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テレビ朝日がキー局で唯一「ジャニーズと自社の関係」検証番組を放送しない理由

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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テレビ朝日(「Wikipedia」より/Wiiii)

 創業者で元社長の故・ジャニー喜多川氏の問題を受け経営体制の刷新や新会社設立などの対応に追われる大手芸能事務所、ジャニーズ事務所。7日放送のテレビ番組『報道特集』(TBS系)は、同局が同事務所から日常的に受けていた、キャスティングや番組内容に関する圧力の実態、さらには報道現場における同事務所関連のニュースの放送自粛の実態について報道。その放送内容について評価する声があがる一方、「反省の姿勢を見せて批判を回避しようとしている」「ジャニーズが批判され始めた途端に手のひら返し」といった厳しい声も寄せられるなど、議論を呼んでいる。今回の『報道特集』の放送内容をどのように評価すべきか。業界関係者の見解も交え検証してみたい。

 この日放送の『報道特集』は「検証 ジャニーズ事務所とTBS」というテーマで、約80人の同局の現役社員、元社員に取材。まず、同事務所がジャニー氏の不適切な行為を報じた「週刊文春」(文藝春秋)に起こした裁判で、裁判所は2004年に「(所属タレントらへの)セクハラについての記事の重要部分は真実と認定する」との判決を確定させた件をTBSが報じなかった件について、

「週刊誌ネタ、芸能ネタというレッテル」
「男性の性被害の認識の低さもあり、ニュースとして取り上げる判断をしなかった」

と振り返り。また、12年にジャニー氏が運転する乗用車が追突事故を起こし、相手男性が軽傷を負った件を報道しなかったことについて、当初はあるニュース番組内で伝える予定で原稿準備まで進んだものの放送は見合わせとなり、報道局の幹部がジャニーズ事務所との窓口を務める編成部の担当者と話していた様子が目撃されていたという。当時の報道局幹部は

「ニュースとして報じるかどうかは、さまざまな要素を勘案して決めている。『ジャニーズは面倒くさい』という思いや、事務所と日々向き合う編成部への配慮が、ニュースとして報じるかどうかを判断するさまざまな要素の一つになったのは間違いない」

と証言した。

「怒らせたら面倒くさい」

 次に、ジャニーズ事務所からの圧力の存在について検証。次のようなTBS関係者たちの証言が紹介された。

「(同事務所を)怒らせたら駄目。この1年の間にも、ジュリー氏(編注:藤島ジュリー景子前社長)を通じてキャスティングをめぐる圧力が番組にあった」

「編成のジャニーズ担当のなかには、マネジャーからの電話に出るために夜中に家に帰ってビニール袋に携帯を入れて風呂に入っている人もいた」

「気に入らないことがあると(同事務所が)『タレントを引き上げるぞ』と言うため、企画がガラッと変わるなど振り回された」

「なぜ忖度するかというと、番組出演をなくされるのを恐れていたから」

「若い頃からベテランのプロデューサーがジャニーズ事務所に平身低頭で接するのをずっと見てきた。それを見て育ったので、自然に自分もそうなっていく。うまくやれば次のジャニーズの仕事も来る。なぜみんなジャニーズと仕事をしたいかというと、一つは数字をとりやすいから。そして社内の自分の評価が高まるから」

 こうした声を総括して日下部正樹キャスターは、

「英BBCの報道から半年、私たちテレビ局のなかでも、ようやく自らを見つめ直す動きが出てきた。ジャニーズの問題は1人の男性や1つの事務所の問題にとどまらないと思うんです。ジャニーズという巨大な帝国を育てたのは、間違いなくテレビ局です」

「勇気を持って声を上げた被害者の方々には、どんな言葉を尽くしてもお詫びのしようもありません。私たちは報道機関として当然持つべき弱い立場の人々に寄り添う思いと想像力を欠いていました」

「さらに深刻なのは、この問題はTBSに限らず沈黙を続けてきたテレビ局全体の問題だということです。私たちは、まず被害者の救済がどのように進んでいくのか、きちんと見届ける必要があります」

と語った。

 ジャニーズとテレビ局の関係については、日本テレビも4日放送のニュース番組『news every.』で検証していた。元編成幹部は「怒らせたら面倒くさい」と述べ、『24時間テレビ』のパーソナリティーに別の事務所のタレントを起用した際にジャニーズ事務所所属タレントの出演はなかったと明かした。他の現役社員・元社員からも次のような証言が出た。

「ライブなどの取材や新曲のインタビューもあり、外されるのは怖い。実際にやられている雑誌を見ているので、つっこみにくかった」

「競合するタレントはキャスティングしないというのが不文律。ジャニーズ事務所が司会の番組でイケメンは出しにくい」

<個々の社員の話を聞きっぱなし>

 今回の『報道特集』放送について、評価する声もあがる一方、識者からは以下のように厳しい意見も出ている。

<NHKも日テレもTBSも、文春判決の時は男性の性被害が人権問題と理解できていなかった、という声が結構ある。ただ、当時すでにカトリック聖職者の性的虐待問題は日本メディアもたくさん報じていた。その被害者の多くが男性だった。なぜ海外のケースは取り上げ、国内のそれを見過ごしたかを考えないと…><個々の社員の話を聞きっぱなしで、そうした考察がないまま、『反省します』『今後はちゃんとやります』と言っても、どうなのか…という感じがしてしまうんですね>(ジャーナリスト・江川紹子氏/公式X(旧Twitter)アカウントより)

<長尺ながら、それに反比例して満足度は低かったです。「ジャニーズ事務所とTBS」と題するからには、今日の組み立てを逆から放送すべきでした。なぜ自局の制作・編成ネタは最期だったのか?言葉とは裏腹に反省が薄かった印象です>(同志社女子大メディア創造学科教授、元MBSプロデューサー・影山貴彦氏/同)

自己検証の動きが見られないテレビ朝日

 今回の『報道特集』の内容をどう評価するか。元日本テレビ報道局記者兼ドキュメンタリー番組ディレクターで上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授はいう。

「ジャニーズ事務所が自ら創業者で元社長、ジャニー喜多川氏による少年への性加害があった事実を認めて以降、メディアの側、特にジャニーズ事務所と関わりが深かったテレビ局が自らの姿勢を検証した報道としては、NHK『クローズアップ現代』(9月11日放送)、日本テレビ『news every.』(10月4日放送)、TBS『報道特集』(同7日放送)の3つが挙げられる。特に『報道特集』が報道、制作、編成の社員・元社員の数十人に組織的に話を聞き取ったことは高く評価していい。

 2004年に最高裁が民事訴訟でジャニー氏の性加害を事実として認定する決定を出した際にTBSがなぜ報じなかったかについて、当時の司法担当記者は、オウム裁判の判決直前で忙殺されており、ジャニー氏の件は意識していなかったという。また、12年にジャニー氏が追突事故を起こして相手にケガをさせて書類送検された時には、ニュース原稿が用意されていたのに、編成の幹部が報道の幹部と話して放送されなかったことも公表した。担当記者は『忖度そのものだと思った』と憤慨したという。明確な圧力があったわけではないが、社員がジャニーズ事務所という存在を『忖度』していた当時の様子を聞き取り、その結果を伝えていた。私自身も長年、テレビの報道現場で記者をやっていた経験から見て、このTBSの自己検証はかなり丁寧に社内でヒアリングを実施しており、踏み込んだ内容になっていたと思う。

 この自己検証は、NHKや日テレの検証番組と比較しても、可能な限りのことをしていると感じた。テレビ局のなかでもTBSという会社は、それぞれの記者などが『独立・自立』した存在という意識が強い。そこで行われた検証は、他局に比べても信頼性が高いと思う。テレビの報道番組を欠かさず視聴している人間として見ると、この3つの局が自らのまずい点を含めて社内調査を行ってそれを放送していたと思う。

 フジテレビも組織的な調査ではないものの、『なぜ報道してこなかったのか』について責任者が生放送で詳しいコメントを話している。ジャニーズ事務所の2度目の記者会見があった10月2日、フジテレビは夕方のニュース『Live News イット!』で「報道局編集長」という肩書の責任者が、当時は司法担当記者だったもののあまり重大なニュースだと思わなかったと個人的な認識の甘さを反省していた」

 一方、水島氏はテレビ朝日の姿勢に対し次のように疑問を呈する。

「これら4局に比べると、ほとんど自己検証の動きが見られないのがテレビ朝日だ。かつて上層部がジャニーズ事務所と密接な関係を築いたことなどから『社内的な検証』には後ろ向きなのだろうと想像する。だが、看板番組『報道ステーション』を抱え、『報道のテレビ朝日』というイメージを強く押し出している同局が、取材体制・ネットワークが弱いテレビ東京を除くキー局で唯一、頑なに『検証しない』姿勢を貫くのは奇異に感じる。スポンサーも含めて、メディアが子どもへの人権侵害についてどう向きあってきたのかが問われている今、頬被りは許されないはず。自らを検証する責任が各社にある。TBS『報道特集』はあくまで途中経過であるものの、そうした責任を果たしたと言えると思う」

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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