先日、学生のマーケティング事例研究で、ダンキンドーナツを取り上げたグループがあった。筆者が教鞭を執っているフィリピンにおいては、日本同様にミスタードーナツも見かけるものの、圧倒的リーダー企業はダンキンドーナツである。「そういえば昔は日本にもダンキンドーナツがあったなあ」と、あらためて懐かしく思った次第である。
今回は、こうしたドーナツチェーンの日本およびフィリピン市場における動向を探ってみたい。
なぜダンキンドーナツは日本市場から消えたのか?
そもそも世界30カ国に5000店以上を展開する圧倒的リーダー企業であるダンキンドーナツは、なぜ日本市場から消滅してしまったのだろうか。
ダンキンドーナツは1948年にアメリカで創業後、70年に初の海外店舗を日本にオープンさせている。日本の運営は、もともとはセゾングループが担っていたが、その後、吉野家の管理となり、98年には日本市場から撤退している(米軍基地内を除く)。
撤退の理由に関しては、一言で言うならばミスタードーナツとの競争に敗れたためであろう。ミスタードーナツは、もともとはダンキンドーナツの経営にかかわっていた人物が56年に独立してボストンに創業したドーナツチェーンである。日本市場においてはダスキンが運営し、71年に1号店を大阪・箕面にオープンさせている。
では、なぜミスタードーナツとの競争に敗れたのかといえば、日本でミスタードーナツを展開するダスキンが日本市場にマッチした商品の投入、好感度の高いタレントを起用したテレビCMや景品キャンペーンなど、積極的にマーケティングに取り組んだことに対して、ダンキンドーナツを運営するセゾングループや吉野家は本腰を入れて事業に取り組まなかったといったポイントが指摘されている。
ちなみに、この件に関しては、作家の村上春樹氏もコメントしている。村上氏はダンキンドーナツの大ファンであったらしく、「セントラルキッチン制の導入による味の劣化」を指摘している。確かに、ドーナツに限らず、とりわけ揚げ物はできたてがもっともおいしい。
このように、日本においてはミスタードーナツがダンキンドーナツに打ち勝ったものの、逆に本場アメリカではミスタードーナツはダンキンドーナツに吸収され、市場から消えてしまっている。
日本市場における勝者なきドーナツ戦争
長きにわたり、日本のドーナツ市場を席巻してきたミスタードーナツではあるものの、2015年にセブン-イレブンをはじめとするコンビニエンスストアがドーナツに注力して以降、厳しい状況に追い込まれている。そして、また競争を仕掛けたコンビニのドーナツも、当初の計画ほど売り上げは順調に推移せず、新商品の展開など試行錯誤の状況となっている。つまり、限られたパイの奪い合いになっているということだ。
一方、フィリピンのドーナツ市場は順調に拡大している。もともと甘いものが大好きという国民性に加え、所得が向上し、人口も順調に増加している。また、フィリピンのセブンでは、日本とは逆の現象が見られる。すでに述べた通り、日本市場においてセブンとミスタードーナツは敵対関係にあるものの、フィリピンのセブンにはミスタードーナツのショーケースが設置され、ドーナツが販売されている(写真参照)。つまり、パートナーの関係にあるということだ。
「昨日の敵は今日の友」ではないが、日本では敵対関係にあっても海外の市場では協力関係を構築している状況は、ビジネスのしたたかさを痛感させられ、大変興味深い。