(「Thinkstock」より)
電力業界関係者は「あれは緊急事態ではなかった。地域独占の電力供給システムに欠陥があっただけだ」と言い切る。また、送電を物理的に止めてしまった計画停電や電力使用制限令の硬直的な節電対策についても、「ほかに対策はなかったのか?」との声もなくならない。さらに「昨年の春も夏も、消費量を上回る供給能力があった。電力は足りていたのだ。しかし、供給システムが不完全だったため、あんな非効率な節電対策が強行された」と指摘する関係者が多い。
そんな中で浮上してきたのがスマートグリッドだ。スマートグリッドとは、通信機能を組み込んだ送電線を環状に張り巡らし、送電量を供給側と需要側の双方で制御する技術のことで、電力需給の最適化を図る送電網のこと。
現在の送電網は、大規模集中型の発電所から、変電所を経て消費者へ電力を送る「樹枝状」の仕組みで、発電所の発電容量は年間需要のピークを基準に計算されている。このため発電設備の稼働率が低く、運転コストが高くなり、電気料金を押し上げる要因にもなっている。
スマートグリッドは現在の電力供給システムより電力供給の信頼性が高いとして、日本でも導入熱が高まっているわけだが、これに抵抗しているのが、各地域の既存大手電力会社10社だ。その理由について、関係者は次のように語る。
「スマートグリッドが導入されれば、PPS(大口電力ユーザ向けに発電を行う電気事業者)などの、大手10社以外からの電力供給も容易になる。そうなると消費者は大手10社から高い電気を買う必然性がなくなるので、うまみが薄れる。これを心配しているのだ」
欧米がスマートグリッド導入の取り組みを始めた09年頃、「わが国の送電網はすでにスマートだ」というのが、大手10社の見解だった。確かに日本の送電網は高度な通信機能を組み込んでおり、停電発生時もほぼ瞬時に発生個所を特定できるため、1軒当たりの年間停電時間も欧米より極端に短い。
しかし、各家庭や事業者などの受電側に設置している電力計に通信機能がない。このため、検針員が毎月電力使用量を目視検査している。業界関係者によれば、東京電力には約5000人の検針員がいるという。
一方、欧米では受電側にスマートメーター(通信機能装備の電力計)が普及している。例えばすでに全戸設置が完了しているイタリアでは、ユーザの電力使用量を15分ごとに送電管理センターへ自動送信し、電力需要をきめ細かく把握している。
日本では1カ月前の大雑把な電力需要しか把握できないため、「需給が逼迫しそうだ。突発的な停電が起こるかもしれない」と、慌てて計画停電や電力使用制限令を実施した結果が、昨年の混乱だ。大手10社の見解とは裏腹に「わが国の送電網はちっともスマートじゃない」のだ。