今クールの連続テレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)が好評だ。人気脚本家の宮藤官九郎が脚本、阿部サダヲが主演を務め、26日放送の第1話はNetflixの「今日のシリーズTOP10(日本)」で1位にランクイン(29日現在)。世帯平均視聴率は7.6%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)と2桁には届かなかったものの、SNS上では高評価の声が目立つ。そんな同ドラマがヒットする可能性が高いと指摘する次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏に、その理由を解説してもらう。
テレビ番組の新たな可能性を示した
2024年冬ドラマが出揃った。初回の視聴率では各局の明暗が分かれたが、特定層の含有率をみると番組の特徴が浮き彫りになる。なかでも特筆すべきは、『不適切にもほどがある!』が昨年まで3回放送され好成績だった『ダウンタウンvsZ世代』(日本テレビ系)と同様、テレビ番組の新たな可能性を示した点だ。
各ドラマ初回の明暗
個人視聴率(スイッチメディア「TVAL」より)では『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)が存在感を示した。全世代で高い視聴率となり、TBS日曜劇場の強さを改めて見せつけた。テレビ朝日の『相棒』や『グレイトギフト』も個人全体で高い。ただし若年層にはあまり見られておらず、同局特有の中高年に強いドラマの路線を踏襲した。
対照的なのが日本テレビの『新空港占拠』や『となりのナースエイド』だ。高齢者に弱いため、個人全体は必ずしも傑出しない。ただしコア層・Z世代・女子高生など若者によく見られ、しかも企業に勤める管理職にも強い。親世代が子と一緒に見ており、さらに購買力のある家庭が多いので、スポンサーにとってはCM出稿したい番組となっただろう。ビジネス重視という同局の姿勢が現れた番組だ。
ところが今期は、以上のパターンと異なるドラマが登場した。阿部サダヲ×クドカンによる『不適切にもほどがある!』だ。75歳以上でこそ苦戦したが、若年層でも50~60代でもよく見られた結果、個人全体は3位と好位置につけた。しかも管理職や好奇心旺盛な層によく見られ、やはりスポンサーにとってニーズの高い番組となっていた。
“昭和×Z世代”の強み
同ドラマでは阿部演じる主人公が、1986年から2024年の現代へタイムスリップする。昭和おやじの不適切発言が令和の空気をかき回すコメディだ。驚くべきは今や死語の“NGワード”が放送で次々に出てくる点。「ブス」「ケツバット」「チョメチョメ」など昭和では当たり前だったが、放送中に2回も不適切表現へのお断りテロップを入れるほど、今のテレビでは危ない言葉たちだ。それでもZ世代には新鮮に映り、令和のコンプライアンス大合唱に戸惑う中高年には懐かしく思えたようだ。
具体的に誰が見たのかをチェックしよう。昭和を知らないT~1層(男女13~34歳)で高く、特にMT(男性13~19歳)で突出した。そして親世代も好調だが、特に昭和の価値観で育った3層(男女50~64歳)で高くなった。
実は同ドラマと視聴者層のパターンが酷似する番組があった。昨年までに3回放送された日本テレビの『ダウンタウンvsZ世代』だ。昭和世代とZ世代が、今では考えられない昭和の常識を収めたVTRを見てトークするバラエティだ。あり得なくてケシカランが面白かった昭和のテレビ、コンプライアンスを無視したお笑いの芸風、ヤバいかもしれないが力強い時代風潮などが次々と登場した。
高い個人視聴率を支えたのはT層から3層(13~64歳)と幅広い。しかも企業の40~50代管理職がよく見ているなど、コンプライアンスでがんじがらめの今が相対化されているといえよう。ただし4層(65歳以上)はあまり高くないのはテレ朝『相棒』と真逆だ。
『不適切にもほどがある!』は、昭和が令和と触れ合うという意味で『ダウンタウンvsZ世代』に通じるものがある。結果として視聴者層も酷似した。やや異なるのはドラマゆえか、「ドラマ好き」や「女子高生」により多く見られた点である。
テレビの一つの可能性
テレビ番組で重要なのは、娯楽性と時代性だ。面白くなければ見てもらえないし、なぜ今見るのかもヒットの重要な前提となる。その意味では、今が昭和とかくも異なってしまったという視点は、若者に新鮮に映ると同時に、時代の変化を上手に認識させられる。あわせて昭和の価値観から抜けきれない世代にも、多くの気づきを与える。何よりもテレビ番組は「今までになかったもの」を描いてこそ評価される。そこに感動など普遍性が加われば“鬼に金棒”だ。
若年層にも親世代にもよく見られ、時代の変化を楽しめる同ドラマの好調なスタートは、アイデアとマーケティングの勝利といえよう。しかもテレビドラマ好きの心を掴み、女子高生と親の随伴視聴までゲットしているようだ。テレビの多様性を切り拓く、新しいドラマの挑戦に期待したい。
(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)