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EV、粉塵の原因物質の発生がガソリン車より3割多く…CO2削減にも逆行

文=Business Journal編集部、協力=飯島晃良/日本大学理工学部教授
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「gettyimages」より

 環境負荷が低いとされ、世界でエンジン車からの移行が進む電気自動車(EV)。経済協力開発機構(OECD)によれば、そのEVの走行時にタイヤの摩耗によって発生する、粉塵のもととなる粒子状物質「PM10」「PM2.5」はガソリン車より3割多いという(5月19日付「日本経済新聞」記事より)。走行時の二酸化炭素(CO2)や排ガスが少ないとして各国政府がEVへの移行を推進するなか、原材料の採掘や動力源となる電気の発電、廃車までトータルで見た場合のEVの環境負荷は低くはないとの指摘も多く、走行時の環境面でもガソリン車に対する優勢性が高くないとなれば、EVシフトの正当性が揺らぐ可能性も出てくる。

 環境意識の高まりを受け、数年前から世界の自動車市場はエンジン車からBEV(電動車)へ大きく舵を切っている。先陣を切って野心的な目標を掲げたのが欧州連合だ。2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げている(23年に方針を一部修正)。米国も22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与。目標年を明確にして全新車のZEV化を宣言している州もある。

 現時点でもっともEV化が進んでいるとされるのが中国だ。欧州(EU)の23年の新車販売に占めるEVの比率は14.6%なのに対し、中国のEVを含める新エネルギー車の比率は32%。中国政府は27年までにこの比率を45%に引き上げる目標を発表している。

 だが、EV普及には減速の兆しが強まっている。テスラの24年1~3月期の世界販売台数は前年実績を下回った。欧州では各国で補助金が縮小された影響で、月単位でみるとEV販売が前年比マイナスとなる国も出始めており、2月8日付日本経済新聞記事によれば、欧州市場の22年から23年にかけてのEV販売の伸びは2.5ポイントであるのに対し、HV(HEVのみ)のそれは3.1ポイントとハイブリッド車(HV)のほうが上回っている。また、23年の新車販売に占めるHVの比率は33.5%なのに対し、EVは14.6%にとどまっている。

 EV失速が叫ばれるなか、トヨタ自動車は5月、電源をつないで充電でき、モーターとガソリンエンジンの両方を搭載するプラグインハイブリッド車(PHV)向け新型エンジンを開発すると発表。世界でEVの販売が減速する一方、EVとエンジン車の“いいとこ取り”をしたハイブリッド車(HV)とPHVの販売が伸びていることから、トヨタはEVやエンジン車だけでなくHVとPHVの開発にも注力する方針を表明した。

欧州が掲げるEVシフトの矛盾

 EVはエンジンを使用しないため走行時のCO2や排ガスの排出量が少なくクリーンとされてきたが、バッテリの生産に必要となるレアメタル、レアアースをはじめとする原材料の採掘、車両の生産、動力源となる電気の発電、廃車までトータルでみると、環境負荷が低いとは評価できないとの指摘もある。

 日本大学理工学部教授の飯島晃良氏はいう。

「EVの走行時のCO2排出量はゼロですが、発電時に排出されるCO2やレアメタルなど原材料の採掘や廃棄までライフサイクル全体で考えると、EVの環境負荷はエンジン車と比べてドラスティックに減るとはいえないでしょう。重量が増すとブレーキやタイヤなど制御面の負荷が増し、エネルギー効率が低下するため、モビリティにおいては軽いということが非常に重要です。現状、EVのモーターやインバータの変換効率は通常90%以上であり、これ以上向上する余地は小さいので、航続距離を延ばすためには、より多くのバッテリを積む必要があります。理論的にはバッテリを積めば積むほど航続距離は長くなりますが、その分、車体の重量は重くなるのでエネルギー効率が悪くなります。搭載するバッテリの数量が増えれば、製造に伴う排ガスなどの環境負荷も増えることになります。結果的に、欧州のEVシフトの本来の目的であるCO2排出量の削減、環境負荷削減と結びつかなくなってしまいます。欧州が掲げるEVシフトには、EVを増やすほど不合理な点が顕在化する事項が多く含まれるため、どこかの局面で見直しを迫られる可能性もあります」(飯島氏)

環境配慮型自動車の実現に向けた日本企業の取り組み

 前述のとおり世界でHVとPHVの販売が伸びている。

「1充電あたりの航続距離が400km以上のEVも増えていますが、日常的に400kmも走行するケースは一般的ではなく、オーバースペックといえます。そこで求められてくるのがPHVです。最小限のバッテリを搭載して日頃は電動モーターで走行し、必要時のみ熱効率が高くクリーンなエンジンで走行するような車両であれば、ユーザの利便性を損なわずに低い環境負荷を保てるでしょう。採掘・生産コストが高いレアアース、レアメタルを大量に使用するEVと比べて、エンジン車は原材料が比較的安価であり、技術的な蓄積が豊富なため製造コストが低く済む点もメリットです」

 すでに日本の産業界はEVだけにとらわれない、環境配慮型自動車の実現に向けた取り組みを進めているという。

「自動車のCO2排出量を大幅に削減すべく、自動車メーカーと関連業界は連携して、水素やCO2を原料とする合成燃料『e-fuel(イーフューエル)』やバイオ燃料の実用化に取り組んでいます。これらの燃料が量産化されリッター単価が落ちてきて、かつ今以上に高効率のエンジンが搭載されるようになれば、EV一辺倒の流れは大きく変わってくるかもしれません」(飯島氏)

(文=Business Journal編集部、協力=飯島晃良/日本大学理工学部教授)

飯島晃良/日本大学理工学部教授

日本理工学部機械工学科卒。同大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。富士重工業(現・SUBARU)勤務を経て、2006年に理工学部副手。その後博士号を取得。
専門:内燃機関、燃焼工学、熱力学、エネルギー工学
飯島晃良のプロフィール

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