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ソニー、“汎用品”PS4好調は復活への序章?ネット+モバイル+メディア戦略の突破口か

文=多根清史
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ソニー、“汎用品”PS4好調は復活への序章?ネット+モバイル+メディア戦略の突破口かの画像1ソニー本社(「Wikipedia」より/Shuichi Aizawa)
 昨今のソニーを見ていると、まるで「二つのソニー」が別々に存在しているかのようだ。一つは、VAIOブランドに代表されるPC事業の売却とテレビ事業の子会社化を行ったソニー。もう一つは、昨年11月から海外で発売された据え置き型ゲーム機PlayStation 4(PS4)の売り上げが絶好調でゲーム事業の先を走るソニー。「没落と勝利」の二本立てといえる。

 PS4販売の先陣を切った北米では、発売から24時間で販売台数は100万台を突破し、昨年末までに販売台数が420万台を超えたとされている(ソニー・コンピュータエンタテインメント調べ)。ほぼ同時期に発売されたマイクロソフトの据え置き型ゲーム機Xbox Oneに正面から競り勝った。ただし、Xbox Oneとの差はわずかだ。PS4の基本セットは399ドル、Xbox Oneは499ドル(いずれも北米価格)で、100ドルの価格差がある上、Xbox Oneが中古ソフト売買の制限につき右往左往するなどスタートに失敗したことが影響しているためで、これらは戦略的な値下げや時の経過により、すぐに埋められそうな僅差だ。

 それにPS4はかつてのPS3のような「革新的なゲーム機」ではない。価格の割に高性能ではあるが、Xbox Oneを圧倒するほどのスペックを誇っているわけでもない。どちらも米大手半導体メーカー、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の「Jaguarコア」(コアとはマイクロプロセッサの中核部分)を採用し、内部の構造も似たり寄ったりだ。「ありもののパーツを強化したゲーム用PC」といえるもので、PS3向けに開発されたCellプロセッサは影も形もない。

「ものづくり」での敗北

 この選択は、複雑すぎてゲーム開発が困難だったPS3に対し、開発をしやすい環境を整えてソフトメーカーの参入ハードルを下げるとともに、高価なハードを買ってまでリアルなCGのゲームソフトを楽しみたいコアゲーマーを呼び込む上では、唯一の正解である。だが、ごくありふれた汎用品から構成され、ハード的には従来のプレイステーションの遺伝子を一滴も受け継いでいないPS4は「エレクトロニクスのソニー」の敗北を形にしたゲーム機だろう。

 あえて負けを認めるのは悪いことではない。現在のソニーのトップである平井一夫代表執行役社長兼CEOは、先代CEOのハワード・ストリンガーがジャーナリスト出身であったのと同じく、エレクトロニクス部門での経験はない。しかし、ストリンガーが放置した、8期連続で赤字を垂れ流していたテレビ事業にメスを入れた平井氏は評価されるべきだろう。テレビ事業はソニーの「ものづくり」の象徴だったため、いわば聖域になっていたともいえるが、そこに手を付けたということは、合理的な経営が期待できる。

 今のところソニーは、モバイル、デジタルイメージング(イメージセンサーや放送機器)、そしてゲーム+ネットワーク部門という3つの中核事業への「選択と集中」を進めている。しかし、国内ではiPhoneを抜く勢いのソニーのスマートフォン・Xperiaも、海外では安価な中国ブランドに押されて世界シェアを2011年の3位から12年には7位に落としている。がぜん、ゲーム事業への注目が高まるのだが、どうにも戦略が見えにくい。

PS4の目指すところ

 端的に言えば「そこそこ安いわりに高価なPC並みの高度なゲームが遊べるお買い得ハード」として好スタートを切ったにすぎないPS4に、今後の明確な展望はあるのだろうか?

 あえて推測するなら、一つにはPSシリーズ向けのネットワークサービスであるPlayStaton Network(PSN)ユーザーの引き継ぎだろう。12年3月時点で総アカウント数は9000万と公表されているPSNは、複数アカウント登録が簡単なこともあり額面通りには受け取れないが、国内で最大級のネットワークには違いない。ユーザーのデータはマーケティングに有用であり、かつPSNはPS3やPS Vitaといったハードに紐付けられているから、ソニーはPS4を出さざるを得ないし、出す意味もある。

 もう一つは、ゲームのほかにビデオ録画や映像配信など「コンテンツの出口」という位置づけだ。すでにPS3がテレビ録画専用機という扱いになっている家庭は多く、PS4も発売時から北米ではNetflixなどの映像配信サービスが提供されている。さらに、高解像度の4K出力への対応が公表されていることから、PS2が「安価なDVDプレイヤー」と言われたように、PS4も「4Kビデオプレイヤー」として新たなメディアの普及の戦略に組み込まれているのだろう。

スマホとの共存を図る

 最後の一つは、「スマホに奪われた顧客の呼び戻し」だ。任天堂の据え置き型ゲーム機Wiiや携帯ゲーム機のニンテンドーDSは同世代のゲームハードと比べて低解像度のシンプルな画像+リモコンやタッチペンといった感覚的な操作がスマホとかぶり、自ら育てたカジュアルゲーム市場をスマホに持って行かれた感がある。

 一方、PS4の高画質+ゲームパッドで操作する重量感のあるゲームは、スマホとかぶらない代わりに、カジュアル層に避けられる恐れはあるが、そこをカバーするのがゲームプレイの実況機能だ。「シェアボタン」一発でストリーミングサービスのUstreamで全世界にプレイを実況できるほか、カメラでユーザーを映す「プレイルーム」もシェアできる。昨年の12月10日時点で生配信数が80万、観戦者数が710万人を超えたというから、滑り出しは大成功だ。

 そうした映像は、PS4やPSシリーズを持っていない人でも、PCやスマホがあれば楽しめる。「PlayStation App」というアプリをスマホやタブレットにインストールすれば、友達のPS4でのゲームプレイを見ることができ、オンラインでPS4のゲームソフトを買うこともできる。これらは他社のモバイル製品を排除していない。PS4は「スマホとケンカせず、共存するハード」なのである。

 ソニーの没落は、要するに「気がつけば身の回りにソニー製品が一つもなかった」ということ。生まれた時からスマホに慣れ親しんだ若い世代を焦点にとらえたPS4が「最初に買うソニー製品」のポジションに定着すれば、同社が復活するきっかけとなるのではないだろうか。
(文=多根清史)

多根清史

多根清史

京都大学大学院法学部・国際政治学修士課程修了。著書に『ガンダムと日本人』、『教養としてのゲーム史』、『ガンダムがわかれば世界がわかる』、共著に『超クソゲー』シリーズや『超ファミコン』『ゲーム制作 現場の新戦略』など。アニメやゲーム、政治やIT関連など、ジャンルを超えて幅広く活躍。

Twitter:@bigburn

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