JR九州に先を越された東日本旅客鉄道(JR東日本)は、豪華寝台列車の運行を2017年春に始め、西日本旅客鉄道(JR西日本)も同列車を同年春から運行する。各社とも団塊世代や日本を訪れる外国人観光客をターゲットにしている。
13年10月15日に「ななつ星」を走らせた立役者の唐池恒二氏が6月27日付で社長を退任した。これまで長期政権が目立った同社にあって、5年の在任期間は短い。後を継ぐ青柳俊彦専務は唐池氏と同期入社であり、この異例人事に社内外から驚きの声が上がった。今回の社長交代のきっかけは、九州新幹線の全線開通を主導した石原進会長が引退することだ。
JR九州は実質的に国が株主の特殊法人。特殊法人の取締役の在任期間は20年、定年は70歳と定められている。石原氏は1993年6月に取締役に就任しており、在任は20年を超え来年に70歳になるため相談役に退く。石原氏はNHKの経営委員を兼務しており、今後は財界活動に軸足を置く。会長を空席にするわけにはいかないので唐池氏が会長に繰り上がった。新社長の青柳氏は祖父、父も旧国鉄に勤務した国鉄一家。青柳氏自身も鉄道部門一筋で九州新幹線鹿児島ルートの全線開業に鉄道事業本部長として携わった。JR九州としては、初代社長以来17年ぶりの技術畑出身のトップである。
国交省、JR九州上場の検討へ
そしてこのタイミングで国土交通省は、JR九州を16年度までに上場させる検討に入った。新社長の目下の経営課題は上場を達成させることだが、目標達成に向けては難問山積だ。JR九州の14年3月期連結決算の売上高は前期比3.5%増の3548億円で、4期連続の増収で過去最高を更新した。営業利益は同19.7%増の90億円、当期利益は同91.2%増の115億円と、いずれも2期ぶりの増益となった。
採算が厳しいローカル線が多く鉄道事業の営業損益は149億円の赤字。収益性の高いマンション販売や駅ビルなどの不動産事業と、コンビニエンスストア、ドラッグストアの小売事業などの関連事業の儲けで、鉄道部門の赤字を補い営業黒字にした。最終損益が大幅増益となったのは、経営安定基金の運用益で最終利益をカサ上げしたからだ。
1987年の国鉄の分割民営化の際に、慢性的な赤字が予想されたJR九州、四国旅客鉄道(JR四国)、北海道旅客鉄道(JR北海道)の3島会社には経営安定資金が渡された。JR九州の経営安定基金は4201億円で、基金の一部を独立行政法人、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に高利回りで貸し付けて運用している。市場金利が下がっても一定の収入が約束され利益を底上げしてきた。14年3月期の基金の運用益は120億円で前期より22億円増えた。関連事業の利益が鉄道事業の赤字を上回ったとはいえ、基金頼みの経営であることに変わりはない。
上場するからには、まず基金を国に返済するのが先決との指摘もある。安定した経営には基金の運用益が欠かせないとしても、株式を公開して民間企業となる以上、基金を残しておくのは経済原理にそぐわないからだ。そのため、「JR九州の上場には基金の扱いをめぐって、一波乱あるかもしれない」(業界関係者)との見方もある。
JR九州の上場計画では、16年度の売上高3700億円(13年度3548億円)、営業利益250億円(同90億円)の目標を掲げる。鉄道事業の黒字化、分譲マンションの販売実績で九州トップ、さらに海外事業に挑戦することを標榜している。
上場計画の目玉、新幹線輸出に暗雲
海外事業の挑戦は、タイへの新幹線輸出である。タイのインラック前首相がJR九州の事業に関心をもったのが発端だ。インラック首相(当時)は12年4月に来日した際に、九州新幹線や観光列車に試乗。列車の内装、座席などの素材に九州の特産品を使い「走る一村一品」となっていることを知り、「タイの鉄道整備の参考にする」との意向を表明した。ちなみにタイでは、インラック首相の兄・タクシン元首相が大分県の一村一品運動を国の政策に取り入れ、農村の所得拡大につなげた実績がある。
高速鉄道を地方振興の起爆剤としたいインラック氏にとって、九州新幹線は格好のモデルと映った。インラック氏の意向を受けて13年5月、JR九州はタイ国鉄と協力関係を結ぶ覚書に調印。JR九州はタイ国鉄の安全・定時運行のためのシステム構築や観光列車導入、駅ビル開発を支援することになった。
インラック首相はバンコク市を中心に総距離1450キロメートルの高速鉄道網を整備する計画を打ち出した。総事業費2兆5000億円の巨大プロジェクトだ。JR九州は、JR東日本、三井物産、三菱重工業と企業連合を組み応札の準備を進めてきた。ところが5月22日、タイでクーデターが勃発。インラック首相は失脚し、入札は延期。反タクシン派は巨額な借り入れによる財政悪化を懸念。高速鉄道計画をめぐり両派は激しく対立してきた。高速鉄道計画が予定通り進められるかどうかは、まったく不透明になった。JR九州はタイへの新幹線輸出を上場の目玉にするつもりだが、もしそれが白紙になってしまった場合、16年度までの上場にも暗雲が立ち込めることとなる。
(文=編集部)
【続報】
JR九州の青柳俊彦・新社長は、上場に向けて赤字の鉄道事業について2017年3月期の黒字を目指すことを、改めて表明した。青柳氏は6月27日に社長に就任したばかりだ。割引切符などを活用して鉄道収入を増やすほか、みどりの窓口を減らすなどでコストを削減する。16年3月期から九州新幹線の車両の減価償却費が減ることもプラスに働く。上場に際してネックになるとみられているのが経営安定基金だが、青柳社長は「上場した後も、鉄道事業の運営には必要。国に(JR九州の)考え方を伝えていきたい」と述べた。しかし、基金頼みの経営では純粋な民間企業とはいえないため、株式を公開するからには、まず基金(4201億円)を国に返済すべきだという指摘もある。また、17年3月までという上場目標時期については、少しでも前倒しを目指すとしている。