●なぜ、商圏外でCMをオンエア?
さて、CMの話に戻りますが、実はマルイの店舗がない北海道や九州などでもオンエアされているのです。はたして、札幌の人がこのCMを見たら大きな疑問符がつくのではないでしょうか? カードをつくろうと思っても、マルイの店舗という新規加入の窓口はなく、すでにエポスカードを持っていてスリーピング状態となっている人は極めて少数でしょうから、その掘り起こし狙いというわけでもないはずです。
では、なぜこのような一見無駄とも思えることをしているのでしょうか?
エポスカードは、マルイ店舗以外での外部利用を促進するため、他の事業体との提携カードの発行や、各種割引などのサービスを充実させようとしています。そこで、パートナーとなる企業を増やそうと懸命になっているのです。
例えば、エポスマークの付いた提携カードでは、「ノジマエポスカード」「シダックスエポスカード」「アパエポスVISAカード」などがあります。
つまり、商圏外でのオンエアは、魅力あるサービスの確立と加入者拡大の下地をつくることが目的なのです。そこで、こうしたCMが流れていれば、提携を検討している企業の担当者と商談をする際も「CMで見るエポスカード」の印象を持ってもらえれば、スムーズに進むというわけなのです。
そしてまた、マルイの店舗のない地域では、こうした提携先の店舗を窓口として入会を促すこともできるのです。
●ライバルは「楽天カード」
クレジットカードが群雄割拠している状況にある今、エポスカードをはじめとしたクレジットカード各社が最も注視しているのは、「楽天カード」です。
タレント・川平慈英の目がカードで隠されている「楽天カードマン」に扮するコミカルなCMと、大量の広告投下で記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。お得感を前面に押し出した勢いはかなり強く、まさにCMのとおり、8秒に1人のペースで新規加入しているという状況です。
ところで、竹野内豊を起用する前、すなわち昨年までのエポスカードのCMは、提携先でのポイントが5倍となることなど、お得感のみを訴求する内容でした。
とはいえ、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの楽天カードとコミュニケーション戦略の方向性を同じにすることが得策とはいえません。
しかも、マルイはファッション性の高い商品を販売している百貨店です。そのマルイが発行するクレジットカードが「ダサい」と思われたら、常に持ち歩いてもらうカードとなることは難しくなるでしょう。
つまり、マルイのファッションをベースとしたセンスも大事。「楽天カード」とはイメージで一線を画すことが重要なのです。そこで、竹野内豊の起用に至ったのです。
●なぜ、竹野内豊を起用?
エポスカードとして生まれ変わってから8年目で、有名タレントを起用するのは今回が初めてです。それだけに、タレントの印象がブランドイメージとして今後強く残っていくことになります。
タレントの起用に当たっては、当然ながら、競合他社のクレジットカードや金融関連のCMに出ていないことが大前提です。そのうえで、カードのファッション性の高さや信頼性、安心感までも担保するタレントでなければいけません。
今回抜擢された竹野内豊からは、「洗練された大人の男性」というイメージが想起されます。その一方で、包み込むような優しさ、人間味のある温かさも感じられます。これこそが、彼が人々を魅了してやまないゆえんといえるでしょう。
また、彼が起用されている缶コーヒーの広告も、目にする機会が多いのではないでしょうか。他社の広告ではあるものの、エポスカードと同様のCMトーンで相乗効果が十分に期待できます。さらに、2月に公開された映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』(東宝映像事業部)では主演を務めており、話題性も抜群です。
そして、同じマルイグループの商品ブランド「ラクチンシリーズ」CMに先行して起用された俳優の田辺誠一、女優の松雪泰子と大きくイメージが掛け離れないことも重要になります。
こうしたさまざまな観点から、竹野内豊の起用はベストチョイスであったといえるでしょう。