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エリート・高待遇・安定のメガバンク行員、離職率上昇の理由…キャリア形成に限界

取材・文=A4studio、鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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「gettyimages」より
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 メガバンクの三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行は、かつては「就職すればエリート街道まっしぐら」といわれ、行員が高待遇であることも知られる就職先だ。マイナビと日本経済新聞が共同して発表した「2024年卒大学生就職企業人気ランキング」の文系総合では、三菱UFJが6位、みずほフィナンシャルグループが15位、三井住友銀行が44位と順位にばらつきがあるものの、依然として人気は高めといえる。

 そんなメガバンクだが、意外なことにネット上では離職率が高いともいわれている。その理由としてSNS上では「仕事がつまらない」「支店内の雰囲気が耐えられない」「30、40代になるとキャリアの先が見えてくる」といった声が挙げられており、その多くがメガバンクの閉鎖性やキャリア的な限界を指摘していた。メガバンク各行の離職率は公表されていないので実態を掴むのは難しい。そこで今回は、経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏に話を聞いた。

つまらなく、ストレスの溜まる仕事内容のせいで離職率増?

「確かに以前に比べると、メガバンクの離職率は徐々に高まりつつあるといえますね。従来、メガバンクは給料や福利厚生面での待遇がよく、社会的なステータスも高いということで、学生の人気就職先トップ10の常連として名を連ねていました。しかし、近年では勤続することで発生するマイナス面が顕在化してしまい、そこまで魅力的に映らなくなってしまっている印象です」(鈴木氏)

 銀行員の具体的な業務内容は、どのようなものなのか。

「これは今に始まった話ではないのですが、そもそも銀行員の仕事は役所気質で事務的なものが多く、地味な仕事。基本的にトップダウンの経営方式でして、仕事に自分の意見を通すことはほぼ不可能なんです。おまけに人事評価は減点主義でして、仕事がこなせなかったり失敗したりするたびに、出世の道は閉ざされてしまいます。昨今はコンサルタントファームの人気が高まっていますが、定型化されたメガバンクの仕事は、若者からすれば融通の利かない仕事に映ってしまうのでしょうね。

 実際の業務内容としては、地方銀行では個人や中小企業を相手にした小口業務(リテール)がメインですが、メガバンクほどの規模になると大企業相手の大口業務(ホールセール)が主なビジネスとなってきます。一般的な銀行となると、富裕層、中小企業に対する融資などリテール業務で収益を得ますが、メガバンクは金額がけた違いに大きくなるので、取引先となる企業といかに良好な関係を築けるかが業績に直結するんです」(同)

 メガバンク行員の仕事は、胃が痛くなるようなことも少なくないという。

「たとえばメガバンク行員は、定期的に企業を訪問し、財務諸表を読ませてもらい、取引先が守りに入っているのであれば、融資を受けるよう促さなければいけません。ほかにも銀行側の経営判断により、融資を打ち切るなどの無理筋な難題を課せられることもあります。融資がなくなれば、最悪倒産しかねない企業に対し、打ち切りを説明しなければいけないケースもあるのでストレスが大きい。

 したがって、仕事がつらいだけであまり面白みもないと感じる人が一定数出てきてしまうのは当然でしょう。もちろん大企業との取引によって莫大な金額が動かすことになるメガバンクの一員として、日本経済を支える大動脈になるという高い意識を持ち、仕事に臨む人もいます。しかし、思い描く銀行マンとしての理想と実際の仕事のギャップに苦しみ、メガバンクを辞めようと思う人が出てくるのも仕方がないでしょう。加えて現在は転職が当たり前の時代になったので、若い世代を中心により離職率の上昇に拍車がかかったと考えられますね」(同)

支店長になれるのは3人に1人? 天下りで年収が下がる

 メガバンクは出世競争も苛烈だ。

「メガバンク行員の最初の目標は支店長になることです。一昔前は、東大、京大卒の社員であれば、順当にキャリアを積み重ねていけば、支店長になることは比較的容易でした。また役員になってしまえば、取引先の大企業に天下りして穏やかに定年まで過ごせることも珍しくなかったのです。しかし現在では、それが難しい状況になっています。

 なぜなら支店数の減少によって、ポストの奪い合いが起こっているからです。たとえば、現在の三菱UFJ銀行は、国内外合わせて580店舗まで減ってしまっているのに対し(2022年3月末現在)、23年度の新卒採用数は400人程度もいます。支店長の任期を4年と想定した場合、ライバルは1600人となるので、3人に1人ぐらいしか支店長になれない計算で、競争はよりシビアになってしまいました。また、仮に支店長になれたとしても、そこから先の役員への出世の枠は当然さらに限られてくるのです」(同)

 ますます先のキャリアが見えてしまい、出世のモチベーションも消えていくというわけか。

「50代前後ですでに出世が見込めない行員になると、『たそがれ研修』といって大企業以外の取引先へ天下りする準備を始めます。天下り後、2年間はもともとの給料を銀行側が補填してくれますが、3年目以降は天下り先の企業の水準へと変更になり、年収がガクッと落ちることもよくあります。それでも年収800万円前後というケースが多いため高給であるには変わりませんが、それまでのキャリアを考えると心理的なダメージは大きいでしょうね」(同)

 若者の意識が変わり、メガバンクの印象も変わりつつある現代。だが鈴木氏は、長期的に見ればメガバンクの人気は少しずつ下がるといえるが、一気にその価値が暴落することはないと分析する。

「価値観が変わってきたとはいえ、メガバンクが有力な就職先であることは間違いないです。かつてはサービス残業も常態化していましたが、働き方改革の影響で労働環境も改善されつつあるので、遅くまで仕事で残らなくてはいけないということも少なくなっているはず。また自分の意見が通らない職種ですが、裏を返せば作業を淡々とこなせる人にとっては向いている職場であることを意味します。ですから黙々と仕事を進めることが得意な学生にとっては、まだまだ魅力的な就職先ではないのでしょうか。

 仮に退職することになっても、メガバンクは社会的ステータスが抜群に高いので、転職活動でも有利に働くことは間違いなし。定年まで働こうと考える人は減っているでしょうが、ひとつ目のキャリアとしてはメリットが大きく、損はない就職先だと思いますね」(同)

 いまだにメガバンクは多くの学生たちが志望する人気企業だが、定年まで身を捧げるという覚悟で出世を目指す社員は減り、若い世代ほど自身のキャリアのファーストステップ程度にしか考えていないのかもしれない。

(取材・文=A4studio、鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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