この狙いは大当たりし、発売直後から大人気となった。レギュラーサイズは当時も今も、1粒10ミリリットルのアイスが1箱に6粒入り(現在の希望小売価格は120円+税)。1粒の大きさは最もみんなの口に合うサイズ、6粒は不足感もないが、「もう少し食べたいな」と思う量に設定してあるとか。
発売当時のパッケージには「フローズンデザート チョコボール」とも記されていた。それまでなかった一口アイスをイメージしやすいように、同社の兄弟会社・森永製菓の製品で、当時から人気だった「森永チョコボール」を意識したようだ。
●個人向けからファミリー層にターゲットを拡大
現在では、幼児から高齢者まで世代を超えて愛されるピノだが、食べ方はさまざまだという。「例えば、20代の男性ユーザーは『冷蔵庫に常備して、まず3粒食べて、残りの3粒は次の楽しみにとっておく』そうです」(木下氏)。現在のピノのCMキャラクターは人気アイドルグループ・嵐の櫻井翔。風呂上がりに冷蔵庫からピノを取り出すシーンは、このユーザーを髣髴させる。
ピノの歴史を振り返ると、発売16年目で大きな変化があった。92年に1箱24粒入りのマルチパック(当時。現在は26粒入りで商品名は「ピノ チョコアソート」。希望小売価格は500円+税)を発売。個人向けだけでなく、ファミリー層にも訴求対象を広げたのだ。
中身は定番のバニラ(バニラアイスをセミスイートチョコでコーティング)に加えて、アーモンド味(バニラアイスをアーモンドチョコでコーティング)、チョコ(チョコアイスをビターチョコでコーティング)など、味に変化をつけている。一部の中身は入れ替えるが、発売以来、アーモンド味を外したことはないそうだ。この戦略も、違う味を少しずつ楽しみたい消費者からの支持を受けて、売り上げ拡大に大きく貢献した。単価が高いので、販売店からの評判もより高まった。
さらに04年からはいちご、キャラメル、抹茶などの季節限定商品(同社内ではフレーバー品と呼ぶ)を発売し続けている。こちらは中身もバニラアイスではなく、それぞれの味に変えたもの。いちごや抹茶のような人気フレーバーは、その後、何度も登場してきた。
こう説明してくれた木下氏に「気温が28度を超えると売り上げが落ちて、氷菓に取って代わられるのですか?」と聞いたところ、「そうした話は知っていますが、データで見る限り、大きな影響が出ているとは思えません」と話していた。
●「オリジナル ピノ」のイベントも話題に
マーケティングの世界では「ロングセラーブランドは、顧客と共に年を取る」ともいわれる。例えば、化粧品などが長く消費者に愛用されていると「おばあちゃんの鏡台に置かれているイメージのクリーム」と若い世代に認識されるようになることがある。一度そうしたイメージがつくと、若い世代を取り込みにくくなる。
その例外となったのがヘチマコロンだ。大正時代に発売されて、古めかしいイメージが強かった同商品だが、若い女性の口コミで人気が広がり、客層が大きく若返った。最近も若い世代に安定した人気を得ている。
ピノもバニラ味だけにこだわっていたら、発売当時の若者が年を取った今、“中高年御用達のブランド”となっていたかもしれない。そうした高齢化に陥らないために、さまざまな仕掛けを行ってきた。
例えば、同社の公式サイトで今年2月17日から3月16日まで実施したのが「ピノ コーティングチョコ 人気ランキング」だ。結果は、抹茶チョコが圧倒的人気(8290票)で1位。以下、2位・アーモンドチョコ(5295票)、3位・チーズチョコ(4081票)、4位・ビターチョコ、5位・ホワイトチョコ、6位・ストロベリーチョコ、7位・紅茶チョコの順。
チーズが3位とは意外に思えるが、木下氏は「スイーツの世界でチーズケーキが定番となっているように、ピノでもレアチーズ味を発売したことがあるのです。当社の別ブランド『MOW』(モウ)でも、クリーミーチーズ味は人気となっています」と説明する。
この結果も踏まえて4月13日、東京ソラマチ(墨田区)で「ピノ フォンデュカフェ」と呼ぶイベントを開催した。100種類以上の組み合わせからアイス+チョコ+トッピングを、自分の好みで選べる試みだった。参加無料の効果もあって、同社の想定以上に来場者が殺到。急遽、整理券を配ったが、かなり長い待ち時間が生じたという。
ピノのような定番商品は特に、トレンドのほんの少し先か、同じぐらいのスピードで消費者に寄り添って歩くような“温かみ”も求められる。パーソナルからファミリーに広げ、そしてまた、よりパーソナルに振る。こうした刺激策で新たな客を呼び込みつつ、離れていった客も呼び戻す。