医師を頂点とする医療現場において、看護師より薬剤師のほうが平均的な給与が上だという情報が一部で話題を呼んでいる。その背景には何があるのか。また、同じ薬剤師でも病院薬剤師とドラッグストア・調剤薬局勤務の薬剤師の間に“ヒエラルキー”があるという声も聞かれるが、そのような実態はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
夜勤もあり激務というイメージが強い看護師。厚生労働省発表の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、平均年収は約508万円。日本人の平均年収458万円(国税庁発表の「令和4年分民間給与実態統計調査」より)を上回っている。新卒看護師の基本給は、大卒が20万9616円、専門学校卒が20万3276円(日本看護協会「2022年病院看護実態調査報告書」より)となっており、大卒と専門学校卒で大きな差はない。入院患者を受け入れている病院勤務の場合、一般的に週1~2回程度の夜勤があり、体への負担は重い。
一方、薬剤師の平均年収は約583万円で、看護師を75万円上回っている。勤務地の都道府県によってバラツキが目立ち、1位の宮崎県は約718万円と全国平均を135万円上回っている。ちなみに東京都は23位で約585万円。
ドラッグストアと病院の大きな違い
このような差が生じる背景には何があるのか。薬剤師の小谷寿美子氏はいう。
「ドラッグストアや調剤薬局は薬以外にも食品や生活用品など幅広い商品を扱っており、現場の薬剤師には一定の売上目標が課されているケースが多く、利幅が大きな要指導医薬品や第1類医薬品、栄養ドリンクなどをより多く売るように言われているケースもあります。このように民間企業としてさまざまな工夫をして利益を追求しやすい面がありますが、病院だと積極的に利益を追求するということはやりにくく、経営面での利益率は低くなりがち。また『薬剤師のAさんがいるから、あのドラッグストアに行こう』というかたちで薬剤師の存在が集客の契機になるケースというのは意外に多く、個人の頑張りが店舗の売上に結びつきやすい。このような違いが薬剤師と看護師の年収の差を生んでいる面はあるかもしれません。
世間的には『看護師は夜勤もあって激務なのに、医師が出した処方箋どおりに薬を出すだけの薬剤師のほうが年収が高いのは違和感がある』と思われるかもしれません。もちろん看護師はハードで責任の重い職業であることは誰もが認めるところですが、例えば医師が書いた処方箋の内容が間違っていて、薬剤師がミスを見落としてそのまま患者さんに処方してしまった場合、その責任は薬剤師が負うことになり、個人で大きなリスクを背負っています。
また夜勤についても近年では24時間営業や深夜営業のドラッグストアが増えており、薬剤師にとっても夜勤は珍しくなくなりつつあります。専門知識の面でも薬剤師になるには6年制の薬科大学を卒業して国家資格に合格する必要があるので、高い専門性が求められます。医師の指示のもとで手技がメインとなる看護師の仕事とは、また違った難しさがあります」
“病院薬剤師のほうが上”という空気は存在する?
では、ドラッグストア・調剤薬局勤務より病院薬剤師のほうが“上”という風潮はあるのか。ちなみにサイト「マイナビ薬剤師」によれば、平均年収は病院勤務が401.4~542.2万円、ドラッグストア勤務が446.5~594.3万円となっており、ドラッグストア勤務のほうが上回っている。
「ぼんやりとではありますが、“病院薬剤師のほうが上”という空気は存在します。大きな違いは、病院薬剤師は医師が書いたカルテを直接見ることができ、日々、医師や症状が重い患者さんと接するため、より専門性が求められる点です。一方、ドラッグストアの薬剤師は処方箋を見たり患者さんの話を聞いて一つひとつ判断していき、必要があれば病院に連絡して医師にお伺いを立てなければなりません。
また、ただ処方箋で指示された薬を出していればよいわけではなく、前述したとおり薬やそれ以外の商品の販売ノルマがあったり、最近では減りましたが薬剤師も棚に陳列する商品の品出しをしたりと、店員として重労働や雑務を含めてやることは多いです。
もっとも、ドラッグストアの薬剤師は病院薬剤師と異なり、医療用医薬品だけではなく一般用医薬品の知識も必要なので、病院薬剤師同様に高い専門性と継続的な勉強が求めらます。そして繰り返しになりますが、ドラッグストアの社員といえども薬剤師は独立した存在として、ミスはすべて自分で責任を負わなければならないため常にリスクを背負っています」(小谷氏)
(文=Business Journal編集部、協力=小谷寿美子/薬剤師)