ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 戸田建設がアプリで安全対策推進
NEW

建設現場の“ヒヤリハット”を効率的に収集…戸田建設がアプリで安全対策推進

構成=Business Journal編集部
【この記事のキーワード】, ,

建設現場の“ヒヤリハット”を効率的に収集…戸田建設がアプリで安全対策推進の画像1

 建設現場に付きものの“ヒヤリハット”は、作業員が書類に記入して報告する方式が一般的だったが、ヒヤリハットが発生したら、その場でスマホのアプリに入力して報告するシステムが安全対策を進化させつつある。

 そのアプリとは、戸田建設が2021年12月にリリースした「ヒヤリポ」である。ヒヤリハットを「転倒」「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」「動作の反動・無理な動作」「高温・低温物との接触」「切れ・こすれ」など、ひんぱんに発生し得るケース11パターンに類型化。その場で該当する項目をクリックすると、現場の所長、職長、さらに作業員全員に共有される。


出典元:一般社団法人日本建設業連合会 Work Style Lab

 戸田建設のパートナーとしてヒヤリポを開発したのはUI/UXに強みを持つ、からくり株式会社(東京都港区)である。ヒヤリポの開発プロセスや効果について、戸田建設ICT統轄部DX推進室主任の宮﨑孝一氏、からくり営業部長兼マーケティンググループリーダーの照屋俊佑氏、同社エンジニアの佐藤駿樹氏が語る。

――戸田建設ICT統轄部DX推進室は会社からどんなミッションを与えられ、宮﨑さんはどんな役割を担っているのでしょうか。

建設現場のヒヤリハットを効率的に収集…戸田建設がアプリで安全対策推進の画像2
戸田建設ICT統轄部DX推進室主任・宮﨑孝一氏

宮﨑 社内のデジタル化を推進していくことです。DX推進室が単独で行うのではなく、社内の土木・建築などの事業本部と連携しながら、会社全体のデジタル化とDXを進めていくことがミッションです。私自身はいくつかのプロジェクトを担当しています。たとえば現在建築中の新本社ビルに向けたサービスシステムの構築や、 今日のテーマである「ヒヤリポ」の開発などです。

――ヒヤリポが開発された経緯を教えてください。

宮﨑 工事部門を担当する部長に「ヒヤリハットを効率的に集める方法はないだろうか?」と相談されたことがきっかけでした。多くの建設会社がそうであるように、当社もヒヤリハットを書類で報告していましたが、部長が工事現場に行ってヒヤリハットの報告書をめくっていた時に「これらの事例は他の現場にも横展開できるのではないだろうか」と考え、横展開をしたところ同じようなヒヤリハットの要因を把握できたのです。

 しかし紙では報告が上がってこないと重要な情報を見逃してしまう可能性があるので、報告しやすく、かつ可視化もしやすい方法の開発を相談されました。当初はアンケート調査用のツールやノーコードアプリケーションでの試行を、2~3カ月現場で行ったのですが、思うような効果がみられず、現場からも入力の手間などが指摘されたことから、しっかりと投資をしてアプリを開発することに決定しました。

――建設業界に限らず、かねてから安全対策を強化するためには、ヒヤリハットを積極的に報告する文化をつくることが重要と指摘されています。そのための仕掛けに着目されたのですね。

宮﨑 ヒヤリハットを起こしたことは本人に何かしらの不安全な行動があると思われがちな雰囲気が、建設業界全体にあったのではないかと思います。そうした中で、建設業労働災害防止協会(建災防)は「ヒヤリハットは災害を回避できた成功体験である」という新しい考え方を打ち出しています。当社も「ヒヤリハット報告の多い現場は安全向上の活動に積極的」という文化の醸成を目標として、そのためにアプリを開発しました。

――アプリ開発を委託するパートナーの選定に際して、どのような基準を設けたのですか。

宮﨑 ウェブ系アプリ開発に強い会社、SI系の会社など5社に提案依頼書をお送りしました。選定の基準は、提示していただいた予算額を前提にして、我々の要求に対して適格な提案が返ってきたかですが、それ以上に当社の質問に対する回答だけでなく、将来の開発指針など一歩踏み込んだ提案をしてくださったかどうかを強く評価しました。

――委託先の候補のなかから、からくりを選んだ理由は何でしょうか。

宮﨑 ネイティブアプリのノウハウを生かしながら「こういう入力の仕方がよいのではないか」「将来的にはこんな機能を付加したほうが、作業員さんが積極的に入力してくれるのではないか」など、我々が考えている水準の先まで提案に盛り込んでくださったうえで、予算額と納期が希望を満たしていたので、からくりさんをパートナーに決めました。

――建設会社との取引実績は審査基準にしなかったのですか。

宮﨑 その点は過去の実績も大事ですが、当社の業務理解への積極性を評価しました。提案を依頼してから提出日まで約1カ月でしたが、その間、からくりさんはたくさんの質問をしてきて、業務理解を深めて提案に反映してくださいました。

――照屋さんにお尋ねします。戸田建設から提案の依頼を受けて、どんなアクションを起こしましたか。

建設現場のヒヤリハットを効率的に収集…戸田建設がアプリで安全対策推進の画像3
からくりマーケティンググループ・リーダーの照屋俊佑氏

照屋 是非プロジェクトとして取り組みたい案件だと判断して、すぐに担当チームをつくって動き出しました。まず事業理解のために戸田建設さんのIR資料を読み込みました。次に業務理解のために安全衛生管理に関するドキュメントやヒヤリハット報告シートを解析して、わからない点は積極的に質問をすることで解像度を上げて、提案書を作成しました。それから弊社の強みであるUIとUXを活かして、安全対策の世界観や、平易な操作性、ヒヤリハット報告の業務フローなどを提案に取り入れました。

――アプリの要件定義はどのように詰めていったのですか。

照屋 工事部門の部長、次長、安全衛生管理の責任者、DX推進室長、宮﨑さんなど週1回の会議を1カ月ぐらい開いて、アプリの要件定義を詰めていきました。その中で、現状の課題、業務フローの改善方法を議論し、同時にプロトタイプを早期に開発して提示しながら要件定義を進めました。

――工事現場も視察したのでしょうか。

照屋 視察しました。ヘルメットと作業着を着用して足場に上って、現場環境を拝見しました。さらに現場の所長とディスカッションをさせていただきました。ヒヤリハット報告書や統計データを読み込んだうえでの視察だったので、より解像度が上がりました。

――その後、アプリの設計について戸田建設とのやりとりに進んだと思いますが、何が焦点になりましたか。

照屋 開発期間は5カ月でした。修正要求を柔軟に取り込みながら、弊社も新しい概念のアプリを開発するという状況なので、「こうしたほうがよいのではないか」という意見を申し上げながら、すり合わせを進めました。例えば報告者の氏名を入力するかどうか議論になった時には、氏名が開示されると報告件数が減ってしまう可能性があることを申し上げて、匿名形式に決めていただきました。また、要求を全て受け入れると予算をオーバーしてしまうことや、弊社も導入したい技術があったので、そこは臆せずに意見を伝えました。忌憚のないディスカッションに臨んだことで、幹部の方々にも信頼していただけたのではないかと受け止めています。

――宮﨑さんは、アプリ設計で何に難航しましたか。

宮﨑 大きく方向性が変わるとか、進捗がとどこおるようなことはありませんでした。当初に設定した要件定義は変更しないという方針ではなく、アジャイル開発のように進めたので、開発していく中で、たとえば報告の削除などの機能を付けたほうがいいのではないかなど「あったらいいね」という機能がたくさん案として出てきました。そうした機能を入れるには当初に予定した機能を外さなければならない場合もあり、アプリの紙芝居を作って工事現場で意見を聞いたりして、機能の優先順位を柔軟にすり合わせました。

 からくりさんが、エンジニアがプロジェクトチームのフロントに立ってくださったことも、進捗に支障が出なかった要因だと振り返っています。打ち合わせの場で機能、納期、金額などが問題になった時も、持ち帰らずにその場で判断していただくことができて、スピード感をもって作業が進みました。

――ヒヤリハットを報告するのは戸田建設の方よりも、多くは協力会社の方でしょうが、協力会社にもアプリ開発の意見を求めたのでしょうか。

宮﨑 現場の所長に依頼して10人ぐらいの協力会社の方々に集まっていただき、意見をいただきました。

――アプリでの報告への移行に反対する意見はありましたか。

宮﨑 元請けの戸田建設が新たなアプリを導入するとはいえ、私物のスマホに入れることに消極的な意見はありました。我々も現場の方々全員に導入することは難しいと考えていたので、協力会社の職長さんにまずは導入していただき、紙との併用でスタートしました。スタートして以降、作業員さんからは、操作の仕方が分からないなどの意見はほとんど出ませんでした。

 紙での報告では、3次協力会社から2次協力会社へ、2次協力会社から1次協力会社へ、そこから戸田建設へというフローでしたが、アプリを使えば全ての作業員さんからダイレクトに戸田建設に報告されるうえに、全員に共有されます。その利便性を評価して、協力会社の立ち位置に関係なく導入してくださっている作業員さんもいます。

――ヒヤリポをリリースして2年が過ぎました。導入状況はいかがでしょうか。

宮﨑 全国に400近い現場がありますが、約7割の現場で導入されています。それからゼネコンが自社開発したアプリという点が注目されて、専門紙や業界団体で取り上げられるようになり、展示会に出展したところ多くの問い合わせが入りました。戸田建設が安全性ナンバーワンに向けて、デジタル化にも取り組んでいくことが業界内でも認知されるようになったと思います。

――協力会社の方々からはどんな意見が集まっていますか。

宮﨑 紙の報告だと提出したら自分の手から離れてしまいますが、アプリだといつでも閲覧できるのでヒヤリハットの振り返りができることや、他の人の意見を閲覧できるので参考になるという意見が出ています。

――導入した効果として何が挙げられるでしょうか。

宮﨑 今までは作業員さんが業務終了後にシートに現場を退場することを記入して、同時にヒヤリハットも記入していたのですが、ヒヤリポの導入によってヒヤリハットが起きた時に速やかに報告できるようになりました。リアルタイムの報告ができるので、報告を受けた現場の社員がすぐに改善に向かうことができています。

――2年使用してきて改善点などはありましたか。

宮﨑 不具合対応をしながら機能改修を継続的に行ってきました。例としては外国語対応があります。作業員さんには外国人の方も含まれていますが、当初は日本語対応しかしていなかったので、英語やベトナム語でも対応できるように改修しました。それから報告のやり直しができる機能を加えたり、端末を買い替えた時に報告を引き継げるようにしたりしました。ユニークな取り組みでは、報告をポジティブな行為にするために報告のたびにポイントが加算され、一般消費に使えるポイントへ転換できる機能をトライアルとして加えました。

――からくり側から改善を提案することはなかったのでしょうか。

佐藤 当初は報告に対してコメントをする機能はありましたが、その結果がどうなっているかが作業員さんにわかりにくい面があったので、「対策済み」というボタンを提案し、実装していただきました。管理する側のアクションが分かれば報告も増えていくうえに、このボタンがあれば対策も進むと考えたのです。

――宮﨑さん、そもそもヒヤリハットは付きものなのか、それとも減らすことができるのか、どう考えればよいのでしょうか。

宮﨑 ヒヤリハットは付きものというのが業界全体の考え方です。建災防の調査による統計を見ても建設現場で働く人の6割が1年間の作業中にヒヤリハットを経験していると言われています。ヒヤリハットを減らすという捉え方ではなく、ヒヤリハットが起きることを前提にしたうえで、なぜヒヤリハットで済んだのかという捉え方をしています。

――今後の運用方法についてお聞かせください。

宮﨑 直近の課題は、この2年間に収集できたヒヤリハットのデータから、災害との相関や工期との相関があるのかどうかなどを分析して、データに基づいて災害防止につながる新たな方策を検討することだと思います。一方、ヒヤリポをリリースして以降、建設業だけでなく機械製造業や食品製造業、介護事業など複数の業界の企業から「うちで使えないだろうか」という問い合わせを受けてきました。そこで2023年9月ごろにヒヤリポをSaaS化して、他社さんも使用できる仕立てにして、トライアルとして試行運用している事例もあります。

 我々は事業会社ですが、現場の安全には「競争すべき領域」と「協調すべき領域」があると考えています。2024年度には、からくりさんと模索しながらヒヤリポを広く使っていただくことで、建設業界全体の安全に貢献できるアプローチをしていきたいと思います。

照屋 弊社にも複数の業界から、ヒヤリポをそのまま使いたいとか、カスタマイズして使いたいなどの問い合わせが入っています。戸田建設さんと協議しながら、まずは建設業界への普及をめざしたいと思います。弊社はベンチャー企業なので、安全対策の実績を積み重ねて会社の発展につなげたいと構想しています。

――本日はありがとうございました。

(構成=Business Journal編集部)

※本稿はPR記事です。

建設現場の“ヒヤリハット”を効率的に収集…戸田建設がアプリで安全対策推進のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!