国内店舗数が5年ぶりに1000店舗を超え、2024年3月期の国内全店売上高が前期比18.3%増の1248億円となるなど好調なミスタードーナツだが、「いつも混雑してレジに行列ができている」というイメージが強い。10月には混雑している光景が目立った東京・秋葉原中央通りに面する秋葉原ショップが閉店し、一部SNS上では
<どの店舗に行ってもめちゃくちゃ混んでるのにめちゃめちゃ閉店してるから、「損益分岐点計算するエクセルの参照するセル間違えてるんじゃないかなぁ」って思ってる>
<ミスドが混んでいるように見えるのはレジ待ちが長いからだと思います>
<売ってるものが軒並み安すぎるし、イートインに客はまぁまぁ長居する>
といった声があがっている。なぜミスタードーナツは、いつも混雑しているのか。また、売上高と利益の水準を維持しつつ混雑を解消する方策はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内の店舗数ベースでは2位クリスピー・クリーム・ドーナツ(約70店)を大きく上回る圧倒的な業界1位のミスタードーナツ。「ポン・デ・リング」「フレンチクルーラー」「エンゼルフレンチ」「オールドファッション」などの100~200円台の安価な定番ドーナツ類に加え、ピザ(ミスド ピッツァ)や飲茶にも力を入れ、季節ごとに期間限定商品も展開。「ブラックサンダー」(有楽製菓)や日本茶専門店・祇園辻利、ゴディバなどとのコラボ企画も積極的に展開している。
ミスタードーナツは数年前まで経営的には苦境に陥っていた。2013年には国内店舗数は1365だったが、14年頃からセブン-イレブンがレジ横にドーナツの専門コーナーを設置するなどコンビニエンスストア各社がドーナツ販売に力を入れ始めたことも影響し、徐々に店舗数は減少。だがコンビニのドーナツ販売に陰りが見え始めると、20年3月期には全店売上高は上昇に転じ、その後は拡大傾向を維持。22年3月期からは店舗数も増加しており、24年3月期には再び1000店舗の大台に乗った。
「コンビニのドーナツ参入を受け、ミスドは100円で安売りするなどの対抗策を打ち、利益が出ないということでフランチャイズ店が離れたこともあり、店舗数が一気に減った。だが、結果としてそれによりミスドの経営はスリム化が進み、外部の人気店・ブランドとの積極的なコラボなどにも励み、そうこうしているうちにコンビニのドーナツが自滅。ミスドは新たな成長局面を迎えることに成功した」(外食チェーン関係者/23年3月10日付当サイト記事より)
目的来店客の比率が上昇
では、なぜミスタードーナツはいつも混雑しているのか。外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏はいう。
「かつて低価格を打ち出すことで集客を増やす戦略を取っていた頃は利益が出にくいという弱点を抱えていましたが、積極的に期間限定のコラボ商品など価格が少し高くても付加価値の高い商品を投入する戦略に転換し、特定の商品狙いで来店する目的来店客の比率が高まりました。実際にゴディバとのコラボ商品の販売期間中の売上高は大きく伸びているようです。単にドーナツが食べたいという動機ではなく、『あのドーナツが食べたい』『今でしか食べられない』と考えて来店する客が多いため、並んでも買うということになります。
他の外食チェーンと同様にミスタードーナツも複数回にわたり値上げを行っていますが、24年3月期の国内全店売上高は前期比118.3%になっており、売上は落ちていません。この数字を分解してみると、客数は同111.9%、客単価は同106.1%とともに伸びており、これだけ客が増えれば混雑していると感じられるでしょう。また、営業利益率は2ケタになっているとみられ、外食企業としては高い数字です」
ミスタードーナツが売上高と利益を維持しつつ、混雑を解消する方策として考えられるものはあるのか。
「外食チェーンはレジの回転率を上げて混雑をなくそうとスマホのモバイルオーダーを導入して、マクドナルドは店舗のレジの数自体を減らしていますが、ミスタードーナツは現時点ではそうした取り組みの優先順位は低いととらえているように感じます。ミスタードーナツもネット注文のシステムを導入したりはしているものの、ドーナツ業界で約8割を占めるトッププレイヤーでブランド力も高く、新規に出店すれば売上が伸びるという状態なので、店内の混雑解消ということに高い優先順位で取り組む必要がないともいえます」(堀部氏)
ミスタードーナツの将来という面で、あえて懸念点をあげるとすれば何か。
「牛丼チェーンは時間帯によってはワンオペでの店舗運営が可能ですが、ミスタードーナツは製造担当と販売担当を分ける必要があり、一店舗あたりの従業員の数がそれなりに必要となります。そのため、人手不足の進展によって従業員の確保が成長の障害になる可能性は考えられますが、ミスタードーナツもそれを見越して、厨房がないタイプの省人型店舗を増やしつつあります」(堀部氏)
(文=Business Journal編集部、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント)