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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第21回

USJの行列、ファストパス導入で待ち時間は長くor短くなる?弱者有利の行列の経済学

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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●ファストパスで待ち時間は長くなる?

 さて、行列ができるということは、運営する側にとってはいい話ばかりではない。評判がよいということでお店のオーナーにとってはうれしいかもしれないが、行列に並ぶ時間が長いほど、顧客はだんだん不機嫌になってくる。少し粗相があろうものなら、「あんなに並んだのに、結局はこの程度だった」と悪評も立つ。トラブルも起きやすくなる。要は現場で運営をする者にとっても、顧客と同じくらい、行列が長すぎるということはあまりよいことではない。

 そのような観点から発明されたのがファストパスである。USJの場合、正規入場料6980円(税込)に加えてユニバーサル・エクスプレス・パス 5(日によって価格が異なるが税込で4400円から)を購入することで、ハリー・ポッターのアトラクションを並ばずに待つことができる権利(ファストパス)が手に入る。経済学の観点でいえば元も子もないが、機会コストの低い人は行列に並べばいいし、機会コストが高い人は6割ちょっと割増料金を払うことで行列に並ばなくてもいい。ふたつの選択肢から選べますよということなのである。

 とはいえ、テーマパークは事情があって行列に並ぶことを選択した来場客にも、やさしい手を差し伸べるよう努力している。例えば行列が長くなってくると、そこに偶然のように(実は計算がつくされているのだが)人気キャラクターの着ぐるみが通り過ぎて来場者に手をふってくれたり、即興でジャグラーや道化師がちょっとしたショーを見せてくれたりといったことが起きる。待っている間にそのようなイベントが起きると、待っている気持ちがリセットされて、それからしばらくの待ち時間が、それほど気にならなくなるものなのだ。

 さて、ファストパスが導入されると、行列の待ち時間は変わるのだろうか?

 いろいろな研究があるが、結論は待ち時間が変わらないか、長くなるかどちらかだ。というのは、ファストパスを手に入れた人も、並んではいないだけで行列に参加していることになる。一般的には、これまで振り落とされていた機会コストが高い人も行列に加わることになるため、有料のファストパスが導入されると行列の待ち時間は長くなる。例外としてハリー・ポッターのように人気が高過ぎて施設のキャパシティ限界まで稼働してしまうようなアトラクションの場合、実質的な入場制限がかかるため、行列に並ぶ人の数はファストパスがあってもなくても同じということになる。

 結局のところ、ハリー・ポッターのような人気のアトラクションに並んでも体験したいという人の数は、増えることはあっても減ることはない。つきつめるとファストパスを導入することは、待ち行列がどうしても存在するという前提で、来場客に少しでも楽しい体験をしてもらうための最善の対応策なのである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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