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ゴールドマン・サックスは日本市場でメガバンクと大手証券会社の脅威になる

文=Business Journal編集部、協力=浪川攻/金融ジャーナリスト
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ゴールドマン・サックス証券が所在する東京・六本木ヒルズ(「gettyimages」より)

 米ゴールドマン・サックス・グループ(GS)が日本での銀行業務から撤退する。GSは2021年に日本で銀行免許を取得し、昨年4月からゴールドマン・サックス・バンクUSA東京支店を通じて主にトランザクション・バンキング業務を提供していたが、すでに新規取引の受付を終了している。「世界最強の金融グループ」と呼ばれるGSは、なぜ開始から1年もたたないうちに日本での銀行業務からの撤退に追い込まれたのか。また、将来的には日本でGSがメガバンクや大手証券会社を脅かす存在になると専門家が指摘する理由は何なのか――。

 GSは日本では主にゴールドマン・サックス証券とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを通じて、投資銀行事業や資産運用事業を展開。国内外の株式やデリバティブ、債券・為替商品をはじめとする投資関連サービス、M&Aアドバイザリー業務、社債発行をはじめとする企業の資金調達引受業務、自己勘定投資・運用などを行っている。なかでもM&Aアドバイザリー業務では2023年まで7年連続で世界シェア1位であり、「世界最強」と呼ばれるゆえんともなっている。

「GSの強みはM&A業務などを通じて培った世界中の大企業との取引関係にある。M&Aや投資、提携などあらゆる面で顧客企業に有望な相手を見つけて引き合わせる力を持っている。また、世界中に拠点を持ち、あらゆる金融サービスを手掛けているため、日本の銀行や証券会社と比較して圧倒的に幅の広い内容の提案を顧客企業に行うことができる。商品開発からトレーディング、アナリスト、資産運用、営業まで多岐にわたる領域に高度なスキルの人材を揃え、さらに全部門がグローバルな規模で密に連携して日々の業務を展開しているのもGSの強力な武器」(外資系証券会社関係者)

 GSが日本で銀行業務として展開していたのがトランザクション・バンキング業務だ。口座管理、資金管理、送金、支払いなどを企業などから受託するもの。GSはグローバルでシステムを構築しており、企業は24時間365日、世界160カ国、120の通貨での送金や資金管理などが可能となる。金融ジャーナリストの浪川攻氏はいう。

「商社をはじめ輸入・輸出に関連する業務を行う企業は日々、クロスボーダーで送金などお金のやりとりを行っており、より効率的に行うためグローバル・キャッシュ・マネジメント(GCM)の向上に努めている。この領域では最先端のデジタルテクノロジーが活用されており、GSは世界規模でトランザクション・バンキング業務を手掛けて、欧米を中心に多くの企業からGCM業務を請け負っている。

 GSが強みを持つ法人向けの投資銀行業務やトレーディングは利幅は大きいものの、そのときどきの市況などの影響を受けやすく業績の浮き沈みが激しく、事業としてのリスクは高い。そのため、GSに限らず投資銀行は安定的に収益をもたらす事業の育成に注力しており、たとえば競合のモルガン・スタンレーは全社収益のうち富裕層向けのウェルスマネジメント(包括的な資産管理)事業が占める比率が高い」

日本企業とメインバンクの関係

 ゴールドマン・サックスは2020年にトランザクション・バンキング業務に参入したが、なぜ日本では1年たたないうちで撤退となったのか。

「日本企業はメインバンクとの関係が非常に強固なので、現場レベルではGSのサービスへの評価が高かったとしても、決裁権限を持つ経営層レベルでは総合的な判断としてメガバンクとの取引を優先させるとなりやすい。特に大企業であればあるほど、メガバンクはすでに提供しているサービス領域を死守しようとするもの。こうした背景もあり、GSとしては日本市場では思うような成果をあげられず、欧州、特にイギリス、ドイツ、オランダなどにリソースを集中させたほうがよいという判断に至ったのではないか」(浪川氏)

 もっとも、今回の撤退に日本の金融機関は油断している場合ではない。

「GCMやウェルスマネジメントの領域は高度なテクノロジーの活用が進んでおり、その点ではGSなど海外の投資銀行が先を行っている。先ほどお話ししたように、GSは安定的収益を求めて世界市場で事業を展開しており、当然ながら将来的には再び日本でこれらの事業を強力に推し進めようとしてくる可能性は高く、日本の金融機関にとっては脅威になる。メガバンクも証券会社も高度なテクノロジーを取り入れてサービスレベルを向上させていかなければ、GSをはじめとする外資勢に既存顧客を浸食されていくだろう」(浪川氏)

(文=Business Journal編集部、協力=浪川攻/金融ジャーナリスト)

浪川攻/金融ジャーナリスト

浪川攻/金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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