7月、世界最大の旅行口コミサイト「Trip Advisor」運営会社の日本法人トリップアドバイザーが、これまであまり注目されていなかった転職のインターバルに行く「転職旅行」の実態調査を公表した。年間100万人、市場規模は1290億円にもなる転職旅行について同社の三橋竜二氏に話を聞いた。
「当社はベンチャー企業ですから、社員のほとんどは転職者です。ある時、社内でお互いの転職旅行が話題になり、それで調べてみようということになったのです」
転職の合間に旅行に行く人が多いとすれば、この転職旅行は旅行市場の中の隠れた金脈であるかもしれないと、注目したのだ。そこで調査を始めるに当たって、三橋氏は検索サイト「Google」 で転職旅行について検索してみたが、特にヒットする項目はなかったという。
●転職旅行の市場規模は1290億円?
総務省統計局の労働力調査によると、2013年の年間転職者数は約286万人で、トリップアドバイザーの調査では、転職経験者のうち35%が転職の合間に旅行をしていると回答している。つまり、年間約100万人が転職旅行をしている計算になる。しかも、転職旅行には家族や友人など、同伴者がいることも多いようだ。
ちなみに新婚旅行者数は年間108万人、卒業旅行者数が同43万人といわれており、これらをはるかに超える人数になる。
さらに、市場規模を見てみると、転職旅行の費用は1人当たり平均12万2000円(国内旅行6万2000円、海外旅行19万8000円)という結果になった。これは新婚旅行の1組当たり平均47万500円(女性向け情報サイト「OZmall」調べ)には及ばないものの、卒業旅行の1人当たり平均12万6250円(日本旅行調べ)とほぼ同じである。
この数字から市場規模を計算すると、転職旅行が1290億円、新婚旅行は2550億円、卒業旅行は550億円となる。転職旅行は、人生の中で大きな節目の旅となっているという実情が見えてくる。
この調査結果について、三橋氏は「転職者が多いことから、ある程度の人たちが転職旅行に行っているというのは推測ができましたが、これほどの市場規模があることは、当社でも想定していませんでした。これは旅行業界の穴場だと思いました」と驚きつつも、今後のビジネスの可能性に期待を寄せている。
●転職旅行の定着を図る
今回の調査結果の中で注目したいのが、転職旅行経験者は、旅行そのものの満足度が99%と非常に高いのに対し、84%の人が転職旅行に行く際に「気を使った」と回答しており、旅行中も70%の人が「必要以上に周囲に伝えないように配慮した」、9%が「できるだけ誰にも伝えずにいた」と回答するなど、多くの人が転職旅行に対して若干の後ろめたさを感じていることが明らかになったことだ。これは、転職旅行という言葉が、新婚旅行や卒業旅行と比べて一般化しておらず、まだ気兼ねなく楽しめるような社会的な環境になっていないことに原因があるようだ。
「トリップアドバイザーでは、『がんばったとがんばるの間に』をキャッチコピーに、転職旅行専用サイトを開設しました。サイトでは今後、転職旅行の際に必要な手続きや転職旅行を安全に楽しむために必要な知識など、順次情報を拡充し、より多くの人が転職旅行を気兼ねなく楽しめる環境づくりを応援していきます。卒業旅行のように、転職のタイミングでは旅行に行ってリフレッシュして、次の職場でがんばるということを定着させられればと考えています」(三橋氏)
今までは、ちょっと気兼ねしながら行っていた転職旅行。しかし、人生の節目の自由な時間に旅に出たくなるのは、今も昔も変わらない。もっと堂々と行けるようになれば、日本経済も元気になっていくのではないだろうか。
(文=大坪和博/PLAN G代表)