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ブラック企業アナリスト・新田龍「あの企業の裏側」第23回

裁判官による性犯罪、なぜ多発?被害者を恫喝、和解を強要…絶望の裁判所の実態

文=新田龍/ブラック企業アナリスト
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 このようにストレスがたまる仕事を続ける中で、裁判官のモラルも非常に低下している。

 そうした裁判所の実態を表すエピソードとして、こんな事実がある。瀬木氏が最高裁民事局の局付として勤務していた時に、ある国会議員が裁判所の不祥事を追及する質問をしてきた。そのため最高裁事務総局内部では、これに回答するための協議が秘密裏に開かれた。その協議の最中、局の課長を務める裁判官がこう言ったという。

「俺、知っているんだけどさ、こいつ(国会議員)、女のことで問題があるんだ。(質問対策として)そのことを、週刊誌かテレビにリークしてやったらいいんじゃねえか?」

 最高裁事務総局に勤務する裁判官が、裁判所の実態を隠ぺいするためにスキャンダルリークで対抗しようと主張したのだ。結局彼の意見は採用されなかったが、これは「良識に基づいて行動すべき」裁判官の倫理とは真逆の態度である。しかも、この発言をした裁判官は、その後最高裁の裁判官にまで出世していったという。このような発言をする体質の人間がトップになるということは、最高裁がこのような体質を裁判所全体に広めていっているといえるだろう。

 結果として裁判官の不祥事が増加している。セクハラ、パワハラ、モラハラ等も多く、2000年代に入り児童買春、勤務時間中のSMメール、ストーカー、痴漢、盗撮、強制わいせつなど、性犯罪系の不祥事が多発している。

●うつ病を患い、自殺する裁判官も

 こんな実態の裁判所に入ってしまった裁判官の中には、精神的に病んでノイローゼになる人も多い。ほかにも、うつ病になって痛ましい自殺を遂げた裁判官、自宅を出て何日も徘徊していた裁判官、裁判長からのパワハラに悩みノイローゼとなった裁判官等、問題が多発している。こうした事柄の多くは公表されず、そのような裁判官が退官に追い込まれるかたちで隠ぺいされているという。

 そして、このようにして事件当事者の心の痛みを理解することなく、良心や良識を捨て、淡々と大量に事件を処理できる人間だけが、裁判官としての出世の階段を上る状態になってしまっている。民事の裁判官の間では「先月は和解で12件も落とした」「今月の新件の最低3割は和解で落としてやる」などといった会話が交わされており、そこには良心の片鱗もない。最高裁事務総局も、多少でも自身の意見を表明する裁判官は出世させない。むしろ、現在では、裁判官を採用する段階から、その人間の能力だけではなく、その人間性が「組織(裁判所)に馴染む人物かどうか」を考慮して選ぶようになってきているという。

 このような実態の下、司法制度改革の一環として裁判員制度が導入され、一般市民が重大な刑事事件裁判に参加するようになった。施行から今月21日で5年が経過し、5万人を超える裁判員が刑事裁判に参加したが、この制度のあり方もゆがんでおり、裁判員となった市民には非常に広い「裁判員の守秘義務」が課され、少しでもその内容を明かせば6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金刑とされている。これにより、裁判員の意見を密室で抑え込むことが可能となってしまっている。

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」では、評議の過程だけでなく、その中で述べられる裁判官の意見などもすべて守秘義務の対象となっている。この規定の主旨は、裁判員の個人情報等を被告人による報復等から守るためであったはずだが、評議における裁判官の意見まで秘密情報となっている理由は疑問で、改正を求める声が多い。

 このような裁判所の実態に嫌気が差した瀬木氏は、2012年3月に退官して大学に移った。著書や論文が多く、自身の意見を主張することが多い瀬木氏もまた、最高裁事務総局にマークされていた可能性があり、当時勤務していた裁判所の所長からの退官、転職を口外することもギリギリまで禁止され、その上退官前に、たまっていた有給休暇の消化を申請すると「そんなに有給休暇を取らずに、早く辞めてはどうか」などと執拗に迫られ、事実上早期退官を強要されたという。これは憲法78条の裁判官の身分保障の主旨に反する行為である。

 本書の内容からすると、これまでの報道で一部の裁判官の問題とされていた事実が、実際には一部ではなく、想定していたよりも広範囲に及んでいる可能性があり、まさに「絶望の裁判所」と呼ぶのが適当な実態だいえる。

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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