昨年シーズンからプロ野球球団・北海道日本ハムファイターズの本拠地となったエスコンフィールドHOKKAIDO(北広島市)。運営するファイターズスポーツ&エンターテイメントは、開業1年目となった昨年の同球場の売上が251億円だったと発表。札幌ドームを本拠地としていた19年と比べ93億円の増収となったことがわかった(北海道放送の報道より)。一方、日本ハムに「出て行かれた」札幌ドームは24年3月期の純損益が2億9400万円の赤字予想からさらに膨らむ見通しとなるなど苦境に陥っており、早くも明暗が分かれている。
エスコンフィールドは国内にある既存の球場とは大きく趣が異なる。周辺エリアを含めた北海道ボールパークFビレッジは、約32ヘクタールの広大な敷地内に球場のほかに数多くのショップや飲食店、ミュージアムなどの文化施設、自然を楽しむアクティビティ、キッズエリアなどが設けられ、野球の試合がない日でも365日楽しめるのが特徴。宿泊施設だけでもホテルの「tower eleven hotel」、プライベートヴィラの「VILLA BRAMARE」、手ぶらでキャンプ体験ができるグランピング施設「BALLPARK TAKIBI TERRACE ALLPAR」の3施設があり、なかでも注目度が高いのが、球場内のレフトスタンド上に設置された「tower eleven hotel」だ。12室ある客室から窓越しに試合を観戦することができ(「mountain view」タイプの客室はルーフトップテラスからの観戦)、球場にも入場できるほか、試合がない日もFビレッジ内の飲食店をはじめとする各施設を楽しむことができる。
北広島への新球場建設が決まったのは2018年。日ハムはアメリカの大リーグの球場などで普及しているボールパーク型施設を目指し、スポーツ施設やエンターテインメント施設に加え、マンションやオフィスビルなど企業関連施設も含む「まち」をつくる構想を具現化。まだFビレッジ全体としての完成形には至っていないなか、初年度から大きな結果を出した。
「もっと早く本拠地を移転させればよかった」
日ハムの本拠地移転までには紆余曲折があった。サッカーW杯日韓大会の札幌開催を目的として01年に開業した札幌ドームは、経営安定化のためにプロ野球球団の日ハムを誘致し、04年から日ハムの本拠地となっていた。だが、札幌ドームは16年に日ハムから徴収する一試合当たりの使用料を値上げ。日ハムが札幌ドームに支払っていた使用料は1日あたり約800万円前後とみられ、球場内の広告料や売店など付帯施設からの収入もほとんどが札幌ドームの取り分となっており、日ハムは16年から本拠地移転の検討を本格化させることとなった。
日ハムの「流出」により年間20億円以上とみられる売上を失った札幌ドームとは対照的に、日本ハムの試合興行関連事業を担うファイターズスポーツ&エンターテイメントは、エスコンフィールドのチケット販売収入や広告収入、グッズ販売や飲食店の収入などを一手に得ることにより、大きな売上をあげることとなった。
「Fビレッジの総工費は約600億円とされ、球場のエスコンフィールド単体だけで約250億円の売上を達成できたということなので、結果だけみれば『もっと早く本拠地を移転させればよかった』といえる。しかも日ハムがペナント最下位でもこの数字なので、チームの成績が上がってファンや北海道民の熱気が盛り上がれば増収が期待できるし、Fビレッジはまだ半分程度しか完成しておらず、全体の売上は増えていくことは間違いない。札幌市の第三セクターが運営し、利用する事業者・団体から金を吸い上げることしか考えられない札幌ドームと、民間企業が構想から10年以上かけて緻密なマーケティング戦略に基づいてつくったFビレッジでは、大きな差が生じるのは必然といえる」(地元メディア関係者)
また、プロ野球球団運営会社関係者はいう。
「プロ野球球団の経営は、球団と球場の一体経営ではないと儲からない。阪神タイガースと本拠地の阪神甲子園球場、福岡ソフトバンクホークスと福岡PayPayドーム、埼玉西武ライオンズとベルーナドームの例のように、同じ企業グループ内で運営されているのが望ましい。日本ハムはこれまで事実上は札幌市の持ち物だった札幌ドームに金を払って借りる形態だったが、同じ日本ハムグループ内での一体経営に切り替えることに成功した。それによって球場運営の自由度が増し、球場内でのホテルや温泉施設の運営、球場としては類を見ないほどの豊富な飲食店・ショップの出店が実現できた。ちなみに、横浜DeNAベイスターズは16年に横浜市が所有していた横浜スタジアムの運営会社を買収することで子会社化したが、それほど一体経営というのはプロ野球球団運営のビジネス上、必要不可欠ともいえる」
存続させる必然性は薄い
札幌ドームの経営は厳しい。前述のとおり24年3月期は大幅な赤字決算となる予定であり、昨年には総額10億円を投入して1~2万人規模のイベントを開催する「新モード」を設置したが、使用・予約件数は低迷。今年1月からは施設の命名権(ネーミングライツ)を1年で2億5000万円以上、希望期間は2~4年という条件で販売するとして公募を行っていたが、応募締め切り日である2月29日、応募がなかったことが発表された。
「新モードの費用負担は市となっており、10億円は税金から出ている。加えて本年度予算で札幌ドームへの助成金として1億4000万円が計上されるなど、延命のためにずるずると税金が投入されているのが実態。運営会社は札幌市が55%の株式を持つ第三セクターであるため、経営が苦しくなればさらに税金が投入される可能性もある。札幌には5万人規模の集客が可能なコンサート会場は札幌ドーム以外にはないが、それほど大規模なコンサートは年に数本あるかないかだろうし、1万人規模のホールであれば他にもある。地元では球場を解体して商業施設や企業施設、工場などを誘致するなど有効活用すべきという声も高まっており、費用対効果を考えれば存続させる必然性は薄い。今年度の赤字も3億円を超えるとみられており、もはや解体は避けられないかもしれない」(地元メディア関係者)
(文=Business Journal編集部)