ワークマンがユニクロに宣戦布告した、とSNS上で話題になっている。その真意はどこにあるのか。今やファストファッションの代表格ともいえるユニクロに太刀打ちできるのか。なぜ今、ワークマンがカジュアル衣料に力を入れようとしているのか。専門家は、話題づくりが多分に含まれているとの見方を示す。
8月26日に開催された2024年秋冬新製品発表会で、ワークマンの土屋哲雄専務取締役は、「価格を業界最大手の半分以下にする」と述べ、実質的にユニクロの市場を奪いに行く姿勢を示した。これまでは「業界最大手とぶつからない空白地」で勝負をかけてきたものの、企業の規模が大きくなってきたことで「一番大きな市場に入ろうとしている」と語り、“機能性の高さと価格の安さ”の両立によってユニクロやしまむらなどの大手に対抗していく方針だ。
だが、なぜワークマンは今、ユニクロへの対抗措置を打ち出したのか。8月17日付当サイト記事『ワークマン女子、なぜ固定客つかめず急失速?店舗運営面の深刻な課題が露呈』でも報じたが、ワークマンは男性客向け商品に注力していく方針を明らかにしたばかりだ。カジュアル色を強めた「WORKMAN Plus」や、女性向けブランド「#ワークマン女子」、さらには子供向けの「Workman Kids」のほか、シニア向け商品や寝具なども取り扱い、顧客層の拡大を図ったものの、リピート客をつかめず苦戦を強いられ、“原点回帰”を余儀なくされている。
“ユニクロの半額”宣言は話題づくりか
アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏は、ユニクロの半額で対抗するという発言については、多分に「話題づくり」が含まれているとの見解を示す。
「実はワークマンの商品は、ユニクロの半額以下です。たとえば秋商品を見てみると、ワークマンの『レディースメンモリークルーネック』は980円ですが、同じようなスウェットシャツがユニクロでは2990円で、半額どころか3分の1の価格です。プルパーカーで比較しても、ワークマンは1500円、ユニクロは3990円といった価格になっています。全商品を比較したわけでもなく、比較対象商品も素材が違ったりするので単純比較はできませんが、競合すると考えられる多くの商品で半額以下です。
そのなかで、あえて『半額以下にする』と宣言したのは、話題づくりという側面が大きいと思います。ワークマンは今期、PB(プライベートブランド)の改廃や値上げを段階的に実施すると発表しましたが、それでも主力PBの“業界最安値”は維持する方針を示しています。対してユニクロは2022年に新聞広告や特別サイトで“値上げの理由”を大々的に告知しました。そこで原材料費や物流費、人件費の高騰などを理由に掲げ、世界的潮流や物価高などに合わせて価格変動する姿勢を示しており、近年で比較すると、両社の価格差は広がってきています」(磯部氏)
安さを前面に打ち出してユニクロに対抗しようとするワークマンだが、中長期的にみて、安さを維持することは可能なのだろうか。
「両社に共通する、安い価格帯の商品を値上げする際の大きな要因は、為替変動です。たとえば、2020年12月は1ドル103円ほどでしたが、直近では146円にまで大幅な円安となっています。この為替は、仕入れに大きな影響を及ぼすので、価格にもつながってきます。
そんななか、ワークマンは今期の仕入れの90%ほどは145円50銭で為替予約を済ませてあり、仕入れ計画を組んでいるとのことで、現状の146円前後であれば“業界最安値”は維持し続けることができると考えられます」(同)
価格だけではなく機能性などでも対抗できるのか
ユニクロの半額にする、という発言は単なるリップサービスや大風呂敷を広げたわけではなく、実現性は高いといえるわけだ。ただ、機能性やデザイン性などでユニクロに対抗できるのだろうか。
「先ほど例に出したスウェットシャツで見ると、ユニクロは綿100%、ワークマンは綿95%・ポリエステル5%といった具合で成分が違いますし、目付(織物や編地の単位当たりの重量)や生産拠点なども異なるので、厳密には比較しにくいですが、仮にワークマンがユニクロと同じ商品をつくった場合に、半額以下にするというのは難しいでしょう」(同)
では、ワークマンはある程度、用途が近い商品において、ユニクロの半額にすることで、戦っていこうという戦略とみることができるだろうか。
「ワークマンは固定客を獲得する、という面で苦戦しています。ワークマンの決算を見ると、表向きは前年比増を実現しています。しかし、売上高が前年より伸びている理由は、新規出店分が上乗せされたものです。ワークマンは昨年度33店舗増やし、2024年3月末で国内に1011店舗となりましたが、ワークマンの既存店(401店舗)の売上高は前年比98.2%でした。WORKMAN Plus(135店舗)は同96.6%、ワークマン女子(25店舗)は同88.9%となっており、いずれも前年比をクリアしていません。
さらに、ワークマンをWORKMAN Plusに全面改装すると1年目は前年比114.5%ですが、2年目は同96%にまで落ちるというデータがあります。部分改装した店舗でも、1年目は同108.2%、2年目は同97.9%に落ち込んでいます。しかも、これらは新規出店の数字には含まれていないので、純粋にワークマンの既存店で見た場合に、売上を維持することに苦慮している様子がうかがえます。
それらを考慮してみると、来期ワークマンが計画している新規出店は47店舗で、同じように来期の決算上の売上高は前年比増を達成すると考えられますが、今後、新規出店が止まったときにどうなるのかという懸念は、ワークマンも持っているはずです。
ワークマンは来期末で1056店舗となる予定で、ユニクロの国内807店舗よりは多いものの、しまむらの1415店舗には及びません。ワークマンの中長期計画を見ると1500店舗ほどまで増やすことを見込んでいるようですが、実際にどこまで増やせるのか、新規出店で売上を伸ばせなくなったときに既存店の改革に着手できるのか、といったところが今後のワークマンの課題になってくると思います」(同)
既存店の売上が伸びない理由
既存店の売上が伸びない理由としては、どのようなことが考えられるだろうか。
「ひとつにはフランチャイズ(FC)運営が挙げられます。直営店が多いユニクロやしまむらより運営が難しいのは間違いないでしょう。FCビジネスは衣料品チェーンよりもコンビニエンスストアなどのほうがマネジメントには長けているはずなので、そういった他業種からノウハウを学ぶなど、全国の加盟店などと協力して運営を変えていく必要はあるでしょう。
ユニクロはかつてはFC店も多くありましたが、現在は10店舗しかありません。残りの797店舗は直営です。しかしワークマンは94%ほどがFC店で、割合は長らく変わっていません。つまり、FCビジネスは今後も続けていくと考えられるので、その運営になんらかのメスを入れていかないと苦戦する可能性はあります」(同)
固定客を獲得するためには、現在の体制のままではなく、なんらかの改革をしなければならないということだ。また、大ヒット商品の欠如も要因として挙げられる。
「ワークマンは作業服がライダーたちに受け入れられたり、ワークマン女子がアウトドアで重宝されたり、業態が注目されがちですが、商品が常に注目されるようにならないと固定客はつきにくいと思います。過去には、妊婦用の『滑らない靴』などヒットした商品もあるのですが、コンスタントにヒット商品をだしていかないと世間に注目されるようにならないのではないでしょうか」(同)
ユニクロに宣戦布告するかのような発言が注目され、その翌日には株価が上昇する効果が見られたが、そもそもユニクロより安いと認識されているワークマンが、“ユニクロよりコスパがよい”との評価で、世間から注目されるようになるのか、しばらく動向を注視したい。
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)