この上場は同社へ36.7%を出資する筆頭株主のソフトバンク(孫正義社長)に巨額の含み益をもたらす上に、「ソフトバンクは米上場企業、アリババの大株主として評価される」(外資系証券会社のアナリスト)という。
アリババとソフトバンクの関係は、1999年に英語教師の馬雲(ジャック・マー)氏のウェブサイトにソフトバンクが20億円出資したのが始まり。馬氏の事業は、オンライン通販サイト「タオバオ」や電子決済システム「アリペイ」を運営する会社に成長。ソフトバンクの投資案件として最も成功した事例といわれている。
そして注目を集めるのが、アリババ上場をソフトバンクは米携帯電話4位、TモバイルUSの買収にどう生かすかという点だ。TモバイルUSの買収に向けてソフトバンクは米国でのロビー活動に力を入れている。東日本大震災の3周年に当たる3月11日、首都ワシントンで米政府関係者らを集めて孫氏は講演を行い、携帯電話再編の必要性を訴えた。司会を務めたのが、前駐日大使のジョン・ルース氏だった。
13年7月、米携帯電話3位のスプリントを1.8兆円で買収したばかりだが、3位とはいえベライゾン・ワイヤレス、AT&Tの2強の背中は遠い。4位でドイツテレコム傘下のTモバイルUSを買収する3位・4位連合を構想し、巻き返しを図る。
●米国でのロビー活動も強化
その一環として、ソフトバンクはTモバイルUS買収の実現に向けて、ロビー活動に乗り出した。講演会当日、米連邦通信委員会(FCC)元首席法律顧問のブルース・ゴットリーブ氏を米国子会社の上級副社長に招聘。同氏は法律と渉外を担当して米当局への働きかけを強める。FCCは通信会社のM&A(合併・買収)を承認する機関だ。ちなみにFCCは、携帯市場が4社から3社になると競争環境が損なわれるとして、ソフトバンクのTモバイルUSの買収に否定的だ。表向きは独禁法に抵触との理由だが、スプリント買収では「通信インフラを日本企業に渡していいのか」という安全保障の問題が争点になっていたため、TモバイルUS買収に関しても同じ議論が蒸し返されている。
13年12月末時点で、ソフトバンクの有利子負債は9兆2000億円を超えた。支払い利息は15年3月期に3000億円に達する見込みだ。米格付け会社のムーディーズと スタンダード&プアーズ(S&P)は、すでにソフトバンクの格付けを投機的水準(ジャンク債)に引き下げている。
TモバイルUSの買収額は2兆円を超えるが、ソフトバンクはすでに国内外の金融機関からその資金を調達するメドを付けている。買収が実現しても基地局建設などで、さらに1兆円単位の新たな投資が必要になるため、財務状況を改善するためにアリババ株を売却する可能性はある。というのも、ソフトバンクは保有していた米ヤフー株の大半を段階的に売却し、ブロードバンド事業に進出した際の借金返済に充てた。
アリババ上場が、ソフトバンクの米国進出の追い風になることは間違いない。スプリントとTモバイルUSを買収するのがアリババの関連会社なら、米国人の顧客離れを防げるかもしれないからだ。「ソフトバンクを(時価総額で)世界一の企業にする」と宣言している孫氏にとって、アリババ上場はその大きな布石となるか。今後の動向から目が離せない。
(文=編集部)