小泉氏は、「原発は安全ではないし、金食い虫だ。強引に再稼動を進めようとする気が知れない」と強調している。その小泉氏は、推進会議の理事就任に合わせ、これまで就いていた財界主導の民間シンクタンク「国際公共政策研究センター」顧問を4月末に辞した。同センターは小泉氏の労をねぎらう目的で2007年、経団連会長(当時)だった奥田碩トヨタ元会長が呼び掛けて主要企業80社が約18億円の資金を出し合い設立された経緯があり、原発関連企業も名を連ねている。
同顧問辞任は小泉氏から申し出たといわれており、脱原発への明確な意思表示と受け止められる。しかし、その本意は、世の中の流れに敏感な小泉氏が、政治的なバックボーンを原発推進派の財界から脱原発派の企業に乗り換えたものと永田町では囁かれている。その新たなバックボーンこそ、孫正義氏が社長を務めるソフトバンクにほかならない。
ソフトバンクは、全国で大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設を推し進めており、「自然エネルギー推進会議」の裏には孫氏が控えている。孫氏と小泉氏は、次世代のエネルギーに関する政治的な利権を得ることを目論んでいるとの見方もあり、小泉氏は次期福島県知事選について「特定の候補を応援することはない」と政治とは距離を置く発言を繰り返しているが、「来春の統一地方選が視野に入っているのでは」と永田町関係者は警戒している。
その孫氏は、ソフトバンクのグループ会社SBエナジーがメガソーラーを全国15カ所に設置し、風力発電所も15年中に稼働させる計画であり、「5年で採算がとれる」(孫氏)と豪語している。
●元首相をエネルギー事業の広告塔に
また、昨年11月には、福岡市で産業用燃料電池発電システムの稼働式を行った。固体酸化物形燃料電池で、ガスや火力発電よりも効率が高いとされる。政府の固定買取制度を利用した再生可能エネルギー事業は、まさにリスクのない“濡れ手で粟のビジネス”ともいわれている、巨大なインフラ事業を得意とする孫氏が目をつけないわけがない。反原発が盛り上がれば盛り上がるほど、再生可能エネルギーに対する国民の期待は高まり、事業の広がりが見通せることになる。そこに細川氏、小泉氏という国民に人気のあった元首相が加われば、最高の広告塔の役割を果たしてくれるわけだ。
自然エネルギー推進会議は、福島や新潟などの原発立地地域で対話集会を開くほか、電力・エネルギー政策で提言も行う予定で、小泉氏は脱原発について、「死ぬまで頑張らなければならない」と5月7日の設立総会で気勢を上げた。細川氏は体調不良を理由に当面は活動を休止するとの一部報道もあるが、両元首相が脱原発を叫び、原発再稼動が遅れれば遅れるほど、孫氏が進める新エネルギー事業は潤う。まさに機を見て敏なりの孫氏といえそうだ。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)