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ジャニーズ会見・記者NGリスト作成のPR会社の実態…「信じがたい」失態

文=Business Journal編集部、協力=平能哲也/危機管理・広報コンサルタント
ジャニーズ会見・記者NGリスト作成のPR会社の実態…「信じがたい」失態の画像1
10月2日、ジャニーズ事務所の会見

 2日に行われた、創業者のジャニー喜多川元社長の問題をめぐるジャニーズ事務所の会見で、質問の指名対象から除外する記者を記した「NG記者リスト」が作成されていたことがわかった。5日付「NHK NEWS WEB」記事や同日付「サンケイスポーツ」記事などによれば、このリストは会見の運営を任された外資系PR会社・FTIコンサルティングが作成したものであり、事前の打ち合わせでFTI側がこのリストを持参していたためジャニーズ事務所側は「絶対当てないとダメですよ」と伝え、FTI側は「では前半ではなく後半で当てるようにします」と応じたという。ジャニーズ事務所はサンケイスポーツの取材に対し、資料作成への関与を否定し、「外資系PR会社にこのことを謝罪してほしいとお願いしましたが、外資なので本国の許可が必要で調整に時間がかかると言われました」と答えている。このFTIとはどのような会社なのか。

「PR会社としては大手ではなく中堅どころといったところで、広告・PR業界の人間であれば社名は知っている。NHKは『コンサルティング会社』と報じていたが、経営コンサルティング会社的な業務がメイン。日本ではアクセンチュアやマッキンゼー、ボストン コンサルティング、デロイト トーマツといった大手と肩を並べるような存在ではない。PR業務はメインではないようなので、あまりノウハウが豊富ではなかったのかもしれない」(広告代理店関係者)

 2日に東京都内のホテルで行われた会見では、現事務所を被害者補償専門の会社とし、社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更する一方、タレントのマネジメントと育成を担当する新会社を設立すると発表された(社名は公募)。新会社は、タレントや各グループが設立する会社等とエージェント契約を結ぶ形態をとり、社長には少年隊の東山紀之氏、副社長には井ノ原快彦氏が就任する。注目されていたのが、前社長の藤島ジュリー景子氏による説明だ。今後も100%株主としてジャニーズ事務所の取締役として残留する件や、前回9月7日の会見直後にハワイ旅行に行っていた件などについて、どのような説明がなされるのかが注目されたが、ジュリー氏はこの日の会見を欠席。今後も株式の100%を保有する理由について、「法を超えた補償を行うには、第三者の資本を入れるとできなくなるからです。被害を受けられた方の補償をきちんと最後まで行い、廃業致します」「今の時点で私が100%の株を持っていることが補償についても進みやすい」などと代読された手紙で説明した。

ジュリー氏の欠席

 会見には大勢の報道陣が出席したが、出席した記者のなかからは、意図的に一部の記者が指名されないよう決められていた疑いが指摘されていた。

<本日のジャニーズ事務所の会見。前回とは異なり質疑応答は途中で終わり、最後まで当ててもらえなかった。確認したかったのは逸失利益に関すること>(鈴木エイト氏/ジャーナリスト、2日付けX<旧Twitter>投稿)

<ジャニーズ事務所の会見。最前列の真ん中に座って、ずっと手を挙げ続けた私と望月さんを絶対に当てないことを事前に決めていたとしか思えない会見で、失望し、憤りを覚えました>(尾形聡彦氏/Arc Times編集長、2日付けX投稿)

<ずっと手を挙げてたのに当てられず、最後にマイクなしで聞き、ようやく答えたのがこれ。白波瀬氏に説明責任があるに決まっている 前回も今回もメディア対応のキーパーソンを出席させず>(望月衣塑子氏/東京新聞記者、2日付けX投稿)

 リストには指名してはいけない記者として望月氏と鈴木氏の名前が書かれていたが、週刊誌記者はいう。

「前回と今回の会見では、普段であれば事務所が相手にしないような小さな媒体や批判的な報道が目立つ媒体にも案内状を送って参加を認めており、その点には事務所の変化を感じる。ここまで批判を浴びている以上、事務所としてもこれ以上、批判の種をまくのは避けたいところなので、この期に及んで事務所が一部記者に当てないようにしていたとは考えにくく、事務所が言うようにこのPR会社が独断でやったと考えられる。ただ、まずかったのは、会見を2時間と制限して打ち切った点と、ジュリー氏が欠席した点だ。いくら叩かれても、時間無制限で報道陣から質問から出なくなるまでやって、ジュリー氏本人もたとえ答えられない場面があったとしても厳しい質問を受けるシーンがテレビやネット動画で広まれば、世間からも一定程度の同情は得られただろう。形的には『まだ疑問は残るけど、とりあえずは膿を出し切った』という印象を与えて世論のガス抜きを図るべきだった」

 創業当時からずっとジャニー氏、メリー喜多川元副社長の側近としてメディア対応を取り仕切っていた白波瀬傑・前副社長の出席を求める声も強いが、テレビ局関係者はいう。

「それは絶対に無理。真相はともかくジュリー氏は一貫してジャニー氏の一連の行為を『知らなかった』という姿勢を貫いているが、白波瀬氏は知らなかったはずはないので、もし会見に出れば、ジャニー氏の行為に事務所としてどのように関与していたのかも含めてすべて話さなければならなくなる。もしそうなれば、本当に事務所は終わる」

質問NG記者リスト作成、PR会社の業務としては一般的

 そんな今回の会見で渦中の存在となったFTIコンサルティング。アメリカに本社を置きグルーバルに拠点を展開するコンサルファームであり、同社のHPには次のように書かれている。

<グローバルビジネスアドバイザリーファームとして、M&Aや事業再編あるいは訴訟等をはじめとする経営上の重要課題に対するサポートの提供を行い、グローバルビジネスにおける企業価値向上を支援します。 業務デューデリジェンス、ビジネスインテリジェンスをはじめ、不正行為調査、コンピュータフォレンジック、Eディスカバリー、知的財産権保護コンサルティングあるいはクライシスコンサルティングをはじめとする、幅広いビジネスリスクに対するソリューションを提供します>

 危機管理・広報コンサルタントで、長年、企業・自治体の管理職向けに模擬緊急記者会見トレーニングや研修・セミナーの講師なども手掛けてきた平能哲也氏はいう。

「2回の会見自体への評価としては、謝罪会見にしては珍しいほど合格点に近い。1回目での社名変更しない点は私も批判的だったが、東山氏、井ノ原氏、ジュリー氏(今回は欠席)は記者の厳しい質問に対して真摯かつ率直に答えており、様子が乱れたり声を荒げたりするような場面もなく、特段に問題は見られなかった。企業等の酷い謝罪会見をこれまでどれほど見てきたことか。

 NG記者リストに関するジャニーズ事務所の否定コメントを読む限り、事務所が指示したとは考えにくい。一方、FTI側が、クライアントである事務所に忖度して、サービスだという意識でこのような行為を行った可能性は十分に考えられる。批判的な質問が出ないままスムーズに会見を終えることで事務所から評価されて、今後の継続的な取引につなげたいと考えてもおかしくはない。

 もっとも、記者の顔写真までのせたリストを、証拠が残ってしまう書面で作成し、さらに報道陣から見えるかたちで会場に持ち込むというのは、コンサルティング会社やPR会社の情報セキュリティ感覚としては信じられない。もしその事実が公になればどのような事態を招くのかということへのイマジネーションが欠落している。危機管理(広報)意識の欠如そのものだ。

 もし私がアドバイスを求められていたら、こんなリストは作らず逆に厳しい質問が予想される記者を先に指名して発言してもらう。前回の会見のように長い主張や質問が続けば『この後、多くの記者の方が質問を待っているので簡潔に願います』と司会が言えばよい」

 広告代理店関係者はいう。

「会場や司会者をはじめとするスタッフの手配、当日の会見の運営・進行など、企業が記者会見でPR会社を使うことは一般的。クライアント企業が事前に質疑応答の際に指名NGの社や記者を指定することも珍しいことではなく、PR会社として、事前に質問NG記者リストを作成してクライアントに『どうしますか?』と意向を確認することは、倫理的・道義的な側面は置くとして、ビジネスとしては当然の行為。ただ疑問なのは、もし仮にジャニーズ事務所から事前の打ち合わせで『絶対当てないとダメ』と釘を刺されていたのだとすれば、クライアントの意向に背くかたちで一部記者を当てないようにするというのは、通常では考えられない。事務所側が嘘を言っているのか、もしくは、このPR会社内で情報連携ミスなどがあったということになる。また、スタッフが報道陣から丸見えの状態で顔写真入りのNG記者リストを手に持って会見場に入ってくるというのは、ちょっと信じがたいほどの失態。間抜けすぎて、PR会社としての能力を疑わざるを得ない

 また、一部の記者に質問をさせないまま質問を打ち切ったことで、会見の最後のほうでは記者からクレームが出て場が騒然となり、混乱ぶりがテレビやネット動画を通じて広く伝わってしまった。結果としてこのPR会社自ら混乱を招いて会見の評価を下げた点も、PR会社としては失格といえる」

(文=Business Journal編集部、協力=平能哲也/危機管理・広報コンサルタント)

平能哲也/危機管理・広報コンサルタント

平能哲也/危機管理・広報コンサルタント

PR会社で16年間仕事をした後独立し、その経験とノウハウを生かし企業、自治体、団体などの組織向けに「危機管理」「危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)」「広報」の各種テーマに関する各種業務に講師、コンサルタントとして約25年間従事。著書3冊の他、新聞、雑誌、インターネット、TV等の各メディアへの寄稿、連載(雑誌)、インタビュー取材、コメント提供なども行う。公益社団法人日本広報協会 広報アドバイザー。
平能哲也の公式HP

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