大手ドーナツ店チェーン「ミスタードーナツ」が食べ放題サービス「ドーナツビュッフェ」を実施していることは、あまり知られていない。本部も大きくPRしているわけではなく、ミスタードーナツの公式サイト上にも記載はなく、実施は一部店舗のみで基本的には事前予約制。60分間で1800円(税込/中学生以上。一部店舗で異なる場合あり)という価格で、定番ドーナツに加え期間限定ドーナツやパイ類、ドリンク類も対象だが、ミスドピッツァやホットドッグ、飲茶などショーケースに入っていないメニューは対象外となっている。一見すると非常に魅力的なサービスに思えるが、「すぐにお腹がいっぱいになってしまうため、元を取るのは無理」という声も聞かれる。なぜミスドは食べ放題サービスを広く告知せずに実施しているのか、そして客側が「元が取れない」ような価格設定にしているのは意図的なのか。運営会社や識者の見解を交えて「真相」に迫ってみたい。
日本全国に約1000店舗を展開するミスドは、国内の店舗数ベースでは2位クリスピー・クリーム・ドーナツ(約60店)を大きく上回る業界1位。「ポン・デ・リング」「フレンチクルーラー」「エンゼルフレンチ」「オールドファッション」などのドーナツ類に加え、ピザ(ミスド ピッツァ)や飲茶にも力を入れ、季節ごとに期間限定商品も展開。近年は高級抹茶専門店「祇園辻利」やチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」とのコラボ商品を販売し、今年1月からは人気パティシエ・鎧塚俊彦氏とのコラボ企画「misdo meets Toshi Yoroizuka」として「ヨロイヅカ式デニッシュショコラドーナツ」や「ヨロイヅカ式ガトーショコラドーナツ」を販売し、話題を呼んだことは記憶に新しい。
ミスドの大きな競合他社とみられていたのが、同業のドーナツチェーンではなくコンビニエンスストアチェーンだ。2014年頃からセブン-イレブンがレジ横にドーナツの専門コーナーを設置するなどコンビニ各社がドーナツ販売に力を入れ始め、ミスドの脅威になるともいわれたが、現在はコンビニ各社の店舗ではドーナツはパン陳列棚の一角に並べられる程度で、ミスドの地位を揺るがす存在とはなっていない。
「ミスドの店内調理による高品質な仕上がりという本質的な価値に加え、やはりミスドに来る客は店内で友人たちとゆっくり過ごしたい若年層や、手土産用や自分用にバラエティに富んだ商品のなかからたくさんの種類を購入したいという人が主流で、そうしたニーズを満たす面ではコンビニはミスドには勝てなかった」(コンビニチェーン関係者)
「ショップごとに実施の有無を選択できる取り組み」
そんなミスドが提供する食べ放題サービスは、店舗によって詳細は異なるようだが、概ね次のような内容だ。
・事前予約制
・期間限定ドーナツは対象だが、各種類につき1個まで
・パイ類は対象だが、ミスドピッツァやホットドッグ、飲茶、スープなどショーケースに入っていないメニューは対象外
・ドリンク類はコーヒーやカフェオレ、ティー、ミニッツメイド オレンジなど定番メニューは対象だが、タピオカ類やエスプレッソ類、リッチシェイク類は対象外。
・食べ残しは禁止
ミスドのファンにとってはこの上ないサービスに思えるが、SNS上では
<限界まで腹を空かせたので元を取ろうと思ったが1511円食うのが限界やった>
<元取るのは無理>
<あと20分残ってるけどギブしようかな>
<油っぽい 甘い これで元取るのは無理>
<味飽きる>
といった声も見られ、意外にも「元を取る」ほど食べるのは難しい様子もうかがえる。ちなみに
・ミスド ブレンドコーヒー(297円)
・ホットティダージリン(297円)
・ポン・デ・リング(154円)
・チョコファッション(165円)
・フレンチクルーラー(154円)
・エンゼルフレンチ(165円)
・ハニーディップ(154円)
・エンゼルクリーム(165円)
・ダブルチョコレート(165円)
・ゴールデンチョコレート(165円)
で合計1881円となるが、60分以内にこれだけの量をすべて食べ切らなければならないとなると、「嬉しい」と感じるかどうかは人によって分かれるところだろう。そこでミスドを運営する株式会社ダスキンのミスタードーナツ事業本部に聞いた。
――ドーナツビュッフェを実施している旨やサービス内容、実施店舗について貴社HP上には記載がないが、その理由は。
「ドーナツビュッフェはショップごとに実施の有無を選択できる取り組みで、実施日もショップにより異なることからホームページには掲載しておりません」
――ドーナツビュッフェが実施されている店舗は全店舗のうちの何割ほどか。
「ショップによって、変動での実施もありますので、概ねではございますが全体の約15%ほどです」
――実施する店舗としない店舗を分ける基準は何か。
「基準は設けておりませんが、ショッピングセンターなどのフードコートが客席になる立地や、席数の少ないショップについても実施が難しい傾向にございます」
――食べ残しをした場合にはペナルティーなどはあるのか。
「ペナルティーはありませんが、食べきれるようにお客さまにはお願いをしております」
――「元を取るのは無理」との声も聞かれるが、ギリギリで元が取れないような価格設定にしているということはあるのか。
「ミスタードーナツでは選ぶ楽しさの提供を大事にしております。またドーナツの種類によって異なる食感であることも私どもが大切にしていることです。この二つを存分に味わっていただきたい、新商品もお試しいただきたい、そのような思いがあり、また当然お客様次第ではありますが、一定程度は食べきれるであろうドーナツ個数やドリンク杯数を考慮したうえで価格を決めさせていただいております」
店側の儲けが出るように設定
一般的に食べ放題サービスというのは顧客が得するというイメージが多いが、実際には得をする=元が取れるというケースは少ないのか。また、店側としては儲けが出るように料理構成や価格設定を工夫しているものなのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「食べ放題というのは『なんかお得』というイメージがあり、飲食店もそこをウリにしていますが、実際には客側が得をする=元が取れるというケースは少なく、『得した気分』になってもらえるよう用意周到に準備されています。店側として損をせず、ちゃんと儲けが出るように料理構成や価格設定が考えられています。
そこで大事なのは平均値です。日常において人はどれくらい食べるのかを考えてみましょう。たとえば『いきなり!ステーキ』で注文が多いボリュームは300グラムだといわれています。飲食店のハンバーグは一食あたり約200グラムで、これに副菜やライスがついて350~400グラムです。つまり500グラムも食べれば、かなりお腹いっぱいになります。ホテルのビュッフェでいろいろと盛り合わせたお皿を2枚分食べればランチ2食分で、お腹はパンパンになりますが、この状態で800グラムといったところです。
以上より、食べ放題で人はどれだけ食べるのかと聞かれれば、600~800グラムを平均値としてみておけばいいと思います。なので、お店は800グラムをベースに使用する食材を考えます。100グラム100円の食材で料理をつくるなら、800グラムで800円。飲食店の原価率を30%くらいとして、食べ放題の価格を約3.3倍の2600円にしておけば利益を確保できます。仮に価格を5000円にすれば、もっといい食材を使用できますし、1800円くらいにするならカレーやパスタなど炭水化物や、お腹にどっしりくる揚げ物中心の料理構成となることでしょう。すべての食材が同じ単価ではないので、うまくミックスして平均コストを調整します。お客側もいろいろ食べてみたいでしょうから、お互いのニーズはかみ合うはずです。
ちなみに、800グラムで原価率30%の想定で価格設定している場合、その3.3倍、約2.6キロ食べれば本当の意味で『元が取れた』といえるかもしれませんが、普通の人にとっては無理があります。食べ放題は損得を考えるより、『いろいろな料理をいっぱい食べられて幸せ』と楽しむことをおススメします」
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)