡が確認され、輪島市の火災で200棟ほどが焼けた。直後からテレビ各局は元旦編成を中断し、一時は全チャンネルが緊急ニュースとなった。大災害ゆえに従来なら当然の措置だが、視聴データの分析からは柔軟な対応も必要な時代になったのかもと考えさせられた。
緊急地震速報と同時にNHKの個人視聴率は急伸した。天変地異や大災害が起こるとNHKの数字が急上昇するが、今回も多くの人がまずNHKにチャンネルを合わせている。ところがリアルタイム視聴率と称して直前5分前の視聴率を発表しているスイッチメディア「TVAL」関東地区のデータを追うと、興味深い事実が浮かび上がる。急騰したNHKはすぐに急落し、代わりに日本テレビの緊急ニュースが数字を急上昇させた。ところが日テレもすぐに落ち、テレビ朝日・TBS・フジテレビと混戦状況になった。災害の全貌が見えず現在進行形で状況が変化する災害報道では、視聴者は多くのチャンネルをザッピングしながら必要な情報を取っていることがわかる。
ただし例外的な局があった。テレビ東京だ。『孤独のグルメ』の一挙再放送をしていた同局は、特設ニュースに切り替えるのが一番遅かった。その間に個人視聴率は4分の1まで下がってしまった。しかも地震情報を流し始めても、北陸に系列局のない同局のニュースには現地の映像がまったく出てこない。結果として緊急ニュースの間ずっと視聴率は低迷したままだった。
状況が一変したのは18時42分以降。テレ東はニュースをやめ、予定していた『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』の放送を開始した。かなり大胆な判断に見えるが、数字は反転急伸を始め、ついには個人視聴率で9%近くまで跳ね上がり、ニュースを続ける各局の2倍ほどまで高くなった。
同局はリアルタイム視聴率を見て、いったんは緊急ニュースにしたものの、ほどなく予定していた番組に戻したのかもしれない。そしてこの状況を見て、他局も方針を変更した可能性がある。地震報道の数字がピークから3分の1以下に下がった日テレは、21時から予定していた『月曜から夜ふかし元日SP』を放送し、リアルタイム視聴率トップを奪い返した。これによりテレ東は3%ほどを日テレに持っていかれた。NHKの地震報道も2%ほど失った。
この動きに追随したのか、フジは『有吉弘行のプライベートジェット爆食ツアー!』を放送。ただし10分ほど判断が遅れたのが響いたのか、そもそも番組の実力なのか、フジが数字を取り戻すことはなかった。テレ朝も21時から『相棒season22 元日スペシャル』を放送したが、こちらは報道特番と比べて数字を落とすことも上げることもなかった。ちなみにTBSは25時まで、NHKは翌2日の21時まで報道特番を続けた。
民放の横並び報道に一石
多くの人が被害に遭う大事件・大災害時のテレビ報道がどうあるべきか、結論は簡単には出ない。「国民の安心安全を守る」NHKが緊急報道を続けるのも一つのあり方だ。ただし民放が横並びでいつまで同じような報道を続けるかは、別問題といえよう。実際に最初に予定どおりの番組を放送し視聴率を急伸させたテレ東に対しては、好意的な意見がSNSに寄せられている。
「なんか少し安心した」
「心が少し癒されます」
「各局同じ内容を繰り返しているので、こういう対応もありよね」
“テレビ離れ”の視点で考えることも可能だ。全局が地震報道となった18時と18時30分を比べると、普通ならPUT(総個人視聴率)は上昇する時間帯だが、この日は逆に下がっている。全局が同じ内容となったために、地上波テレビの視聴をやめてしまった人が少なからずいたことになる。ところがテレ東が予定通りの番組の放送に戻した結果、PUTはすぐに3%ほど上昇した。“テレビ離れ”が食い止められた可能性がある。
各局の編成担当者がリアルタイム視聴率をどこまで活用しているかは不明だ。ただし視聴データが進化し、テレビがどう見られているのかが瞬時に詳細に把握できる時代になったのは間違いない。“テレビ離れ”がいわれて久しいが、百万単位の人々が同じ内容を同時に見るメディアであるテレビが今ももっとも影響力が大きい。この同時性を重視する以上、編成は視聴データを活用するかたちへと進化を続けることだろう。
(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)